学校の怪談(無修正版)

□第九章:炎天下の冷笑・二
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お前の言葉が傷を残す
深く深く
俺の胸に…

9章:炎天下の冷笑・弐 〜幽霊船〜 01

 東方は幽霊船の中を1人歩いていた。奥に行けば行くほどオーブの数は増し、彼に襲いかかる小物妖怪もその数を段々と増やしていた。それらを『印』を結んで倒しながら歩いているだけで行先はわからないが、“彼の気配”があちこちに残っている。それを辿れば目的の場所にたどり着けるはずだ。
 これは一種のゲームだった。忍足が東方にしかけた迷路ゲーム。東方はその中を歩き、ゴールである忍足の元へ辿り付かなければならない。そして、ゲームのラストステージでダンジョンのボスと…忍足侑士と戦うことになる。用意された選択肢は2つ。忍足が死ぬか、自分が死ぬか…。しかし彼にはもう一つ選ぶことができるかもしれない…。
『二人とも生き残る。』
それが、彼の出した答えだった。
 忍足の気配が濃くなると東方は足を止め、立ち止まった場所の扉を開く。そこは、デッキに位置する扉だったようだ。外に飛び出していくオーブと一緒に月と星が見える。

「よぉ、思たより早かったな…。」

忍足の声がしてその方向に目をやると、彼はマストの足下に寝そべって東方を見下ろしていた。

「待ちきれないから目印をつけたんだろ。」
「さぁ、なんのことやろ?」

忍足はわざとらしく言放ち、少々高めの場所からのそのそと降りてきた。そのまま壁にもたれかかり、彼は無防備にも空を眺め深い溜息をついた。二人を包んできた霧が少しずつ晴れる。

「夏か…。七夕やなぁ…」

空に向かって手を伸ばす。ふわふわと動かすたびに、彼の手元で僅かに残った霧が揺れた。
東方が思いきって階段を上がりきると、独りでに扉が閉まった。これから始まるであろうことがまだ受け入れられず、手が震える。東方の心境など関係なく、忍足は1人語る。

「願い事て叶わんのやなぁ…。俺、毎年短冊に願い事書いて、笹の一番高いトコに…、引っ張ったら曲がってまうから、梯子使ぅて願い事の短冊付けてたんよ…。」
「…」
「あの頃も書いてたで…?東方雅美と、幹部狙ぅたろか…ってな…」

忍足は空を見ていた顔を東方に向け、ベルトにかけていた銃を抜いた。

「叶わんもんや、願い事なんてもんは…」
「間違ってるんだ…」
「間違ってなんかない。」

忍足は東方を睨む。

「気付け、忍足!間違ってる!!騙されてるんだ!」
「やかましぃわ!!」

忍足は東方に銃を向け、そのまま引鉄を引いた。物理的ではなく霊的な攻撃のそれは広範囲にわたって威力を発揮した。東方はそれを避けたが、いつのまにかすぐ目の前に来ていた忍足が彼の額に銃口を付き付ける。

「オノレ、この期に及んでまだ俺を裏切る気ィか…?」
「違う!頼むからわかってくれ、ヤツらの狙いは…っ!」

忍足は東方の腹部を蹴り上げる。低くうめいて、東方は屈み込んだ。東方の必死の説得が、どうやらこの男の逆鱗にふれたようだった…。

「お前はいっつもそうや、任務やからて外に出たら、“お前のやり方は間違ぅてる”“お前とは気があわん”て…挙句の果てには“お前となんか組んでられん”…しまいに、突然何も言わんと俺の前から姿消しおって…」
「っ……」

苦しげな表情に顔を歪める東方の顎を持ち上げて無理やり上を向かせると、冷たい色の瞳でその目を睨みつける。忍足の目には、鋭く冷ややかな怒りの炎が灯っていた。

「お前がおらんなってから俺はお前の居場所探しとった…。でも幹部の連中が漏らした噂でな…お前は、俺らと敵対したて聞いたわ。ホンマかいな?」
「……お前とは、戦えない…」
「っ…ンやと…!」

忍足は東方から手を離すと、痛みが引きかけた彼の体を更に強かに蹴り付ける。ぶつかった拍子に口の中を切ってしまったらしく、東方の口の端からは赤く筋を引いて血が流れ落ちた。忍足は構わず東方の胸倉を掴んで立たせた。

