ポケモン冒険小説
□アサギシティ攻略
1ページ/14ページ
朝7時のポケモンセンターの宿泊施設から呻き声が響いている。最奥にある部屋のベッドに眠る一人の小さな少女。彼女は悪い夢でも見ているかのように、真っ青な顔で苦しんでいた。理由は簡単だ。少女の上に二人の同い年のトレーナーとヤドンが圧し掛かっているからだ。総重量は100sを越えるが、それで何とかなっているのは、ゲンガーと一緒のベッドで眠っていたので、重さが分散されたからだ。
「起―きーてーくーだーさーいー、ミカゲさ〜ん」
ヤドンと一緒にゴロゴロとミカゲを転がしている少女カルミアは、身長相応の体重があるので、ミカゲとゲンガーの上に乗っている者の中で、一番重いのだ。その隣で仰け反りかえって体重を乗せてくるのはツルギだ。背中をマッサージするかのようにぐりぐりとミカゲにダメージを与えている。
「ごはーん。ご飯だよ〜ミカゲちゃ〜ん。朝ごっは〜ん」
それでも目を覚まそうとしないのは眠りに対する相当の執念があるからだろうか。ミカゲはぼそぼそ何か呟いてゲンガーにしがみついた。そのゲンガーは薄ら赤い眼を開けた。カルミアとツルギを払いのけて、ヤドンを床に落とした。ベッドから抜け出ると、パジャマ姿のミカゲをおぶる。
「え?このまま食堂行き?」
「わぁ〜ミカゲさん寝顔が子どもみたいですね〜」
二人の言っていることなど耳にも届かず、眠ったままのミカゲはゲンガーを強く締め上げる。一見プロレス技の様だが、単に抱きついているだけだ。かなり強めにだが。
「そいえば、ツルギ君も今日アサギジム挑戦するんですよね?」
カルミアの問いに満面の笑みで応える。
「そうだよ。カルミアちゃん観に来る?」
ニコニコと、好意と下心丸出しの顔で、ツルギはカルミアを見上げた。何せ身長差があるのだ。かっこよく誘いたいところだが、どうしても顔を上向きにしなければならない。
――カルミアちゃんが今の身長で止まってくれたら、僕が17、8にもなったら追い越せるかな…。
煩悩を煩悩と煩悩で挟んでサンドウィッチにでもしたかのような思考回路のツルギだが、部屋を出た途端にミナキに捕まった。
「君は一体ここで何をしてるのかな?」
ミナキに頭を鷲掴みにされて、前に進めない。ぎりぎりと力を強めてくる辺り、ツルギは自分が何かしただろうか、と朝起きてからの行動を思い返した。
「何って…ミカゲちゃんを起こそうとしに、ね!」
ついでにカルミアちゃんの寝顔が見れたらラッキー的なね!とは口に出さなかった。
「そうかそうか、それで女子部屋に何の躊躇もなく入って行ったのか」
「何が駄目なのかなぁ〜友達を朝食に誘うなんて当然でしょ」
幾許かの下心はあったが、ツルギは至って真面目に答えた。だが、ミナキの背後にいるジョーイの冷たい視線に凍りついた。カルミアは興味深そうに事の成り行きを遠くから見守っている。
「女子部屋と男子部屋が分かれているんだから気づかないかしら?立ち入り禁止よ!大体何て恰好をしているの!これじゃ犯罪者と間違われてもおかしくないのよ!?」
そう叱られ、ツルギは自分の体を見た。例のツルギ自慢の競技用水着だ。それ以外は一切身に纏っていない。言ってしまえば下着一枚でうろうろしている変態のようなものだ。
「ちゃんと履いてますよ?」
ミナキは頭を抱えて呻いた。これが彼の常識なのだ。
「水着は服でしょ!僕の家の周りの人はみんなこれですけど?何がおかしいの?」
この理論が通じるのは、海辺のリゾートで生まれ育ったツルギだけだ。彼は自分はおかしくないと主張しているが、一番の問題は勝手に女子部屋に入ったことだ。海パン一枚で。
「とにかく、保護者に連絡させていただきます!ついてきなさい!あなたも!」
ツルギと一緒にいた大人、というわけでミナキも連れて行かれてしまった。とばっちりではあるが、本人はそれなりに責任を感じているようだ。がっくりと肩を落としながら連行されていった。
「…ん?ゲンガーだ…おはよう…」
と、ここでやっとミカゲは薄らと目を覚ました。
「…何で廊下にいんの?」
「ゲンガーさんに運ばれたんですよ」
「そうか…ふん……」
ミカゲは二度寝を始めた。依然としてゲンガーの背中にへばりついている。
両手で抱えたヤドンを持ち直した。
「とにもかくにも朝ごはん、大事ですよね!」
珍しくまともな判断をしたカルミアは、ゲンガーと共に食堂へ向かった。