Book―short

□僕は、
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 昔、アヤノお姉ちゃんに教えてもらったビルの屋上で、ぼんやりと景色を見ていた。
 
 

「あ〜、気持ち良いなぁ」

 


 でも、やっぱり昔とは少し違うや。

 ぼんやりとした記憶の中から、場所を思い出したのに……。



 ああだけど、気持ち良い風と、景色は変わらないや。


 それに何だか、此処にはアヤノお姉ちゃんがいる気がするんだ。



 
 頭はそんな良くなかったけど、何でも明るく教えてくれた、アヤノお姉ちゃん。





 お姉ちゃん、お姉ちゃん……ねえ、教えてよ、お姉ちゃん。




「皆を……好きになってしまった怪物は、どうすれば良いの?

 そもそも、僕って……何なの?」




 答えなど無いのに呟いた。




 暗くなりつつある空を見上げた、9月16日の午後6時頃。







+++++







 何処へ向かおう、等とは特に考えていなかったのに、気付けばアジトの前に居た。



「無意識、か…」



 きっと此処に来れば迎え入れてくれる仲間が居る、どこかでそう思っているのかもしれない。

 皆に甘えちゃってるなあ。



 だけど駄目だよね、皆に甘えちゃ。


「僕は、怪物なんだから」


 小さく言って、ドアを開けた。







 
 キィィ、と扉の軋む音がする。
 

 そうすればキドの「遅い」って声が聞こえて。




 ……ああ、嫌だなあ。

 その声を聞いて安心してしまう、自分が嫌だよ。





 だけど僕は怪物だから、また嘘を吐くんだ。


「え〜? 心配してくれたの? 僕そんな子供じゃないよ、つぼみ…あ、何でも無いです。何でも」


 そうすれば僕を睨み付けて、拳を握るキド。

 そして僕から視線を外し、はあぁ、とため息を吐く。
  




 ………ああ、また僕はキドに嫌なことをしてしまったのかな?




 
 ふとアジトの中に広がる良い匂いに気付いて、息を吸い込む。

 

 とりあえず、そんな考えは後回しにしてしまおう。





 パタパタと台所へ掛けていく。

 午後7時。








+++++






 ……明るい日の光が降り注ぐ空の下で、セトと並んで歩いていた。



「それにしても、酷いよねえ〜、キドったら! 僕たちパシリだよ?」

「ははっ、仕方無いっすよ!」

「………セトは元気だね」



 僕とは、大違いだ。

 なんて流石にそこまでは言わないけれど。






 まあ、大違いなのは本当なのだけど。




 彼は光の中の人で、周りに愛されている。そして必要な人だ。

 僕は闇の中の怪物で、周りに嫌われてる。そして………僕は、必要なのかな?

 

 
 きっと、要らないだろうなあ。


 

 何て考えていると、腕を引かれた。


「危ないっすよ、カノ!」



 その声で気付けば、電車が音を立てながら目の前を通って行く所だった。



「セーフ! ボーとしてちゃ駄目っすよ、カノ! 轢かれちゃうっす!」


 ああ、いっそ此処で死ねば楽だったかも知れない。

 皆に嫌われることも無いかも……皆を嫌な気持ちにする事も、無いかも。
 
 そう、いっそ死ねれば。






 心の底からそう思ったからか、それ以外の理由からか、いつの間にか口に出ていた。


「……いっそ、轢かれてしまえば良かった」




 パンッ!


 乾いた音がして、数秒遅れて頬に痛みが走る。




 叩かれたと分かったのは、数分後だった。





「轢かれてしまえば、何て言うな! そんな事したら、人は死ぬんだぞ!」




 ……え? セト…?


 とりあえずの取り繕いの笑顔を浮かべ、セトの方を向く。




「じょ、冗談だよ! そ…そう、もしもの話!」



 
 ねえ? 


 何でそんなに怒るの?


 僕が嫌いだから?


 でもそれなら、僕が死んでも良い筈だよね? 


 僕は…必要ないのでしょう?









 何度心の中で考えても、答えは出てこない。







 むっつりと黙り込んでいたセトが、やっと口を開いた。






「………もう、2度と言わないで欲しいっす」




 



 僕らはまたアジトへ向かって歩き出した。

 
 9月25日午前10時。






+++++






「なあ、カノ」

 朝ご飯を作るのを手伝っていれば、キドに話しかけられた。

「最近、何処に出掛けているんだ?」

 ……出掛ける?

