ブレイド(無修正版)

□stage-20:裏切り
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ブレイド
 Stage−]] 〜 裏切り

 橘は、亜久津と東方の戦闘を眺めていた。
今、東方と戦っているのはあの亜久津の姿ではない。銀色の、一体の獣…
スピードも攻撃力も、あの姿の時よりは上のはずだ。ただ、魔力は通常よりも少し下がるようだが…その分、亜久津はスピードで補っている。
攻撃中心な亜久津の戦闘スタイルは、この姿で本領を発揮された。

「……」

もうじき、亜久津が昼を破壊する。
誰が止められる?
目の前で亜久津と戦っている青年に、それができるか…

「……」

橘は、南にかけていた術を解いた。南は目を覚まし、周りの状況を見て息をのんだ。

「東方…!!」

亜久津が、今にも飛びかかりそうな視線で橘を睨みつけている。
橘は、目をそらすことなくその視線を受けとめた。

「お前は…殺しすぎた。」
「今更言うことかよ?他に言い残すことはねえのか…?」
「………ありすぎる…」

そう言った橘の手には、銀の剣が握られていた。
亜久津は、ほんの一瞬だけ驚いたようだが、すぐにまた鋭い視線に戻った。

「…どこで手に入れた……」
「父の形見だ…」
「なるほどな…それで、俺を殺す気か?」
「……俺の償いだ…。東方、加勢する……。」

橘は南をその場に残し、東方の元に飛び降りていった。
亜久津は既に獣化を解いている。まだ獣化の名残っている腕を鳴らしながら、東方達を睨み据えている。

「……なぜ…」
「同じ境遇だろ…お前とは同じ気がするんだ…」
「……」
「死ぬなよ」

橘は亜久津に斬りかかった。
東方も、少し送れたが真空を裂いて亜久津の背後に回る。
亜久津は、どちらの攻撃もかわし、その鋭利な爪で突きを放つ。何度目かのときに東方の頬を掠めたが、その間に入った橘の攻撃に、亜久津はまた後退した。
東方は、戦いながら妙な点を見つけ出した。
東方の剣を受け止めても何ともなかった亜久津が、今度はおびえるようにして剣から逃げている。

「……」

その疑問はやがていろいろな共通点をつなげていき、答えを導き出した。

「だとしたら……」

彼方此方に逃げまわりながら、東方は亜久津の足元に注意を配る。
その所為で何度か爪がかすめることはあったが、橘がいるだけまだ安心はできる。
しばらくその状態が続き、東方が探していたものが見つかった。なにか酸のようなものが、亜久津の足元をかすめる。

「あった……。」

東方はまた、目の前の空気を斬った。今回はいつもと違い、剣が大きくカーブを描く。
東方はその通りのカーブを移動し、スピードの所為で止まりきれなかった亜久津が橘に気を取られている隙に、足元のそれを拾い上げた。四葉のクローバーだ…。
東方は、それを丸めて握り締めた。そしてまた戦闘に戻っていく。

「邪魔すんじゃねえよ……」

亜久津は、橘が剣を振り上げた瞬間を狙って蹴り飛ばした。
その力で、橘は地面に体をたたきつけられる。

「ぐっ……!」
「ウゼェ…ガキのままの方が扱いやすかったぜ…」
「な…にをっ……!?」

亜久津は、橘を見下ろして笑った。

「禁忌のガキ…」
「…!」

橘は亜久津を見上げたまま黙っている。東方は、亜久津と橘を交互に見ていた。

「お前も…混血なのか……」
「あぁ…だが、俺の父は聖職者だった…。だから、俺は昼でも外に出られる…。」
「……」

沈黙の間に、亜久津が話を戻した。

「普通、混血児は殺される。なのに、生かしてやったんだ。ただ、利用するためにな…」
「……気付いていた…。利用されていることなど……」
 「気付いていたんなら、なぜ逆らわなかった……」
「復讐、したかったんだ。父さんを殺した人間に……母さんを殺した、ヴァンパイアに………」
「……」
「間違っていると気付いていたが、逆らえなかった。俺だけじゃ、太刀打ちできるはずも無いからな……」
 「で、今になって裏切ったわけか?ハンッ…。別に支障はねえよ。まとめて潰してやる。」

そう言い、爪を光らせた亜久津に、東方が言い放った。

「お前も、混血だろう……」

亜久津の動きが止まる。
橘も、壁を支えにして立ちあがりながら、東方を見た。

「……それがどうした…禁忌…。」
「たしかに、お前も混血のはずなんだ。だが、禁忌にはならなかった。それは、お前がヴァンパイアとウェアウルフの混血だったからだ…。」
「……気付いてたのか…」
「さっきな…。お前は俺の剣を見ても何も動じなかったのに、橘の剣を見たら表情が変わった。それは、ウェアウルフは銀の武器に弱いからさ…」

亜久津は、東方の言葉が終ると同時に口の片端を吊り上げた。

「確かに、俺は銀の武器は嫌いだな…。でもよ…、それは、お前らに俺を殺せるだけのチカラがあったらの話だ…」

そう言い終ると、東方に襲いかかる。
東方は亜久津の攻撃を受けとめ、背中を壁にぶつける。

「ぐぁっ……!!」
「東方!!」
「……大丈夫…俺達なら、殺せる……」

東方は、亜久津の顔に触れた。
その個所が、音をたてて溶け始める。

「くっあぁああぁぁああああっ!!!っ…テメェッ……!!」
「クローバー。聖水の代わりにしてみたんだ。」
「なめたまねしてくれんじゃねえか……」

火傷のようになった頬を押さえながら言う亜久津。
また、東方は攻撃をはじめた。亜久津は、さっきのクローバーの所為で片目を潰され、動きが鈍くなっているようだ。
今なら勝てる。東方はそう思ったが、亜久津の力に気を取られていて他の気配に気付かなかった。
何かに、動きを封じられる。

「なっ!?」
「それでいい…たまには役に立つじゃねえか…」

東方の動きを封じているのは、あの堂本だ。
堂本は魔力が弱いため、東方は、亜久津の魔力の所為で堂本の存在に気付かなかったのだ。
そのうえ、厄介なことに、堂本は腕力などの力は並以上にあるようで、東方は抵抗してみるが堂本はそ知らぬ顔をしていた。

「くそっ…!」

抵抗できずにいる東方に攻撃しようとする亜久津。
東方の目の前に、黒い、大きなカラスのようなシルエットが見えた。
何かが突き刺さる鈍い音がして、辺りに鮮血が舞った。

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