学校の怪談(無修正版)

□第一章・青天の霹靂
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 しゃん…
鈴の音(ね)が聞こえる。
どこからか、聞いたことのあるような、静かな鈴の音が聞こえる。
 ぎしり、ぎしり…
歯車が軋みだした。

1章: 青 天 の 霹 靂 〜 天 邪 鬼・01

 「おはよう。」

橘は適当に挨拶を返して教室に向かった。今日もまた遅刻寸前になったら"あいつ"が来る。
橘にはわかりきっていることだった。今日は何分に来るのか、また観察してみるのも面白
そうだ。なにせ朝はやることが無さすぎる…。

 あちこちで挨拶が聞こえる。赤澤は走って学校に向かっていたが、その風景を見ると安
心した。肺いっぱいに空気を吸い込み、叫ぶ。

「セーーーーーーーフ!!」

そのままの勢いで玄関まで走り、上履きに履きかえる。いつになく高いテンションで教室
に向かい、自分の席についた。いつもよりも早く目が覚めた赤澤が、遅刻せずにすんだと
今日の"ラッキー"を満喫していたところ、クラスメイト達が『珍しい』などと言葉を送
っていたが、赤澤は自分もやればできると言い返してやった。

「めずらしいな、お前が遅刻しないなんて。」
「俺だってやればできるっつーの。」
「そうだな。」

橘がそう言ってやると、赤澤は満足そうに笑った。そして、何かもったいぶるように話し
始める。

「あのさ橘、実はさァ……」

何が言いたいのか大体はわかっていた。長いこと付き合っている友人だからこそわかるこ
とだが、実は赤澤は大の噂好きで、怪談などの噂になるとその噂について調べたがるとい
うか…身近にあるものならなんでもとにかく確かめたがるのだ。橘は今までに何度も付き
合わされ、失敗の様を見届けてきた。以前もジェットじじいとかなんとかいう話を聞いた
赤澤は、橘を連れて道路を歩き続けた。結局何もいなかったが、それ以来赤澤はそう言う
類の話をしなくなったし、確かめたがらなくなったため、あれで懲りたのかと思った。
そう考えていた橘が甘かったようだ。

「この学校の旧校舎におばけ出るんだって」

 楽しそうにそんな事を言い出す赤澤。旧校舎とは、今時珍しく残っている木造の校舎の
ことだ。橘の席から見えないが、体育館の側にそれはある。窓は汚れてくもっているため
中の様子はなかなか見えないし、近所の子ども達が怖がってか面白がってか噂するのはわ
からなくもないが、その噂を信じる高校生がいようとは…。

「……。あのな、そんなありきたりな話信じる高校生、お前だけだと思うぞ?」
「おいおいおい、いいじゃん!いるっておばけ!」

たしかに、何か出そうな雰囲気は漂っているが、実際に見たという人は聞いたことがない。
おそらくいないだろうとは思うが・・・。
橘は呆れたように首を振った。

「懲りないな…」
「今度はいる!絶対だって!今日俺絶好調なんだからよォー、信じろよォ〜……」
「わかったわかった……」

赤澤はニッと笑って橘を見た。橘は嫌な予感がして少し赤澤から離れるが、赤澤は橘に急
接近してその肩を掴んだ。

「行こうぜ、旧校舎☆」

『あぁ、先が思いやられる……。』と、頭に手をやった。
チャイムとほぼ同時くらいに、担任の教師が入ってきた。赤澤は自分の席についても橘
を見てニヤニヤしている。今日も帰りが遅くなりそうだ。部活とでも言っておこうか。
 担任の隣に、見かけない生徒がいた。転校生だろう。背が高く、頭を下げないと教室に
入れないらしい。教師に促され、転校生は自己紹介をはじめた。

「東方雅美です。よろしく。」

 『それじゃ、九鬼のとなりな。』そう言われると、赤澤の後ろ、橘の斜め後ろで九鬼が手
をあげた。東方は言われた席につくと、近くの席の生徒に軽く挨拶をしている。

「よろしく。」

そう言って橘を見た東方に、橘は、どことなく周りとは違った何かを感じ取った。

 ホームルームが終わり、赤澤が東方に話し掛けた。

「俺赤澤、よろしくな。」
「よろしく」

東方も愛想よく挨拶を返した。

「そういえば、お前ってどっからきたの?」
「……さぁどこからでしょう」

そう言っただけで何処の出身なのか言おうとしない東方。橘はそんな彼の行動を不思議に思った。

「お前って幽霊とかいると思うか?」

=やっぱり…頼むから人を巻き込むなよ、まぁ大概信じないというと思うけどな。

そう思っていた橘の考えは見事に外れるのだった…。

「あぁ、いると思うよ。」
「そうだろ!橘やっぱ幽霊っているんだって。」

すんなり答える東方と、その返答を聞いて上機嫌の赤澤。橘は、東方も赤澤と同じような
話が好きなのかと苦笑した。そんな時、赤澤が楽しそうに話している最中に東方が、ごく
自然のことのようにおかしなことを言った。

