学校の怪談(無修正版)

□第八章:炎天下の冷笑
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 気分は悪くない。
ただ、胸騒ぎがしてならない…

8章:炎天下の冷笑 〜合宿〜 01

 真夏の体育館、茹だるようなその空間に全校生徒が積め込まれていた。小型の扇風機で辛うじて熱さをしのぐ者、下敷きをうちわにする者、シャツを引っ張って風を通して涼む者…、いずれにせよ無駄な努力だと断言できそうなほどに熱い日だった。
 今日は終業式。あと一歩で夏休みなのだ。かったるい教師の挨拶など生徒達の耳には入っている筈も無いが、それでも長い長い話は続く。よくもまぁ飽きもせずに毎年同じ台詞ばかり話せるものだと、橘は密やかにそう思っていた。
 それはもう小学校から毎年恒例で、同じ台詞ばかり繰り返されていることに気づかなかった筈はなく、次に何を言われるか、どこを強調するかまでわかってしまう自分はよほど暇人だと思った。
 ふと隣に視線を向けると、意外に極楽そうな顔をしている赤澤がいた。赤澤は、こっそり持って来た凍らせたペットボトルを頬に当てて涼んでいるのである。橘は自分もそうするべきだったと改めて実感した。
 後ろの方では●崎のマークが描かれたうちわを持った東方と、風流な絵の描かれた扇子を持った柳生がお互いに風を送り合っている。それが涼しそうだと思うより先に東方の持っている浜●のマークのうちわの方が気になった橘は、茹だるような熱さの中、頭痛にまで悩まされ始めていた。

『えー…続いては、あー、学校長の、おー…』

どこの学校にでも必ず一人はいそうな教師。必ず『あー』だの『えー』だのやたらに伸ばす。話しなれていないわけでもないくせにである。
 そんな教師の言葉の後、やっと、ラストスパートである学校長の長たらしい言葉が待ちうけている。これさえ耐えしのげば明日からは夏休みだ。解放される!そう思った直後だった…

「あ〜…明日、から…夏休みィ……………」
「ゲッ!オジィ!!!」

そう叫んだのは東方。周りの教師に注意されるが、今の彼にはその言葉は届いていない。
それもそのはず。神社の神主であるはずの自分の祖父『通称:オジィ』が、今壇上に上がって挨拶をしているのである。それも『学校長』として。それは橘達も信じられないことだったが、東方意外は全員口をあけたままぽかんとしている。
 オジィは東方を指差し、ニッと笑った。

「雅美、着席…」
「っ!なんでオジィが校長なんだよ!?聞いてねぇぞ!」
「言ってねーぞー…」
「おちょくってんのか!?」

二人の言い争い(?)は数分続いたが、東方が橘と赤澤に取り押さえられることで終業式は無事終了し、夏休みを迎えることが出来た。

 そしてその数日後だが、夏休みに早速合宿の予定が入っていた橘達男子テニス部は、合宿場に向かうバスに乗り込んでいた。
さっさと席について荷物を棚の上に上げ、橘はバスに乗り込んでくる選手たちを眺めていた。その中に選手ではない生徒が乗り込む。

「みっ、南、大石…。」
「やぁ、橘君。」

爽やかに手を振る南につられて橘もつい手を振ってしまう。

「なんでお前達が?」
「俺達、テニス部が合宿に行くって聞いたからさ、なんか手伝うこと無いかなーって思って、合宿の間はマネージャーをやることにしたんだよ。もちろん、食事も俺と南君が作るよ。自信はあるから、楽しみにしといてくれ。」
「はぁ……マネージャーねぇ…」

 選手たちとマネージャーを乗せたバスは、海の見える合宿場に向かう。赤澤は窓に貼り付いて海を眺め、早速「泳ぎたい」だの口にしていた。もちろん、海が近くにあるのだから水泳の時間も取ってある。自由時間には海で遊べるということだ。赤澤はそれが待ち遠しくてたまらなかった。
 橘が、自分の後ろの席で子供のようにはしゃぐ赤澤を見てやれやれと首を軽く振ったとき、ちょうどバスはパーキングエリアに着いた。橘達の乗っていたバスの隣にもまた別のバスが止まっている。今回の『合同合宿』の参加校なのだろうが……

