―――tradimento(裏切り)―――



誰かが言った。


ユダという裏切り者が居たからこそ、キリストはキリストに成り得たのだと。




だが彼は言った。


キリストは、果たしてキリストに成り得る事を望んでいたのだろうか

と。






※後半の方にBL表現有り(キス、強/姦未遂)
苦手な方は閲覧をお控え下さい。尚閲覧する場合は自己責任でお願いします。





―――――



血の繋がりが尊いなんて、一体誰が決めたのだろう。


血の繋がりしか共通点なんて無いのに。

血の繋がりしか接点なんて無いのに。




でもだからこそ、簡単に愛しさが憎しみへと変わるのだ。



だって一番特別で、一番近くに存在する他人だから。






※嫉妬の余りでっちあげの罪を告発するが‥



一輝「騙されないで下さい!!そいつは二重スパイです、裏切り者なんです!!このまま生かしておくには余りにも危険な存在です、どうかご英断を!!」


真っ直ぐ向けられた其の指先の向こうには此の世で唯一血を分けた弟が存在した。


しかし一輝は構わず、上層部の前で平然と言い放ったのだ。




弟は軍を裏切った、二重スパイだと。




※まさか兄である男にまで裏切られるとは思っておらず、動揺する閃一少年



閃一「え……‥??」


勿論、最初は意味が分からず戸惑うばかりだった。



一体兄は何を考えているのだろう。

裏切り者??二重スパイ??


突然兄の口から放たれた予想外の言葉に閃一は頭を鈍器で殴られた様な、そんな鮮烈な衝撃を覚えた。




閃一「なに、言って‥兄ちゃん??」

唯一分かったのは兄が嘘を吐いているという事。



確かにアクシデントはあったにしろ、ゲリラ軍を率いる隊長クラスの男に寝返ったのは紛れも無い事実だ。


しかし本国を裏切るつもりも無ければ、既に男との連絡手段を持たない閃一にとって二重スパイという濡れ衣は余りにも無理がある。


だが一輝は閃一が記憶障害である事を利用し



一輝「黙れ!!お前は記憶を失った振りをして本国を裏切ったんだろう??俺と羽柴を置いて任務を放棄し、逃げ出したのが良い証拠じゃないか!!」

と、でたらめを口にしたのだ。



本当は閃一が逃げたのではなく、自分が置き去りにして殺そうと企んでいた癖に。



けれど記憶を失っていた閃一に反論する術は無く




閃一「そんな‥!!俺は、別にそんなつもりじゃ」

と、否定しつつも

しかし自信が無かったのか、何時に無く弱々しい声色でそう呟く事しか出来なかった。




記憶が無い。

だから当時の心境を語る事も身の潔白を証明する事も出来なくて。



ただただ必死に、兄である男に対し


閃一「どうしてなの??一輝兄ちゃん、何で急にそんな事言い出すんだよ?!俺、二重スパイなんかじゃないよ??」


と、切実に無実を訴える方法しか思い付かなかった。





きっと何かの間違いだ。

兄なら自分を信じてくれる筈だ。



そう思って。



でも―――





※情があった分、憎悪も其の分激しく募る



一輝「嘘を吐け。俺は知っているんだぞ??お前が未だに無線の通信機を捨てていない事を」
閃一「!!!!!」




痛い所を突かれて思わず言葉に詰まる。



閃一「其れは‥…」


確かに兄の指摘通り、閃一はゲリラ軍で使用していた無線機を未だに所持していた。



しかし無線機はアジトが燃やされたあの日に壊されており、とっくに使用が不可能となっている。



にも関わらず捨てられなかったのは単なる未練。


見捨てられても尚、男との繋がりを心の何処かで捨てきれずに居た弱い自分が招いた結果だ。




けれど今は男との繋がりよりも兄である男との繋がりの方が遥かに大事だったので




閃一「其れは誤解だよ。だってあの無線機は―――」



信じて欲しい、分かって欲しい、兄だけには誤解されたくない。


其の一心で閃一は真実を告げようと重い口を開いたのだ。





閃一「‥‥‥とっくに壊れちゃってるんだからさ」


例え裏切っていないという証拠に男との唯一の繋がりである壊れた無線機を捨てろ。と命じられる事になったとしても構わない。



そう、思って。



なのに―――





一輝「誤解??何が誤解だって??笑わせるなよ」
閃一「……兄ちゃん??」
一輝「壊れてるだなんてよくもまぁいけしゃあしゃあと嘘が吐けるよな。どうせお前が壊したんだろ??証拠を隠滅する為に」
閃一「―――ッ」




