Book―short

□陽炎海賊団
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「声は…ここから、かな?」

 赤い服に身を包んだ、少し目つきの悪い少年は、楽しそうな話し声に惹かれてここまで来た。

 その声はどうやら、「陽炎」と言う店から聞こえてくる様で、少年は中に入っていった。

 ツン、と酒を扱う店らしい匂いが漂ってくる。

 酒を扱う場所に子供が入るのはどうかとも思うのだが、少年は―――シンタローはもともとここを良く出入りしていたので、不思議がられる事も無い。

 むしろ、店が少ないこの港にしてみれば、出入しない事の方が不思議だろう。

 そして顔馴染みだらけの…、言ってしまえば代わり映えしないこの港に、全く釣り合わない者達が着港したので、港では騒ぎとなっている。



 そして今、船着場の近くのこの店で、シンタローは物騒な男共に話しかけていた。

 たくさんの傷を負い、決して整ったとは言えない服を着た、男共に。

 男共はげらげらと笑い、楽しそうに杯を交わしていた。

 その姿は大人にとっては迷惑そのものだったが、子供の興味を引くには十分だ。

「ねえ、おじさん達はさ、海賊なの?」

 知りたい知りたい、教えてよ。

 そう身を乗り出す小さな少年に、男共は大笑いした。

 その内男達の一人が、酒に酔った赤い顔で近付いてきて、「お前、何でそんな事を知りてぇんだ?」と聞いた。

 酒臭いにおいが広がってむっとするが、それよりも相手にしてもらえた事の方が嬉しかった。

 なんで?

 ああ、決まってるじゃないか…!

「格好良いから!」

 そう言うと男たちは目を丸くして、だけども嬉しそうに頭を乱暴になでた。

「それでね、僕―――」






「海賊に、なりたいんだ!!」

























 その少年が、10年経って―――。


「はぁ!!!!!??」

 目の前の少女が言った言葉に対し、シンタローは声を張りあげた。

 待て、待て、可笑しいだろう!?

 そりゃあ、10年前はなりたかったさ!

 でもな、でもな、でも…。

「何で今、海賊になるんだよ!!?」

 しまった、と口をあわてて押さえるが、相手は怒鳴られたのを気にしてはいない様だ。

「え〜…だって、格好良いから! ね、キドもセトもカノも、シンタローが来るって知ったら、絶対喜ぶよ!」

 それに、もう準備したもん。

 そういって、少女はシンタローの前で一周、くるりと回って見せた。

 赤いスカーフを首に巻き、動きやすそうな服を着ている。

 やる気は満々。

 準備は万端。

 それを、表情からも、服装からも読めた。

(全く! こいつが多少変わっていた事は知っていたが、ここまでとは…!)

 シンタローは、頭を抱えつつも、腕の隙間からこっそりと彼女を盗み見た。

 ニコニコと楽しそうに明るく笑い、赤のスカーフが似合う彼女は、「陽炎」の親父の娘で、シンタローとは幼馴染のアヤノだ。

 そしてキド、セト、カノは、アヤノの兄弟、または姉妹。

 血は繋がっていないのらしいのだが、まあ、仲の良い家族だ。

 しかし、だ。

(何故その中に俺が巻き込まれる!?)

(勝手に海賊にでも何でもなれよ!?)

 …大体、

「何でそこで俺に声をかけるんだよ!?」

「え? だって、なりたいって言っていたでしょ?」

 ―――絶句。

 何でそれを成長するまで取っておくんだよ!

 そもそも、………ああ、そうか、そうだ、そうだよな。

「うん、解決法を見つけた」シンタローはポツリと呟き、続けた。

「いや、なりたいとしても無理だろ? 大体、親御さんが許してくれる訳な―――」

「あ、お父さんとお母さんなら、良いって言ってくれたよ〜!」

 寧ろね、お前の自由にしろって言ってくれたの。

 それにね、しかも、だから。そうやって続けるアヤノの声は、もうシンタローには届いていない。

(何許してんですかアヤカさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!)