「ほら、君の右肩に…おっとやめておこう。」
「「なに…?」」

二人は自分の背中に冷たい汗が伝っていくのを感じた。振り返ってみるが当然何もいない。
肩を触っても何かがあるわけでも、重さを感じるわけではない。東方が一体何を見たのか
少し不安だったが、敢えて気にしないよう、話を戻すことにした。しかし、

「でもこの教室いっぱいいるな。とくに…そうだな前から2番目くらいの席」

2番目の席には室長の南健太郎が座っていた。

「あいつか…」
「あいつだな…」

彼、南健太郎は普段から失敗が多く、任された仕事をこなすことはできるが、まとめたば
かりのレポートを運んでいるときや、頼み事をされたときによく転んだり、プリントを風
にさらわれたりするのだった。

「人に好かれるタイプだとは思ってたけどなぁ…」
「幽霊にまで好かれてたんだな…」
「じゃああいつを一緒に旧校舎へ連れてけばいっぱい出るかな?」

橘は『人を巻き込むな』と言おうとしたが、それよりも先に東方が忠告した。

「いや、やめておいた方がいいんじゃないか?」
「そうかな…?でもお前ってすごいな。霊感とかあるわけ?」
「まあ…な」

その返事を聞くと赤澤の表情がまたどんどん明るくなる。それはまたおかしなことをたく
らんでいる時の表情で、橘はこれからおこるであろう事のために自分の無事を祈るのだった。

「じゃあ今日の放課後一緒に旧校舎にいかね?」
「…別にいいけど…」
「じゃあ決定☆」


=あぁ犠牲者1人追加か…かわいそうに。っていうか同意の上だから犠牲じゃないか…

赤澤は東方の隣の席にいた九鬼にも話を持ちかけたが、九鬼にはあっさりと断られてしま
った。というか、それが普通の反応なのだろう。ただ、赤澤のような性格なら好奇心で付
いて行きたがる者もいると思うが…。
橘はいつの間にやら赤澤と東方との霊感談義につきあわされ、あっという間に放課後に
なっていた。

「じゃあ俺らは部活行くけど、どうする?見学してくか?」

と部活の見学を勧めていたところ、教室の扉が開いた。そこには橘達と同じ一年で、生徒
会副会長に選ばれた優等生の柳生比呂士が立っていた。

「キミですか?今日転校してきたというのは。」
「はい、そうですけど。何か用ですか"先輩"?」
「ひっ東方ι柳生は俺たちとおんなじ1年だぞ…」
「え?ι」

どうやら東方は柳生の腕に付けている生徒会のマークを見て勘違いしたらしい。それでな
くても柳生は見た目が大人びている所為もあって橘達よりも少し年上に見えが、面と向か
って言われたことはさすがにショックを受けたようだった。なんとか気まずい空気をどう
にかしようと、赤澤が話を切り出す。

「そういえばぎゅーくん、東方に用があったんだろ?」
「あぁそうでした、学校を案内しろと先生に頼まれまして。」
「じゃあ案内してもらおうかな。あ…さっきはごめん。」
「いや別にいいですよ。」

苦笑してそう言ったが、もうそんなに気にしないことにしたのだろう。柳生は東方と軽い
握手をした。

「じゃあ東方、とで迎えに行くから案内終わったら玄関集合な。」
「わかった。」

ひとまず東方と別れた橘達はテニスコートに向かった。

「そういえば今日は自主練だったな。」
「そうか。じゃあさっさとやってさっさと終わろうぜ?」
「そうだな。」

練習の途中にコートを見回すと1人の少年がいた。少年の名前は壇太一。赤澤の家の近
所に住んでいて、橘達の弟的存在だ。彼はよくクラブの見学にくる。

「よっ、太一。今日も見学か?」
「はいです。僕もこの高校に入ったらテニスをやろうと思って。」
「そうか、太一もこっちに入学するんだな。…あ!」

太一との話に気を取られ、橘の打ったボールが旧校舎の中に入ってしまった。そのボール
に反応したのか、太一が抱えていたカルピン(猫)が旧校舎の中に入ってしまった。

「「あ…」」
「カルピンが入っちゃったです。追いかけないと!」

太一がカルピンを追って旧校舎の中に入ってしまった。それを焦って追いかける橘、"楽し
そう"といいながら追いかけていく赤澤、旧校舎に入っていく2人を見て"危ないですよ"
といいながら追いかける柳生、これは何かあるとみんなについていく東方。全員が中に入
った瞬間にドアが閉まった…。
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