 ああ、ぶらぶらと散歩している事かな?

「さあ、何処でしょう〜〜?」

 きっと、言ったって意味など無いのだろうから。

 おちゃらけて言えば、顔を顰められる。

 ああごめんね、また嫌な気持ちにさせたかな?








+++++

 
 

 10月10日には、遊びに来た如月兄弟に面倒臭がられてしまった。

 
 またキドを怒らせてしまった、10月12日。

 
 マリーを泣かせてしまったのはついさっき。
 



 他にもこの時に、あの時に……考えてみれば、まだまだ出てくる。





 ぼくは、良い事なんか1個もしてなくて、


全部、全部、嫌な事だけ。



 どうしたら、償えるのかな………?









 ああ! そうか! 

 

 そうだ、こうすればいいんだ。





 僕はアジトを飛び出した。



 10月5日、午後2時。






+++++





 あと5メートル。


 あと3メートル。


 あと1メートル。



 そして段差を超えれば、だんだんと近付く4,50メートル下の景色。





 あのあと僕が考えたのは、死んでしまえば良い、と。





 そしてその死が目の前にあるのに、不思議なくらいに恐怖を感じない。







 あと2歩。

 あと1歩。




 そこで何となく、顔を上げた。

 目の前に広がるのは、きれいな空。


「見納めだね……」



 なんて言って、その言葉に苦笑を漏らし、足元の縁に腰掛ける。




 ぶら下がった足をバタつかせて、ボーっとしてみる。



 後から考えれば、もっと早く! って感じだね〜。



 だって―――・・・


「さあ、もうそろそろ……」


 そうすれば―――…


「飛び降りよう……」





「カノッ!!」


 ―――彼が来る事も無かった。


 荒い息、乱れた髪のまま、彼―――セトは近付いてきた。


 ああ、駄目。



 来ないで、来ないで…。



 早く……飛び降りなくちゃ。



 早く、早く、早く、早く……………






『×××』





「え?」




 セトに、腕を引かれた。


 身体が地面に打ち付けられる。






 だけどその前に……誰かに突き戻された。



 誰………?




 でもセトは、そんな僕の考えなど知らずに怒鳴っていた。



「何で、死のうとするんだよ!? 大切にしろよ!? 大切に…、大切…に」








 ……………あれ?

 何で…? 何で…? 何で? ねえ、セト…



「どうして泣いてるの?」




 さっきまで怒鳴っていたセトは、いつの間にか涙を流していた。


 僕はまた、君に何かをしてしまった?
 
 また嫌なことをした?



 僕がしようとしたのは、自分が死ぬ、事だよ?



 どうして? どうして?





 セトは何も答えなかった。




 ずっとずっと、泣いたまま。





 ………しばらくは泣き止みそうに無いな。



 泣くセトと一緒に居た、午後4時頃。








+++++






「ったく! 何をやってるんだ!?」


 あの後、キドが来た。


「…ごめんって」


 まあ、キドも何故か泣いていたんだけどね。






 あ、もうそろそろ、5時だ。













「あ…ねえ、ねえ、セト、キド!」




 いつの間にか、2人の名を呼んでいた。




「空が、綺麗だよ!」












 綺麗な茜色に染まった空を見て、ああ、そうかと思い出す。





 さっきの声はアヤノお姉ちゃんの声。




 『生きて』………か。






 ……………そうだね、生きてみるよ。
















 その日は、久しぶりに3人で遅くまで話した。



 途中で2人が泣いちゃって、大変だったなあ。





 だけど最後には、皆で笑えたんだ。




 ああ、今日はいろいろあったなあ。





 でもね、今日の笑顔を、僕はずっと忘れない。

 


 明日を、生きるために。

 




 そして、生きて、皆の笑顔を、幸せを、僕が咲かせたいんだ。








 ねえ、そうでしょ? アヤノお姉ちゃん。

 































































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1・  Question 貴方は何ですか。



   Answer 仲間が居て、笑顔がある、『幸せな人間』です。 






2・  Question その『仲間』とは、貴方にとって何ですか。



    Answer 『仲間』は、僕の最愛の人達です。






Last・ Question ならば貴方は、何の為に生きるのですか。



    Answer 僕が生きるのは、


                  ――――――………仲間と、その仲間の笑顔の為です。

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