ポケモン冒険小説

□エンジュ祭
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 一歩踏み出すだけで、重厚な雰囲気がある場所だと分かった。アサギシティと匂いがずいぶん違う。潮の匂いがしないのだから、当然とも捉えられるが、ずっと古い木造の家屋にいるような気分にさせられる。

 そんな中、深く息を吸って、風情も歴史も完全無視で緊張した面持ちの少女がいた。

「マツバ、ゴーストタイプのジムリーダー、初心者を相手にする時の手持ちポケモンは、ゴース一体、ゴースト二体、ゲンガー一体。でも、それは去年までの話。今年からは手持ちにムウマ、ムウマージ、フワライド、ヨノワールを加えてるって情報が…」

 長い前髪を垂らして、ひたすらぶつぶつと呪文を唱えている。濃い紫色の髪をしたこの少女とは対照的に、明るい表情の少女はご機嫌だ。彼女の腕の中にはヤドンのヤドさん、肩にはアーケン、頭の上にヨマワル、足元にはブビィがいる。

「あぁ、またミカゲさんのジム戦が見られるなんて、楽しみで楽しみで至極の喜び且つ娯楽と言いますか、でもドキドキがありまして、胸のときめきが止まらなかったり、これこそ実は吊り橋効果だったりするのでしょうか?あ、冗談半分です。私の愛のほとんどはカイオーガに捧げるつもりなのですけども、ミカゲさんのことも結構好きなので、はい。冗談半分本気半分ってとこなのです」

 真っ赤な髪とショッキングピンクの瞳が、その端正な顔立ちを引き立てる。完璧なプロポーションを誇る長身の体が躍った。

「それでそれで!ミカゲさん、ずっとサナギラスさんとイーブイさんと一緒でしたよね?いつもそうだと言われれば、そうかも知れないんですけど、でも、いつも以上に一緒にいたあたり、今回のジム戦でメインになるのはその…」

 二体ですか?と続けようとしてミカゲと呼ばれた少女に口を塞がれた。小柄な体を思いっきり伸ばして、無理やり黙らせている。

「もううるさいなぁ!なんでずっとついて来るんだよ!今緊張してんのわかんねぇ?」

 明らかに八つ当たりだが、ミカゲにそんなことを気にする余裕はなかった。二人の間に若い男が入って制した。

「まぁまぁ落ち着いて。ミカゲ、緊張してイライラするのはわかるが、誰かに当たるのは良くない。カルミアちゃんもあまりジム戦のことを出さないであげようじゃないか。彼女は結構な上がり症みたいだし」

 古い街並みの中で紫のタキシード姿の彼は異常に悪目立ちしていたが、言っていることはまともだ。しかしその実、この男は自称スイクンハンターのミナキという、伝説のポケモンを求める変人である。

 風が強く吹いて、街の間を、家屋の間を通り抜けた。

「……景観としては、良い街だ。でも環境によりけりか」

 北風に心でも洗われたのか、ミカゲは急に落ち着いた。ミナキは頷くと、エンジュシティの見どころを語り始める。

「そりゃ目的はジムだろうけど、それだけで終わるのは勿体ない。スズの塔は奥まで入れないが、焼けた塔なら隅々まで見れる。観光していくか?」

 しばらく考えると、ミカゲは静かに頷いた。その反応に、ミナキは小躍りするようにつづけた。

「実は、焼けた塔は私にとっても思い出深く、スイクンにとっても非常に思い出深い場所なんだ!」

 彼は、少女二人に焼けた塔の伝説を語り始めた。
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