ポケモン冒険小説

□鬼神の話
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 世界中を回る豪華客船サントアンヌ号が、イッシュ地方のヒウンシティからオーレ地方のアイオポート、シンオウ地方のミオシシティ、カントーのクチバシティに泊まり、ジョウト地方のアサギシティに向かっている頃、この大型クルーズ船のスカイデッキの手すりに身を乗り出している少女が一人。長くて濃い紫色の髪を風になびかせて、潮の匂いを全身で感じている。

 彼女の名前はミカゲ。オーレ地方のアイオポートから乗船したトレーナーだ。いつも傍に連れているゲンガーとヨーギラスと共に、これから始まる旅に胸を躍らせていた。その薄紫の瞳に映る世界は、何よりも美しく輝いている。

「もうすぐ見えるんじゃないか?…日差しキツイ」

 ミカゲは頭に乗っけていたサングラスを下げ、視界を暗くした。値の張りそうなサングラスは、ゲンガーにも及ばない背丈の少女には不釣り合いだった。

「うん。そろそろ降りる支度しないとな」

 ミカゲは自分が泊まっているSクラススイートルームに戻り、さっさと荷物をまとめた。片付けの苦手なヨーギラスが、無駄に散らかした点はあったが、それでも素早い動きだ。コート掛けに掛けられた青いレインコートに腕を通した。

「よし。行くか!」




 サントアンヌ号が港に着岸したとき、多くの乗客が甲板に出て、その瞬間を楽しげに見ていた。初めて見る港町のアサギシティで落ち合うことになっている友人の事を思い浮かべながら、ミカゲはタラップを降りていく。

 ――すいくんはんたー…じゃなくてミナキか。見たらわかるって言ってたけど…

 やはり初めての土地だ。期待の量と同じくらい不安も依然としてあった。が、ミカゲの表情は引き締まっていて、なかなか頼れそうな風格は出ていた。見た目だけだが…。
 誰かに呼ばれたようで、ふっとその方向を見ると、タキシードにマント姿の男が満面の笑みで手を振っている。両手で、しかも勢いよく振っている。

「みかるげー!じゃなくてミカゲー!私だー、スイクンハンターのミナキだー!」

 普段ネットで語り合っている4人はビデオチャットもしたことがあるので、お互いの顔は知っていたが、服装まではあまり気にしていなかった。ミカゲは頭を抱えた。大慌てでミナキの元へ駆け寄る。

「ななな、何してるんだよ!恥ずかしい!」

「やぁ、現実では初めまして!私がすいくんはんたーこと、スイクンハンターミナキだ」

「あぁ、どうも、初めまして。…じゃなくってさぁ!」

「はっはっは!想像してたより小さいな!それじゃあ早速、アサギシティを案内しようじゃないか!」

 ミナキに流され、色々と突っ込みたいことはあったのだろうが、何よりもミカゲが優先したのは、

「小さいって言うなぁ!!」

 という、どうでもいいこと極まりない小さなことであった。
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