「いつからそないな腑抜けになりくさった!!?あン時みたいな冷酷なお前はどこ行ったんや?」

忍足は口の片端を上げ、引きつった笑みの形を作る。

「平気やったやろ?殺すくらい…」

東方の顔から血の気が引いた。

「違う…そうじゃない……」
「お前、自分がなんて言われてたか知らんの?」
「え……」

忍足は銃を親指に引っ掛けたまま、残りの指で器用に獣の爪の形を真似た。

「獣やて、血に飢えた獣やて言われてたんやで?」
「そんな……」
「そんだけ、血ィ浴びてきたってことやろ。なぁ?血塗れの札使いさんよ…」

忍足は銃を持ちなおし、東方から手を離す。東方は呆然と自分の手を見つめ、一瞬、その手が真っ赤な血に汚れる幻覚を見た…。
忍足は壁に手をついて東方の顔を覗き込む。

「ほんま、汚いやっちゃなァ…。今更自分だけ良い子気取りかい?」
「……」
「でも、ここに来たってことは、ちょっとくらいは殺すつもりあったんとちゃうん?」
「…俺は…、そんなつもりでここに来たんじゃない…」

今回は忍足の攻撃をかわし、両腕を背中に付けて壁に押さえ付ける。

「いっ…たいわ!」
「お前が折角作ってくれたチャンスだ…俺はお前を説得しにここへ来たんだ。」

忍足は東方に押さえつけられたまま、まだ苦しげに息をしながら首をかすかに横に向ける。その目は東方を睨んだ。

「諦め。仲間やないお前が何を言おうと、俺はもう耳を貸さん…」
「…わかった。」

東方は忍足を押さえつけていた手を離す。忍足は深く呼吸をしなおして服を整えた。

「東方、俺はお前を潰す気で、潰される気でいくわ…」
「懐かしいな…あの頃は俺の名前のトコが敵の名前だった…」
「そやな…」

ふと過ぎった記憶を辿る。二人で倒してきた敵の名前、この手にかけた犠牲者の名前…

「最初はなんだったんだっけか…」
「思い出なんざ辿るな…」

忍足は東方に向けて引鉄を引き、東方はそれを札で防御する。

「…鉄鼠…。あの時はじめての任務で、気が合わないって喧嘩したんだったな。」

東方が投げ付けた攻撃用の札を撃ち落し、忍足は次の攻撃をしかける。その間にも東方はまだ記憶を辿って1人語っていた。

「二番目は魍魎か…」東方は隠れて攻撃をしのぎ、また札を投げる。
「次、野鎚…」忍足は札を避け、東方の方へ走る。

「ああ、そうだ…そろそろ息が合ってきたって、やっと自己紹介したんだったな…。その時のが…」
「お前との記憶なんざ、今思い出したら胸糞悪いわ…!」

忍足は銃を東方に向けて乱射する。東方は大量に札を使って防ぐが、余分に持ってきた札も残りが気になり始めた。忍足が笑う。

「消耗品の武器はあかんて…」
「そのようだ…。でも、お前もそろそろツライんじゃないのか?」
「ちっ…」

東方の武器は札という消耗品なのにくらべ、忍足の武器は弾丸が無くても使用することはできるが、彼自身の“気”をエネルギーにして弾丸を“創り出している”ため、連続して強力な弾丸を創り出すと忍足自身の体力がもたないのだ。そう言った点ではかなりの消耗品だった。実際に忍足は額に汗がにじみ、息を切らしている。東方もそうであったが、彼の方が疲れているように見える。
 東方は何を思ったか、札を一枚きり持って忍足に突進する。避けようとした忍足の足をかけようとするが、忍足は足を上げてそれをかわし、東方のわき腹に向けて振り上げた足をたたき付ける。忍足の蹴りを札を持った方の肘で防ぎ、逆の腕を鋭く前に突き出す。

「ォあっ……!!」

忍足は体勢を崩し、壁に手をついて苦しそうにしている。息が詰まったのだ。

「潰される気できたんだろ…。」
「フンッ……よぉ、言うわ。説得しに来ただけの…ヤツが…っ」

東方は顔の前に腕を突き出すようにし、二本の指をそろえて立てる。

「……臨…、兵…、闘…、者…」
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