してやったりと言わんばかりの満面の笑みを浮かべながら、兄である男がそう述べた瞬間

閃一には分かってしまったのだ。




此の男が自分を嵌めようとしているのだと。



閃一「何だよ、それ‥‥」


やり場の無い悔しさと苛立ちを表現するかの様にギリリと鳴る歯軋り。




兄である男を信じていたのに

兄である男を慕っていたのに



其れなのに



※そんな二人のやり取りを前に不敵に笑う初老の軍人



一輝「大体考えても見ろよ、どう考えても可笑しいだろ??」
「アジトに火が放たれたあの晩、俺と羽柴だけ部屋に鍵を掛けられ閉じ込められていたっていうのに。何でお前だけがアジトの外に放置されていたんだ??しかも無傷で」
「もしもお前がゲリラ軍の二重スパイでないというのなら説明出来る筈だろう??」



さぁ、答えてみろよ閃一!!

と、歪んだ笑みを浮かべた兄が勝ち誇った様に閃一へと詰め寄った其の時だった。




老人「ほぅ。其れは実に興味深い報告ですねぇ。良かったら状況を詳しく話して頂けませんか??」

と、返したのだ。



其の、老人の声色は恐ろしい程穏やか且つ冷静で

興奮渦巻く場内の空気が一瞬にして凍り付く程の威圧感を放っていた。




一輝「え、あ‥状況、ですか??」
老人「えぇ、そうです。確か報告によると閃一君は保護される前に熱病を患っていたとか。でも、兄である君も。そして親友である羽柴君も。其の事実だけは知らなかった。そうでしたよねぇ??」
一輝「はい。ですが其れがどうしたのでしょうか??」



キラリ。


初老の軍人の眼鏡が鈍く光る。

彼は名を荒屋敷といい、軍人であると同時に本部内でも作戦の最終決定権を持つ総責任者でもあった。



そして見た目こそ穏やかそうで物腰柔らかく見えるが非常に冷徹で且つ打算的な性格をしており



荒屋敷「確かに可笑しいですよねぇ。もしも軍内に熱病患者が存在するとしたなら、伝染を恐れて一番先に処分されていても何ら不思議では無いというに」

彼はわざとらしく閃一に目配せを送り、次に意地の悪そうな笑みを一輝に送ってみせた。




荒屋敷「なのに彼らは閃一君を殺さなかった」
「其れ所かアジトの外へ逃がし、放置した」
「一方君達、スパイ二人を鍵まで掛けて確実に火あぶりにして殺そうとしたのに」
「コレは一体どういう事なのでしょうねぇ」


ほっほっほ。

愉しそうに、しかし試す様な其の口振りに一輝は初めて戦場以外で恐怖を体感させられた。



まるで蛇に睨まれた蛙状態。



其れでも



一輝「も、勿論‥閃一に死なれては困ると思って逃がしたんでしょう。コイツは二重スパイで、貴重な情報源だから‥‥」


何とか己を奮い立たせ、震える唇でそう述べたのだ。



※瞬間、閃一少年が気付いた時にはもう遅くて



閃一「………もういい加減にしてよ、兄ちゃん」


まだそんな事を言っているのか。


呆れと軽蔑の入り混じった声色で閃一が呟こうとも



一輝「言い逃れはもうしないのか??後ろめたいからか??お前は本当にどうしようもない弟だよ」
閃一「ッ///」

まるで取り合おうとしない一輝の態度に、基本的には温厚な閃一もそろそろ堪忍袋の緒が切れそうだった。




けれど



荒屋敷「ですが…仮に閃一君が二重スパイだったとしたら―――ゲリラ軍はより効率的な戦略で我々に対抗出来たでしょう」
二人「!!!!!」
荒屋敷「其れこそゲリラなんて野蛮で原始的な方法に頼らず、現実的な策略で」


