Book―short

□アネモネ
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 ねえ、君は、アネモネって好き?

 僕ね、大好きなんだよ!

 そう、特に白のアネモネが!

 
 ああ、無駄な事を、ゴメンネ。


 そうそう! ちなみにね、白のアネモネの花言葉は、「真実」「真心」なんだってさ。


 ん? まあ、どこかで役に立つかもしれないし、覚えておいてよ。

































 ぱちり、暖かい光の中で目が覚める。

 今はいつ? 4月25日、6時ごろ。

 誰か起きているかな?
 ああ、いやいや誰も起きていないか。

 キドは如月ちゃんの家、マリーもそれに着いて行った。セトはバイト、何だか最近バイトを変えたらしい。

 それじゃあ、つまらないなあ。



 ちょっと、散歩でもしようか。

 朝ごはん? そんなのは知らないよ。








「ちょっと、散歩に行ってきます。」


 ちょっと? 
 いやいや、ちょっとじゃないな。

 
 でもね、遠いところに行きたいんだ。 



 それじゃあ、行ってきます。




 パタン。











 外に出たは良い物の、やっぱり、昼間は僕には似合わない。




 ばたばたと走り回る子供、仲の良さそうなカップル。ニコニコしている夫婦、家族。

 そんなモノが行き交っている。






 ――――――――全て僕にはないものなのに。







 ああ、もちろんキドやセトは家族だよ? 

 家族だよ、家族。

 でもねえ、う〜ん。



 なんか違うんだよねえ。










 ああ、だけどね〜、 

 セトは家族だし、兄弟って言えるかもしれない。

 まあ、セトが望んでいれば、「兄弟」と言っても良いくらい!

 なんて、それは僕の望んでいる事なのだけど。

 どうせセトはそんな事思わないから、駄目だもの。




 じゃあキドは? 

 キドか……、キド…キド…。

 家族、ではあるんだ。
 
 もちろん、キョウダイとしての家族だけど。

 でもね、心の底ではそうじゃなくて・・・

 ううん、心の底ではそれじゃない物になりたい、と思っているんだ。



 それじゃない物が何か?

 さあ、それは僕には分からないよ。



 まあ、分からない振りしてるだけ、かも知れないけどね?







 気付けば、子供が僕の顔を覗き込んでいた。

 その顔がなぜか昔のキドに重なって、ちょっと小走りにその場を去る。


 僕が立ち上がったのに驚いたのか、その子は隠れに行った。



 ―――――あの子、昔のキドにちょっと似ていたな。




 だけど駄目駄目、僕の事を知っちゃ駄目だよ。






 気付けば、アジトへ帰ろうとしていた。



 う〜ん、どうしようか?



 近くに居た猫に話しかけて、相談する。




「ねえねえ、どうすれば良いと思う?」



 まあ、猫に言葉は分からないのだから、意味など無いのだけど。



 こんなところを皆に見られたら、嫌だなあ。





 ――――特にキドなんかに見られたら……。





 あれ、僕は何でキドの事を考えているのだろう?





 答えは出なかったけど、猫が不安そうに見つめてきたから少しだけ走った。
















 走っている内に、どうしようかと困る。




 気付けば空は赤くなりかけているし、もうそろそろ帰らないと心配するだろうか? それとも怒るかな?


 まあ、どちらでも良いや。










 緑色の服を着た犬を見つけたから、ちょっと話してみる。



「ねえねえ君は、どう思う?」



 あ、主語抜けてる。
 まあ良いか。

 どうせ、犬には分からないのだから。

 だけど犬の目には心配が映っていて、まるで心を読めるみたい、と思った。


 あ、それはセトの事だよね。



 人が近くに居たから、今度はちょっと速めに走る。




 駄目駄目、僕の事を見ちゃ。







 ちょっと先で、真っ白な鳥を見つけた。

 ふわふわっとしていて、何だか可愛い。



 足には包帯みたいなのがあって、怪我でもしたのかもしれない。





 だけど今は上手く飛べている。

 優しい誰かの助けを借りて、少しだけ強くなって自由に外へ出れた。



 ああそれは、“あの子”のことだ。





 鳥の視線が一点に集中していたから、その視線の先を追う。





 そこにはとっても目立つ鳥が居て、その周りにはたくさんの鳥や動物が居た。


 近くに控えめに居るリスを見て、ある兄妹の事を思い出す。



 「目立つ妹と、静かな兄」みたいな?

