学校の怪談(無修正版)

□第二章:理想と虚像
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「南です。今回は俺が事件を起こすらしいけど、なんのことだかよくわかんないです。
まぁ、とにかくがんばります」

2章:理想と虚像 〜くたべ〜 01

「南このノートを教室に運んでくれ」
「はい」

南は担任に言われたとおり、ノートを持って教室に向かう。その途中、この前転校して
きたばかりの東方に会った。

「東方おはよう。」
「あぁ、おはよっ…」

「おはよう」と、いつもの調子で右手を挙げた瞬間に気づいたが、自分は今大量のノート
を持ってはいやしなかっただろうか?
そう気が付いたときはすでに遅く、手にしていたノートの束は全て床にぶちまけられた。
挨拶途中の東方が片手を軽く挙げた状態のまま固まっている。

「うわぁ!東方ごめん!大丈夫か?」

呆れられただろうかと思いながらも、今はノートを拾うことに専念した。

「あぁ、俺は大丈夫だけど…ノートがぐしゃぐしゃに…」
「じゃ、また後でな!」
「…」

南はノートを拾い終えると、それらが整っていないのもお構いなしに逃げるようにして東方
の前から走り去っていった。
東方と別れた後、南は自分達のクラブ(家庭科)の部長である大和裕大に会った。大和
は南に気づくとにっこり笑った。

「おはようございます、南くん。」
「あ、大和部長、おはようございます。」

その時南はさっきの失敗のことをすっかり忘れ、部長である大和に頭を下げた。当然のこ
とながら持っていたノートは床の上にぶちまけられることになるが、運悪く、その先頭が
目の前にいる大和の足に直撃したらしく、彼の表情が一瞬曇った。

「うっわぁぁ!先輩ごめんなさいぃぃ!!」
「いやいや、いいんですよ。朝からご苦労様です。それじゃあ僕はこの辺で、遅刻しない
ようにね。」
「はい。」

彼は南を快く許してくれたものの、まだ痛そうに臑のあたりをさすっていた。失敗続きで
ため息を吐きながら時計を見ると、もうすぐチャイムが鳴ってしまうような時間になって
いた。南は急いで教室に向かったが、曲がり角に差し掛かった時に本日三度目の災難に出
くわした。
 鈍い音がしたと思うと、それに続いてノートはバサバサと床に落ちていく。南は廊下の
曲がり角から出てきた橘とぶつかったのだった。お互い時間に余裕がなく走っていたため
と、廊下の角という盲点であったことで力の限りぶつかってしまい、二人はお互いにはじ
かれてしりもちをついたのだった。

「ごっ、ごめん橘!!」
「いや、俺は大丈夫だが南こそ大丈夫か?」
「俺も大丈夫。ホントごめんな。」

そのあとは、南が持っていたノートは橘が半分持ち、何事もなく教室にたどり着いた。
ただ、持っていたノートだけは無事ではなかったようだが。

「みんな、ほんとにごめん!ごめんなさい!!」

南はクラス全員分のノートをぐしゃぐしゃにしてしまったので、ノートを教卓の上に降ろ
した瞬間そこにぶつかるほど頭を下げ、謝った。

「いいよ、南くんだし」
「そうそう、そんなにあやまらなくてもいいよ」

南はノートを半分持ってくれた橘に礼を言う。

「橘、ノート持ってくれてありがとな…ん?橘けが…」
「ん?あぁ、いつの間に…」
「たぶん俺とぶつかったときじゃないかな、ごめん。保健室行こう。俺付いていくから。」
「あぁ、すまない。それじゃあそうしようかな。」

南は橘を連れて保健室に行こうと、廊下に出ようとしたが、今度は敷居に躓いて前のめり
になりながら豪快に転んでしまった。痛みを堪えてゆっくり起きあがった時、妙に違和感
があり、鼻をこすってみると鈍い痛みを感じた。

「大丈夫か南?お前が保健室行かないといけなくなっちまったな。」

結局南が保健室に連れて行かれる側になってしまった。


 「橘…ごめん。」
「気にするな。それより、鼻血止まらないんだからまだ上向いてろよ。」
「うん…。」

ぶつかったときにけがをしてしまった橘を保健室に連れて行こうとした南だったが、その
南自身が教室の前で転んでしまい、あろうことか思い切り鼻を打って鼻血を出してしまっ
たのだった。
あまりの恥かしさに最初は泣きそうな顔をしていた南だったが、橘と話している間に落
ちついてきたようだった。