荒屋敷が涼しい顔色で指摘した途端

一輝の顔から血の気がみるみる内に失せていったのだ。




荒屋敷「しかしゲリラ軍は我々本部の場所さえ把握していないのか、一度足りとも襲って来ていません」
「ただ闇雲に待ち伏せたり、後追いして襲うくらいなら奇襲攻撃を仕掛けるか本部を叩く方が遥かにリスクも少なく勝率も上がる筈」
「なのに彼らはそうしなかった」
「其れ所か逆に奇襲を掛けられる事も少なくなかった」
「もしも閃一君が情報を横流ししているのであれば、其の様な事はまず有り得ない筈なのです」



即ち、閃一は二重スパイではない。

ハッキリとは口にしなかったが、しかし初老の軍人はそう言いたそうな見解を口にした。



其れでも閃一が憎くて憎くて堪らなかった一輝はどうしても弟を罠に嵌めたくて



一輝「だとしても!!閃一には怪しい点が多すぎる!!危険分子は排除すべきだ!!」

などと、声を高らかにそう訴えたのだが。




荒屋敷「おや??知らないのですか??日本の諺(ことわざ)にある様に…『疑わしきは罰せず』と言うでしょう??」

ハ、ハ、ハ。

と、老人はさも面白可笑しく笑ってみせたのだ。




そして極め付けに―――




荒屋敷「そんな事よりも‥問題は寧ろ君の方です」
一輝「……‥え?!」
荒屋敷「君と羽柴君は恐らく、スパイだと向こう側にバレていたのでしょう。だから隔離され、始末されそうになった。違いますか??」
一輝「っ、ち…違います!!俺達はそんなヘマ―――」



必死に弁解する兄、一輝を嘲笑うかの様に

彼は先程とは打って変わって氷点下の様な冷たい表情でゆっくりと腕を振り下ろしたのだ。





閃一の目の前で。




※部下である男は何の躊躇いも無く発砲する



荒屋敷「此の役立たずが。正体がバレているとも知らずおめおめ戻ってきおってからに。もしも敵に発信機を付けられていたらどうするつもりだった??」
閃一「!!!!!」

気付いた時にはもう遅かった。




荒屋敷「やれ」
部下「はっ!!」


其れは始末の合図。

役立たずは処分しろ、傍に居た部下にそう命ずる為の。



そして次の瞬間―――




パンッ


一輝「っ、あ!!」



部下である男の拳銃が容赦無く火を噴いたのだ。





※無残にも死体と成り下がる兄



ドッ


後ろのめりに倒れる兄の身体。

一発の銃弾で事切れてしまった兄はピクリとも動かなくなってしまい―――




※兄を殺され、動揺する閃一少年



閃一「……‥兄ちゃん??嘘だよね??冗談、だよね??」


慕っていた父親代わりの男に続いて、兄である男も失ってしまった閃一は

ただただ呆然と兄だった物体を見下ろすばかりだった。





嫌だ!!


置いて行かないで??

一人にしないで??


たった一人の兄弟なのに!!