 可笑しい、可笑しい、可笑しい、可笑しい。

(ケンジロウさんは、適当な人だって知っていたよ、でも可笑しいだろう!!?)

 大体、何でアヤカさんは許し―――

「あ、海賊になりたいのはお母さんの夢だったからね、許してくれたよ!」

 おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!!!

 シンタローの脳内で何かが騒ぎ出した。




「ああ、ちなみにね〜〜〜…」

 あ、これは聞かない方が良いタイプだ、と思いシンタローは耳をふさぐ。

(俺の死亡宣告まで残り…3びょ――)

「シンタロ−のお母さんも、シンタローが行く事は許可してくれたよ!!!」

(――――う?)

「シンタローも、来て良いんだって!」

 嘘だ…ろ?

「…シンタロー? どうしたの? 気分でも悪いの?」

 いや、嘘だよ…な?

「まあ、良いや。これから、準備して来てね、シンタロー!」



「い、嫌あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 その後の記憶は、しばらく飛ぶ。









 目が覚めると、シンタローは妹のモモに顔を覗き込まれてて、何だか体が揺れるのを感じて……

 ああ、まさか。と思ったときには、シンタローは船の上にいた。

「あ、シンタロー! 起きたの?」

 楽しそうなアヤノの顔を見て、更に絶望。

(おいおいマジかよ!? ていうか、もう俺無理矢理だよね!? 勝手に乗せられたよね!?)

「モモちゃんもね、乗ってくれるんだって!」

(知らねえよ!? 大体、可笑しいだろ!? 
何なんだよ、あの始まり!? うっわぁ〜自分主人公だ。って思った俺が可哀想だろう!!?)

 気付けば、シンタロ−は大量の冷汗をかいていた。

 一方、アヤノは楽しそうだ。

(ああもう、どうなってしまうのだろう…?)





 そんな二人の様子が面白かったのか、猫目猫っ毛が特徴のカノが近付いてきた。

「おおっ! 起きたんだぁ〜、シンタロー君(笑)」

(ああなんとも、うざ…いや、ごほん。いや、キショクワルイ。
 
特に、語尾に(笑)とか付けるあたりが。

できれば、世界の皆さんにこいつとは関わらないで置く事をオススメしたい)

「ねえ、今何か言おうとしていなかった!? っていうか、何その視線、ひどい! まあ、キドの目つきの悪さよりはましだけど(笑)」

(ああしつこいしつこい、面倒臭い)

 うるせえなあ、とシンタローが言おうとすると、今度は高身長の好青年…セトが近付いてきた。

「カノ、あんまりウザイとキドにぶん殴られるっすよ?」

 ニコニコと言う彼の顔は、整っている。

 いや、整い過ぎている。

 神様はなんて理不尽なんだ! シンタローが心の中で叫んでいると、「いったああっ!」とカノの悲鳴。

 気付くと、目つきの少し悪い男…いや、女のキドがいた。

 どうやら、カノの腕を締め上げている様子だ。

「カノ、お前さっきなんて言った?」

「い、いえいえ何にも!!! だから離して!」

 ああ、こいつらは馬鹿か。

 馬鹿なんだな、そうか馬鹿なんだ。





 そういえば、とカノが口を開いた。

「アヤノお姉ちゃ…船長は? さっきから居ないけど」

 そこに居る全員が、ん? となった。

 キドが、青ざめた顔でどこかを指差した。

 その先には…

「アヤノ!!!?」

 マストの途中に引っかかった、アヤノが。




 しかし、まだ良かった。

 アヤノの足は、引っ掛かっている。





(…足は、まだ。……足は、足…は、足……はああ!!? 足が、抜けたああああ!!!)




 流石の俺もヤバイと思い、アヤノの落下地点かと思われる場所へと走り出す。




















 何だか、とても散々だけど、どうしてこんなに楽しいのだろう?

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