 だけど、鳥とリス………か。




 こっちに飛んできそうだったから、そこから目を逸らした。
















 ああ、もう帰ろうかな。


































 家に帰るとセトとキドが居て、叱られてしまった。

 「どこに行くか書いて置け」とか、「時間を書け」とかだ。



 僕、そんなに子供じゃないよ、と言えば、「まだまだ子供だ」と言われてしまった。

 「子供じゃない〜〜!!!」ってまた言ったら、セトが苦笑いしながら「そういう所が子供なんすよ」と言われた。



「だから違うってば!!!!」



 そしたらキドが鼻で笑って、セトは苦笑を再三漏らす。


「やっぱり、カノは子供っすよ……。ね、キド?」とはセトだ。

「ああ、全くだ」


「ちょ、ちょっと……だから違うってば!」


「いや子供だろ?」

「うん、子供っす!」


「だ・か・ら違う! ああ、そんなに言うなら良いよ! 僕が子供な理由を言ってもらうから!!!!」



「まず、身長」

 ちょ、それ結構気にしてるのに!!

「そして、性格っすかね!」

 悪かったですね子供っぽくて!!

「あとは、××××」

 うわああああ!!! キドなんでそれ知ってんのさ!!?

「うええ、それまじっすか!!?」

 その反応止めてくれないかなセトさん!!?

「ああ、マジだ」


 そこ、落ち着いて言わないでくれない!!?



 て、ていうかさ!


「僕を差し置いて話をしないでくれるかな!!!」







 セトは申し訳なさそうな顔になった。

 キドは悪戯っぽい顔に。



「もう、僕キドのそういう所嫌い!」

「キドなんか嫌いだもん、嫌い!!」




 だけどキドは僕の耳元に顔を近付けて、「バーカ」なんて言って来た。 

 少しは気にしてくれないかな!?

 



 言い返そうとしたら、言葉はまだ続いていたようで。




「××、×××××××××××」



 セトは気にしていない様子だったけど、途中から呆れ顔に。





「ぼ、僕、ちょっと部屋に行く!!」


 必死に声を絞り出す。


「え? あ、ああ……」






 ああもう! 

 何でキドはそういう意地悪するかなあ!!?








 顔に残る熱にわれながら呆れつつ、また恥ずかしくなる。






『でも、そんなお前が好きだ』



 なんて………。










 



 何か仕返しできないかなぁ〜〜〜〜!?



 ふと、白いアネモネの花が目に付く。

 あれ、確かアネモネの花言葉って・・・?





 あ、そうだ!!




 質素なペンとメモをとって、何かを書き始める。





















 部屋を出るとキドは居なかった。










 こっそりと、メモと花瓶を置いていく。








 花瓶には、ひっくり返したアネモネの花。









 どういう意味か?

 それは言ってあげないよ〜。



 ああでもね、メモの内容は教えてあげる。




「キドなんか嫌いだ〜〜〜!
 大嫌いだもん!!!」


 ね、文句しか書いていないでしょう?





 だけど、ちょっとした仕掛けがありまして・・・・・・。



 本当は秘密なんだけど……



 まあ、教えてあげるよ。


 
 逆になったアネモネは、逆にしなくてはいけません。
 
 じゃあ、メモも逆にしようか。

 ああ、逆にする物は工夫して、ね?

 そして、ひっくり返したそれが、「真実」になるんだよ。




 









 ひっくり返った言葉だけど、それが僕の本当の真心

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