兄に対する憎しみよりも、急に湧き上がる孤独感と絶望感に苛まれた閃一は縋る気持ちで兄の死体へと手を伸ばした。




閃一「一輝兄ちゃん」
「俺‥もう怒ってないよ??」
「だから早く起きて??仲直りしようよ」



だが当然返答は無い。



そして其処でようやく


兄がもう二度と

差し伸べた自分の手すら握ってくれないのだと実感するや否や



閃一「―――何でだよ??何で殺したんだよ?!たった一人の家族だったのに、たった一人の兄弟だったのに!!何で俺から何もかも奪って行くんだよ?!」



閃一は

ありったけの憎しみと怒りを篭めて初老の軍人を睨み付けてやったのだ。



殺してやる、と目で訴える様に。


けれど




※其れは悪魔の囁き



荒屋敷「成る程。家族、ですか」
「ほっほっほ、君は面白い事を言う」
「では愛する家族になら殺されても構わないと、君はそう思っているのですな??」


老人は、まるで滑稽だと言わんばかりに閃一を蔑んだ目で見詰め返してやったのだ。




閃一「どういう、こと??」
荒屋敷「まだ分からないのですか??一輝君は…君のお兄さんは君を嵌めて手柄を独り占めしようとしただけでなく―――君を裏切り者として我々に処分させようとしたのですよ??」
閃一「ッ‥‥‥!!」


