ブレイド2(無修正版)

□stage04:言葉
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ブレイド
 Stage−4 〜 言葉

少年は、教会の掃除をしていました。
彼がやらなくても、掃除をしてくれる人はいます。
でも、少年は、彼等の仕事を手伝って毎日続けていました。
そして、それが一段落つくと自分の仕事に戻っていくのです。

彼には記憶がありません。
ここに来た時のことは今でも覚えているのですが、それ以前のことは何一つとして覚えていませんでした。
ただ、ここで育てられた少年は、「せめてもの恩返しに」と、ここで神に仕える仕事をしていました。
いつも通り掃除を終え、仕事につこうとしたときのことです。
彼の前に、白い羽が舞い落ちてきました。
最初は、鳥の羽か何かだと思っていましたが、鳥の羽にしては大きいそれは、そっと差し出された彼の掌に静かに落ちました。
落ちてきた辺りを見上げて、少年は、ある一点で視線をを止めました。目の前にいた青年に、思わず目を見開いてしまいました。
驚くのも無理はないでしょう。
彼の目の前にいた青年は、真っ白に輝くキレイな翼を持ち、少年の目の前にある、古びた非常階段の手すりに座って、少年を見下ろしていたのです。
「天使様、ですか…?」少年は、思わずそう尋ねました。
すると、目の前にいた青年はかすかに微笑を作って言うのです。
「そうだよ」と。
少年はただ驚いて、それ以上言葉は出てきませんでした。
目の前の青年を見つめているだけが精一杯で、時々、何か言葉を捜して口が動きますが、やはり言葉は出てきませんでした。
青年は、銀髪の少年を見下ろして、「助けて」と言いました。
少年は突然言われた言葉に更に驚いて、真っ白な羽を握ったまま、目の前にいる天使様を見上げていました。
目の前に天使様が現れたと言うだけで驚いていたというのに、今度はその天使様が、自分に助けを求めてきたのです。
少年はわけがわからないまま、「できることなら」と、答えました。
天使様は、「よかった…」と、微笑んで、そして、「探し物を手伝って」と、少年に言いました。
少年は言いました。「お手伝いします」と…。

 昼休み、南は、図書室でぼんやりと本を読んでいた。
読んでいるわけではなく、ただ眺めているだけだろう。目は本を見ているが、考えているのは目の前の本とは全く関係が無く、千石のことを考えていた。
千石はおそらく東方を狙ってくるはずだ、今自分がこうして学校にいる間にも、東方が危険な目に合っていないかと、心配でし方がない。
しかし、東方にはまた魔力が宿った。
自分の物ではないが、誰かの魔力を偶然継承してしまったのである。
だからこそ千石が狙うわけだが…おそらく、魔力が戻って来た東方は抵抗できる。
それに、東方の所には橘もいる。
南は、なんとか自分を落ちつかせると、本を閉じた。

「南先ぱ〜い。」

突然呼ばれて顔を上げると、後輩がこっちに手を振っていた。

「葵。」
「おひさ……」

=ごちっ。

元気良く声をかけてきた葵だったが、図書委員である新渡米に広辞苑でどつかれて涙目になりながら頭をさすっていた。
そして、南のところまで走ってくる。
その間、カウンターの内側にいる新渡米は不機嫌そうに葵を見て辞書を構えていたが、南は気にしないことにした。

「久し振り☆最近あんまり学校来てなかったじゃないですか?みんな心配してたんだよ?連絡もないし…」
「あぁ…ちょっと、まぁ、いろいろあってさ。」
「体調不良かなにか?」
「…そんなもんかな。」
「もう、大丈夫?」
「大丈夫だって、そう心配すんなよ。」
「そっか、良かった。」

葵は、安心したように笑っていた。
南は彼が気付かない程度に苦笑する。

―いっぱいあり過ぎダロ……

「で、部活の方はまたやるんでしょ?」
「あぁ、もうちょっとしたら…」
「早く来てくれないと、大騒ぎなんだよ?」
「大騒ぎ…?ι」

葵は、南がいない部活の無いようを語った。
マジメに練習をしない部員のこと。すぐ喧嘩になる部員のこと。そして、南がいない間に何人か新しい部員が増えたこと。

「俺、副部長として大変なんだけど?」
「頑張れ、1年レギュラー兼副部長。」
「早く戻ってきてくださいね!」
「おう。」

そこで始業のチャイムが鳴ってしまい、二人は慌てて教室に戻って行った。

 やっと戻って来れた日常。やはり、まだ引き摺っている悪魔との関係。突然現れた天使:千石。そして、再び魔力を手に入れてしまった東方……
悩むことが減って、また増えた。
 南は、授業中もそう言う思考で頭がいっぱいだった。
 おそらく、東方が継承してしまった魔力の持ち主は死んだはずだ。
しかし、千石はその人物のために魔力を探していた。もしかしたら、その魔力の持ち主は殺されたように見えて実は死んでいなかったのではないのか?なら、千石がその魔力を狙っているというのは辻褄が合う。

「…………なみ…みーなーみー…。」
「へっ?」

隣の席の新渡米にシャーペンでつつかれて我に返った。

「19ページの問6。」
「あ、サンキュ。」

ページを捲り、ざっと簡単に計算して答えた。
間違っていなかったから良かったものの、これで間違っていたら間違い無くお説教タイムだ。
南はほっと胸をなでおろした。

―さすがに、授業中は考えんのやめよう……ι

そして南は授業に集中することにしたが、やはり、考えるのは授業とはまったく別のことだった。

 授業が全て終ると、南はまた東方のもとに向かっていた。
グラウンドに出た所で誰かにぶつかる。南はまた豪快に転んだ。

「ってぇ〜〜〜〜…ι」
「すまん。」

―「すまん。」じゃねえだろぉ〜〜〜…

南は立ちあがって砂を払いながら、ぶつかってしまった人物の顔を見た。
新渡米。と、喜多だ。
「最近、新渡米狂暴化した気がする」などと思いながら、適当に謝ってまた走り出した。

「……南、最近急いでる日多くないか?」
「…たぶん恋だよ、いなきっちゃん。」
「そっか?」
「そーだって。っていうか、“いなきっちゃん”言うな。」

新渡米は喜多の頭を軽く小突きながら言った。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「やっとみつけた。」
天使様は言いました。
銀髪の少年が手伝ったおかげで、天使は探し物をまた一つ見つけることができたのです。
嬉しくて嬉しくて…
天使は、『物言わぬ少年』を抱きしめていました。
そして、「もうすぐだよ」と、言いました。
少年は頷きません。
もちろん、言葉を発することもありません。
それでも天使は微笑んで、少年の頬にキスをしました。
天使の手に握られた小さな宝石は、少年の中に消えました。
少年はやっと言葉を発しました。
「お前は誰だ?」と言いました。
天使は少し悲しげに、そして微笑んで言いました。
「僕は天使だよ。キミのためにここまでやってきたんだよ。」と言いました。
少年は、無感情に天使を見上げ何も言わずにそのまま見つめていました。
天使様は少年を抱きしめて囁きました。
「どうして、こんなに愛しいんだろう」
と…。

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