ブレイド2(無修正版)

□stage08:交差
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ブレイド
 Stage−8 〜 交差

白い蝶は言いました。
『もうすぐだよ』
と、頼りなく羽ばたいて言いました…
なんのことなのか、少年にはわかりません。
ただ、自分を抱きしめている、白い蝶を見上げていました。

少年には感情がカケラしかありません。
だから、どうあがいてもカケラしか感情が出せません。
少年は思いました。
もう少しで、僕が完成すると言うことだ…
と…。

 すっかり暗くなった真夜中、東方は頭を抱えこんで悩んでいた。
亜久津が目覚めたら、また、乗っ取られるかも知れない。そうなったら自分は、南のそばにはいられなくなる。
どうしてこんなことになったのか……

「千石は、何を考えてるんだ…」
「…亜久津と、どういう関係があるのかってとこだな…」
「今、亜久津はおまえの中で眠っているが、そのうちにまた目覚めるかも知れない。俺も、亜久津を眠らせるので精一杯だった。追い出すことはおそらく俺には不可能だ。すまないな…なにもできなくて…」
「いいんだ。何とかなる。」

そういったものの、東方には元通りに戻れる自信はなかった。
ただ、亜久津が眠っている間だけ、これからのことを考える。もしも、また亜久津が目覚めたら…今度は、橘がまた都合よく止められるとは思えない。
そのときは……
暗い考えが脳裏をよぎった。東方は頭を振る。

「何とかなる…」

自分に言い聞かせた。

暗い部屋の中、明かりをつけることもなく南はベッドに腰掛けていた。
眠気はなく、東方たちのことがただ心配で、そのことばかり考えていた。
窓の外は、三日月が輝いている。
南は過去に起こった出来事を頭の中によみがえらせていた。
亜久津が、南をねらっていた理由。
南には悪魔と契約し、力を操る能力があった。だから、南は狙われていた。
利用するために。
太陽を消し去り、人間を悪魔の支配下に置くこと。それが、亜久津の狙いだった。
しかし、東方によって葬られた。
そして今、その東方の中に、亜久津がいる…
南は、軽いめまいを感じてベッドに倒れ込んだ。

「…東方……」

無事でいて…無事で……

・・・・・・・・・・

夜の街から離れて、誰もいない暗い場所に、千石はいた。
彼の足下には、やはりあの少年がいる。そして、その隣には銀髪の少年がいた。
彼は、もともと教会で神に仕えていたが、千石と出会った。
突然舞い降りた天使に当然驚いたが、今は千石の片腕として“アイツ”のパーツを探していた。
危険な目にも会いはしたが、それはみな千石の魔力で切り抜けてこれたし、今、その彼にも魔力が宿っていた。
千石が彼に宿した魔力。黒魔法…

「天使様、これ……」
「そう、それだよ鳳クン……こんなとこにあったんだ…」

千石は、少年:鳳の手から淡い赤の球体を受け取り、自分の隣に控えていた少年にかざした。

「これで、キミはまたもとの姿に近づくよ…」
「…もとの、姿……」
「そう。」

赤い珠は、少年の前で輝きを放つと、少年の中に取り込まれていった。
そして、少年は縮んでいた時間を取り戻す。フワフワとしていた髪が銀色に変わり、天に向かって挑戦的にはねている。
千石は、うれしそうに笑って、目の前にいる青年を見つめた。

「後は、あのスレイヤーをどうにかして、感情と魔力を取り返してあげる…」
「…ん……。」

発せられた声は確かに“アイツ”…。しかし、感情はまだかけらしかない。
千石は、頼りなく笑って青年を抱きしめた。

「待ってて…亜久津……。」


それは白い霧の中でした。
なぜかとても頭が痛かった。
ただ、愛しい人のことを考えていて、
その人のもとに行きたいと、必死に周りを見渡しました。
道なき道を、暗い森を…
少年は、ふと、視線を止めました。
誰かが目の前にいる。
少年は、視界を濁す霧を鬱陶しそうにして目を細め、目の前の誰かを見つめました。
ただ、そこに一人きりにされるのが嫌で
少年は誰かに尋ねました。
『キミは誰?』
目の前にいた誰かは、そっと、少年の方を見ました。
『なぜ気づいてくれないの?』
少年には意味が分かりません。
ただ、目を丸くして、目の前にいる青年を見つめました。
霧は、青年の顔が見える程度に薄れていました。
青年は苦しそうな顔で少年を見て、言いました。
赤い涙を一筋だけ流して言いました。
『愛しているよ。僕ではダメ?』
そっと触れてきた唇は、血の味がしました。

『ダメなのか…?南……』

 消え入るようなか細い声に、南は目を覚ました。いつの間にか眠っていたようだ。
夜にしては蒸し暑かった部屋が、今は心地よい涼しさだった。
南は、自分以外誰もいない部屋の中を見回す。やはり、誰もいなかった。
今、部屋の中だけでなく、家には自分意外誰もいない。なのに、なぜか声が聞こえた。
悲しいような、苦しそうな…そんな声だった。
 南は一度上体を起こし、時計を見た。針は、午前2時を指している。

「…………」

 それにしてもまた変な夢を見た。
霧の中に立っている自分と、苦しそうに南を見ている亜久津…
何か意味のある夢なのか、そうでないのか…南はまたベッドに倒れ込み、目を閉じた。
なぜか、唇に感触が残っている気がして、軽く拭ってみる。
血が付いているわけでもない。突然、力つきたように枕に顔を埋めた。
「バカみてぇ……」とささやいた言葉は、枕に吸収されていった。
急に自分が女々しく思え、自嘲じみた笑いがもれる。
 もしかしたら、亜久津が目覚めたのかも知れない。と、南は携帯を手に取り、メモリから東方の番号を選んだ。

何ともない電子音が長く感じられる。
その間にも、南の心配は募っていく…。

=カツン…

窓に、何かが当たった。小石、だろうか?
南は携帯の電源を落とし、窓に近づく。カーテンを開けると、外に東方がいた。
あの音は、東方の爪がガラスを叩いた音だ。

「ひ、東方……?」

南は、警戒するように後退する。
東方は、ばつが悪そうに微笑んで言った。

「怖いか?」
「……」

何も言えず、南はただ小さく頷いた。

 =next

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