薄々勘付いてはいた。

勘付いてはいたが、しかし閃一の脳が其れを認める事を拒否したのだ。




ただ単に手柄を独り占めしたかっただけなんだと思いたかった。

上層部に掛け合い、裏切り者として処刑させようと企んでいたなんて考えたくもなかったから。



なのに

なのに―――




※そんな閃一少年を上手く説き伏せようとする初老の男



荒屋敷「まぁ其れも致し方ない事でしょう」
「一輝君はずっと君を羨んでいましたから」
「いやはや。優秀な弟を持つ兄は実に不憫ですな」

初老の軍人は淡々とした口調で明かしたのだ。



入隊する以前から、兄である男が閃一の才能を妬み、羨んでいた事を。


そして閃一が記憶を失う前にも何度か似た様な事があった事。



だが、其の度に閃一の才能を買っていた此の老人が周囲に口添えし一輝の企みを阻止して来た事。




勿論、兄を無条件に慕っていた閃一は最初信じられない気持ちで聞いていたのだが。




※だが兄を恨む気持ちはあっても、何も殺すまでしなくとも‥と悲しむ閃一少年




閃一「そんな‥幾ら俺が嫌いだからって―――たった一人の兄弟を殺そうとするなんて」


信じられないよ。

と、閃一が遣り切れない思いで呟こうとした瞬間




荒屋敷と呼ばれる老人は言ったのだ。



荒屋敷「いやいや、寧ろ兄弟だからでしょう」
閃一「‥‥…??」



近ければ近い存在程意識させられる。

傍に居れば居る程特別に思えてくる。



其のベクトルが愛情か、憎しみかは別として。



荒屋敷「血の繋がりがあるからこそ愛おしいと思う様に、血の繋がりがあるからこそ憎らしいと思う事もあるのですよ」


ほっほっほ。


老人は喰えない笑みを浮かべながら、去り際にそう呟いて退出してしまった。




其れでも閃一は納得出来ず




閃一「死んじゃったら分かり合う事も歩み寄る事も出来ないのに……何でそんな簡単に人の命を奪えるの??俺には、どうしたらいいかもう分からないよ―――」



兄の行いを許せないと思う反面

もしも兄が謝ってくれたらもう一度、信じる事が出来たかもしれないのにと思って胸を痛めるのだった。






―――――




そんな彼に更なる不幸が追い討ちを掛けて襲い掛かる―――





※立て続けにショックを受け、精神的に沈んでしまう閃一少年




閃一「‥‥‥何だか心にぽっかり穴が空いたみたいだよ」



最初から孤独であれば、こんな惨めで悲しい気持ちになどならなかったかもしれないのに。


なまじ他人の温もりを知ってしまった、他人との繋がりを持ってしまった閃一にとって突然襲い掛かってきた孤独という名の喪失感は想像を絶する辛さだった。




閃一「なのに。こんな時でも俺は泣けないみたいだ―――」


其れでも、不思議な事に涙は一滴も出なくて

そんな自分を薄情だなぁ。なんて内心では思うモノの




やはり大切な人間に、しかも立て続けに裏切られたのが余程堪えたのか



閃一「永遠なんて。此の世には存在しないんだね」

彼は力無く、ただ一言

そう呟いてみせたのだ。




昨日と同じ今日、今日と同じ明日なんて絶対に有り得ない。そんな事は百も承知だ。




そう、頭では理解しているモノの

昨日まで傍に居てくれた存在が急に居なくなる、其の何とも言えない寂しさに胸がひたすら締め付けられそうな



そんな形容し難い複雑な心境に陥り、すっかり塞ぎこんでいると―――





※其処へ突然誰かの気配を感じ、ハッとするが‥



羽柴「聞いたよ、閃一君」
閃一「!!」
羽柴「災難だったねぇ」


何時の間に室内に忍び込んだのか

兄の親友であり、閃一の良き相談者兼良き友人になりつつあった羽柴が背後から声を掛けて来たのだ。





閃一「羽柴兄ちゃん……」
羽柴「一輝君の事は残念だっただろうけど―――あんまり引き摺らない様にね??」
閃一「‥‥‥うん」


そう言って

ぽんぽんと優しく頭を撫でてくれる目の前の男は、立て続けに大切な人間に裏切られた閃一にとって最後の心の拠り所となった。




誰にも会いたくない。

もう誰も信じられない。



そう思う反面




だけど誰かに縋りたい。

誰かに甘えて支えられたい。




本心で願った閃一は藁(わら)にも縋る思いで



閃一「羽柴兄ちゃん。俺、一人になっちゃったよ」
「おじさんも兄ちゃんも、本当は俺の事なんて大嫌いだったのかな??だから殺そうとしたのかな??」
「だとしたら‥結構キツイなぁ」
「ねぇ、羽柴兄ちゃんは俺の事裏切らない??絶対傍に居てくれるって約束してくれる??」


と、訊ねたのだが。




返って来たのは

期待とは少し違った答えだった―――





※気付くのが一瞬遅れてしまい、友人に口付けられてしまう



羽柴「勿論だよ、閃一君。だって僕は君を愛しているからね。今直ぐ此の場でめちゃくちゃに犯してあげたいくらいに」
閃一「え‥‥…??」



ドクリ

突然向けられた欲望の眼差しに心臓が高鳴る。




閃一「なに、言って―――」



冗談だよね??

そう問おうとして唇を開いたのが失敗だった。





閃一「あ、はし…?!」


不意に後頭部をぐっと掴まれ、身動きを封じられる。

そして抵抗する間も無く閃一は成されるがままに口付けられてしまったのだ。



ずっと親友だと思っていた男に。





閃一「!!???」


慌てて唇を閉じようと試みるが、其れより先に羽柴の長い舌が閃一の咥内に侵入を果たし、蹂躙して来る。


ぬるぬると滑った其れは気持ち悪く、閃一の背筋にゾワリと言いようの無い悪寒を走らせた。




※驚き、激しく混乱するが




閃一「―――ッ、嫌だ///」


ばっ!!

咄嗟に目の前の男を押し退け、距離を取る閃一。




まさかキスされるなんて夢にも思わず、すっかり油断していた自分に反吐が出そうだった。



閃一「羽柴兄ちゃん、冗談は止めてよ!!前にも言ったよね??こういうの嫌いだって!!」


今まで、何度か過剰なスキンシップを受ける事はままあった。


だが、まさか本気でアプローチを受けているなど考えもしなかった閃一は全て冗談の一環と受け止め、適当にあしらって来たのだが―――





※訳も分からないまま押し倒されてしまい




羽柴「冗談の訳無いだろう??」
閃一「っ、あ?!」


ドサッ

力任せに押し倒され、一瞬息が詰まる。




其れでも羽柴は苦しそうに顔を歪める閃一をうっとりと見詰めながら



羽柴「ずっと可愛がってやりたいと思って狙ってたんだけどねぇ」
「君のお兄さんがいつも君に張り付いてて邪魔だったからなかなか手が出せなくてヤキモキさせられたよ」
「でもようやく消えてくれたからね、コレで遠慮無く楽しめるって訳だ」