「橘ぁ、ドジしないようになる方法とかないか?」
「ないな。」

間髪入れずにはっきり答えられ凹む南。

「まぁ、しないように気をつけることだ。」
「気ィつけてるんだけどなぁ……」
「いいじゃないか。皆笑って許してくれるだろ。それ、得だと思うぞ?」
「そうかな……?ありがと。」

 橘と少し話したら、余計に自分のドジ加減が気になった。折角相談に乗ってくれた橘に
はそのようなことは言えなかったが。南は橘のように、みんなに頼りにされるような人間
になりたいと思う。今までもそう思っていたが、今彼と話をしていてはっきり思った。

 放課後、南はうなだれてため息をつきながら歩いていた。いつも何をやってもドジばか
りする自分。みんなは笑って許してくれるが、失敗ばかりしてみんなに少なくとも迷惑を
かけているという事実が南のプレッシャーとなり、そのプレッシャーがさらに失敗を呼ぶ
のである。そろそろそんな自分に嫌気が差してきた…。
 帰り道、必ず通る石段の上。南は足を滑らせ3段ほど落下した。幸いケガなどは無かっ
たが、ぶつけた腰が痛い…。

「あーぁ…なんで俺こんなにドジなんだろ…。」

立ち上がって服の汚れを払い、またため息を吐く。

「俺が誰かに頼られるような存在だったらなァ…」

そうつぶやいた瞬間、隣で何かが光った。それは、苔生した地蔵だった。石が光るはずが
無く、近くに何か光るものでも落ちていたのだと思ったが、それらしいものは見あたらな
い。その地蔵を見て南は、よくお願い事をしていた小さい頃を思い出し、その時のように
その前で手を合わせてみる。懐かしい

「お願いです。俺をドジしない人間にしてください!………なんてね。」

苦笑し、南はそのまま石段をかけ上がった。

翌朝南はまた担任に呼ばれ、宿題のノートを教室に運ぶことになった。こういう時室長
という役職が面倒だと思う。

「今日は気をつけないとな…あっ、東方おはよう。」
「おはよ。」

南は東方に軽く挨拶し、遅れないように教室に向かった。その途中で前と同じく大和にも
会って挨拶をした。そして曲がり角を曲がってきた橘に挨拶をした…。あとは昨日と同じ
ようにノートを半分持ってもらい、教室へ、今回は無事に着いた。

「…あれ?今日は何ともなかった…」
「いや、それが普通なんじゃないですか?」

自分の行動を不思議そうに振り返る南に、教室の前に来ていた柳生が笑って言った。

「ぎゅーくん久しぶりー。どうかしたの?」
「お久しぶりです南君、うちのクラスの人がこのクラスの人のプリントを間違えて持って
きてしまったようで届けにきたんですよ。」
「ありがとう。」
「いえいえ。」

普段は自分のクラスにいるか図書室にいる柳生がこの教室にいるのは珍しいことだったが、
プリントを置きに来たという理由には納得できた。柳生はプリントの束を教卓の上に置く。

「それでは、ワタシは移動教室なので、これで。」
「うん、ありがとな」

柳生がさったあと、入れ違いに橘が来た。

「よぉ南、今日は何ともなかったようだな。」
「うん、いつも何かあるのに今日だけ何もなかったなんて、明日は雨でも降りそうだな。
ははは。」

南は冗談めかしてそう言ったが、内心嬉しくて仕方がなかった。
一日の授業が終了し、南は同じ方角の橘と東方、柳生との4人で帰ることにした。テス
ト期間中で全ての部活は活動していないため、橘達の帰りも早いのだ。ただ、赤澤は補修
をうけているようだった。

「中間テストだなぁ〜…」
「あぁ。それじゃあ、赤澤はそれ関係?」
「大当たり。」
「赤澤、成績悪いのか?」

東方が橘の方を見て言った。赤澤のことは南もよく知らなかったし、柳生は違うクラスが
離れているから当然知らない。聞くとすれば、赤澤とのつきあいが一番長い橘しかいなか
った。南と柳生も気になったらしく、橘の方に視線を向ける。

「いや、別に悪いわけじゃない。あいつクラスでは結構順位が上だからな。」
「うそ!?」
「本当ですか?」
「しんじらんねぇ…」
「失礼なこと言うな、三人とも。でもそうだろうな、あいつ普段ほとんどまじめに授業な
んて受けてねぇから、俺も最初はびっくりしたぜ。」

そんなたわいもない話をしながら歩いていくと、帰り道に昨日転んでしまった石段が見え
てきた。そのとき、東方の動きが止まった。
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