 ふと、橘が視線を感じて振り返る。何者かが建物の影に入っていくのが見えた。橘は迷わずその後を追う。
 蒸し暑い気温ではあったが、日陰になっているそこは異常なほど涼しく、橘は寒気さえ感じた。

「柳!」

 ちょうど建物の影になったところで壁にもたれかかり、扇で口を隠すようにして柳がこちらを見ていた。フッと、僅かに隠れきらなかった唇が笑う。
「内村を攫ったのはお前だろう、柳。」
「いったいなんのことだ?」
「とぼけるな!」

橘は柳に掴みかかる。

「何が目的だ!?何のために内村をさらった!!」
「お前には関係の無いことだ。しかし、お前の存在が邪魔で仕方がない…。今回は大人しくしておいてもらうぞ。」

柳はまた薄い唇を笑みの形に歪める。そうしているうちに、二人に向かって段々と足音が近付いてくる…。

 「あー、いたいた。って、なにやってんッスか!?先輩!」

止めに入ったのは、入部したばかりの切原だった。切原は橘の腕にしがみ付いて柳から離れさせる。柳は笑みを崩して表情を曇らせ、皺の寄ったジャージをはたいた。赤也は心配そうに柳を見る。

「大丈夫ッスか?」
「大丈夫…。心配はいらないよ…」

嫌味なほど優等生ぶった台詞に、橘の表情が引きつる。

「もぉ、なにやってたんッスか!橘さん!」
「ぇ、その……」
 「彼は悪くないよ。この熱さだから、イライラするのも仕方ないことだ。」
「なっ!?」

この台詞では、まるで橘が悪者だ。
 柳はクスクス笑いながらその場を後にした。赤也が、まだ柳を睨んでいる橘の腕を引っ張る。

「早くしないと、集合時間過ぎちゃいますよ!」
「そ、そうか…」

後輩に腕を引かれつつ、橘は自分の学校のバスへと向かった。
 自分の席に戻ると、橘の視線は自然と隣のバスに向けられる。ちょうど橘のすぐ隣の窓に柳の姿があった。やはり薄い笑みを浮かべ、普段物静かに発音する唇を大袈裟に動かしていた。

『 良 い 気 味 だ 』

柳達を乗せたバスが先に出発した。悔しさに歯を食いしばると、背後から拳が飛んできた。

「って!」
「なにやってんだい、バカモンが!」
「りゅ、竜崎コーチ…」
「他校の生徒ともめごとを起こすんじゃないよ!反省するまでは練習意外の外出を禁止する!」
「そんな!」

橘には、柳の高笑いさえ聞こえた気がした……。

「え、練習以外外出禁止!?」
「何やったんだよお前・・・」
「いや、ちょっと・・・」

そんなこんなでバスは俺たちの合宿場所(海)に着いた。

「うわー、きれいな海だなぁー」
「全員集合!今から今日の日程を言うよ」(スミレ)
「はい」(全員)
「今日から他校混合強化合宿を始める。練習内容はリーグ戦中心にしたいと思う
「今日はダブルスのリーグをする、全員クジを引いたあと部屋に荷物を置きまたここに集合」
「はい」(全員)

・ ・ ・ ・

「橘、東方クジ引こうぜ」
「ああ・・・・」
「どうしたんだ東方?」(橘)

クジを引きにいこうとした時、ある方向を見た東方が立ち止まった。
その方向にいたのは・・・

「あれは、千石清純だな。」
「あぁ」

俺らが話してるのに気づいたのか、千石がこっちを向いて驚いた顔をした。

「あっ・・・もしかして東方?」
「・・・・・・」
「知り合い?」

と聞いた瞬間千石は両手を広げ笑顔でこっちに走ってきた。

「東方―久しぶり合いたかったよー」
「俺は会いたくなかったー!!」
「えー何で逃げるんだよ俺と雅美の仲じゃないかー」
「ふざけんな!そんな仲になった覚えはねぇよ!!」
「俺、東方があんなに必死に逃げるとこ初めて見た。」
「俺も」
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