自分よりも小さな閃一を手篭めにしようと、いきなり襲い掛かってきたのだ。






※信じられない事に危うく強/姦されそうになってしまう



閃一「嫌だ///離せよ、このっ!!」
羽柴「クソ、手の掛かるじゃじゃ馬だな」


じたばたと必死に手足をばた付かせ、男の下で暴れる閃一。


其れでも体格的にも身体能力的にも年上だった羽柴の方が当然有利であり

しかも―――



羽柴「動くな」
閃一「っ‥‥…!!」
羽柴「良い子だから大人しくしててくれる??そしたらお兄さんがご褒美に気持ち良〜くしてあげるから」


チャッ、と無機質な音と共に安全装置の外された拳銃を向けられたらどうしようもなくて。



スルスルと

不本意ながらも衣類を肌蹴られ、無防備な部分を目の前の男に晒す羽目となった閃一は




閃一「さいてい、だっ///」


悔しさの余り、恨めしそうな瞳で目の前の男をただひたすら睨み付けてやった。



だが


羽柴「フフ。直ぐに最高だって思える様な快楽を君に与えてあげるよ」
閃一「ひっ?!」


まだ未熟な性器を握られれば、急所を他人に掴まれているという恐怖感が閃一を襲って悶えさせた。





※自由を奪われながらも死に物狂いで抵抗してみせる



羽柴「あぁ、閃一君のおちん×んはちっちゃくて可愛いなぁ。後でペロペロしてあげるね??」
閃一「うぅっ……」


怖い―――

気持ち悪い―――




快楽どころか嫌悪で身体がガタガタと震え、鳥肌と汗がぶわっと全身に浮き出てくる始末。


度重なる裏切りによる精神的不安。

其れに加えて、強姦という未知なる恐怖に襲われた閃一は極限状態まで追い詰められた。




そして




閃一「やだ…嫌だ!!おじさん、兄ちゃん、助けて!!こんなの‥‥こんなのやだぁあああっ///」

とうとう耐え切れなくなった閃一は形振り構わず暴れて助けを求めたのだ。




もう居ない二人に。

其の拍子にガッ、と目の前の男の顎を思い切り足先で蹴り上げてしまい




閃一がしまった!!と後悔した矢先にはもう遅かった。




※逆上した羽柴さんは、銃を取り出し



羽柴「全く。君はいつもいつも一輝君一輝君一輝君って。そんなに一輝君が好きかい??」
閃一「!!!!!」



そんなに好きなら逢わせてあげるよ??


兄の後ばかり追いかけ、兄ばかり慕う閃一を前に

嫉妬でトチ狂った羽柴は





―――手に入らないのならいっそ殺してしまおうか。

と、極端な思考に走り




羽柴「僕はこんなに君の事愛してるのに。君は僕を見てくれないんだね」
「だったら良いよ」
「君を殺して、永遠に僕だけのモノにしてあげる」


まだ男も女も知らない、閃一のまっ白な身体を鮮血で染め上げてやろうと試みたのだ。




※本気で撃ち殺そうとし、初めて死の恐怖に直面させられる



チャキッ


無機質な銃口があどけない顔に向けられる。





そして其れまで威勢良く暴れていた閃一もふと我に返り、思わず抵抗を止めてしまったのだ。



殺される!!

そう予感して。





※強烈に嫌だ、死にたくないと生に未練を覚える閃一少年




羽柴「あぁ、君の綺麗な顔だけは傷付けないでおいてあげる。君の顔、すっごい好みなんだよねぇ」
閃一「ッ―――」




嫌だ!!

死にたくない!!



突き付けられた死の恐怖に怯えながらも、閃一は祈る様に呟いた。




せめて人並みの幸せを知ってから死にたいと。

そう願った瞬間、奇跡は起きた。




※だが奇跡は起こった




バァン!!




羽柴「う、ぎゃぁああああっ!!」
閃一「?!」

火花が散ったと同時に鼓膜が破れるか、という程の轟音が目の前で炸裂し

驚いた閃一が



※恐る恐る目を開けてみれば




閃一「な、に??何が起こったの??一体‥‥」

と、好奇心に負けて恐る恐る目を開けてみせた瞬間だった。





※暴発した銃で負傷する友人の姿が目に映り



羽柴「うぁあぁあああああっ!!」
閃一「羽柴、兄ちゃん‥‥??」


まさにアクシデント。


トリガーを引いた途端、拳銃が暴発して羽柴は深い傷を負う羽目となった。



飛び散る五指。

バラバラのサイズになって千切れた其れはベッドの上に虚しく転がり、負傷した場所からは止め処無く血が溢れた。

自業自得、といえば全く持って其の通りだ。




なので―――





※哀れみと嫌悪感を抱いた閃一少年は此の瞬間から過去に築いたかけがえのなかった筈の繋がりを全て捨てようと決意する




羽柴「手がぁあああ!!手がぁああああっ!!」
閃一「……やっぱり最低だよ」


利き手が無残な姿となり、火傷まで負う羽目となった彼を閃一は哀れみと嫌悪の入り混じった眼差しで見詰めてやった。



閃一「信じてたのに。信じたかったのに。信じた俺が馬鹿みたいだ」



まさに裏切りに続く裏切り。




慕っていた男に裏切られ

血の繋がった兄にも裏切られ


更には最後の拠り所であった筈の友人にまで裏切られてしまった。




其れが決定打となったのか





閃一「結局、此の世には『永遠』も『絶対』も存在しないんだね。だったら俺はもう―――誰も信じない」


此の日を境に

閃一は他人を一切『信頼』しなくなったのだ。




もう二度と、こんな想いはしたくなかったから。





※兄である男を信じていたのに





兄である男を、兄だからという安易な理由で無条件に信じていた。



何よりも大切だったのに

血を分けた、たった一人の兄だったのに。




なのに裏切られた。




だからこそ許せなかった。

だからこそ憎くて憎くて堪らなかった。




愛した想いの丈分、まるで比例する様に憎悪が募る。





※友人である男を信じていたのに




兄の友人である男を、兄の友人だからという安直な理由で無条件に信用していた。



其れが間違いだったのか。




何よりも頼りにして来たのに

兄と自分の間を唯一取り持ってくれる、無くてはならない潤滑油の様な存在だと思っていたのに。




なのに裏切られた。



其れが余計に苦しかった。

其れが余計に辛かった。



最後の良心だと信じて縋ったつもりが急に手の平を返され、途端に惨めで狂おしい気持ちにさせられる。





※ずっと此の関係が続くと信じていたのに




だが其れもコレも、全てはあの男と出逢ってから。





あの男に憧れなければ

あの男を信じなければ



そしてあの男を本当の家族の様に愛さなければ。


こんな事にはならなかったのかもしれないのに―――





※戦争が終われさえすれば、本当の家族になれるとすら思っていたのに




閃一「ちく、しょう‥‥‥」




全ては後の祭りだ。

そう思って、閃一は悔しげに唇を噛み締めた。





閃一「嘘吐き!!おじさんの大嘘吐き!!」
「生きてたって良い事なんて一つも無いじゃん、ちっとも幸せになれないじゃんか!!」
「なのに何で、アンタは俺を生かしたんだよ?!」





何であんな男を信じていたんだろう。

何でこんな奴らを命懸けで守ろうと思ってたんだろう。





卑劣で、自分勝手で、利己的で、守る価値すら無かったというのに。



―――馬鹿みたいだ、と心底思う。


そうして、半ば逆恨みの様に激しい憎しみの感情を男へと向けた閃一は





※其れは全て偽りだったのだと、此の瞬間彼は嫌という程思い知らされ打ちのめされたのだった




閃一「許さない。俺を裏切ったアンタだけは―――絶対に許さないからな!!」



自分を裏切った男を絶対に許すまいと

尋常ならざる復讐心を滾(たぎ)らせるのだった。


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