ブレイド(無修正版)
□stage-18:禁忌
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ブレイド
Stage−][ 〜 禁忌
幼かった俺は、あのとき拾われた…。
広場では処刑が行われていた…。
燃え盛る炎の中、苦しみに絶叫を上げる父。
心臓に杭を打たれ、日に晒されて灰になっていく母。
少年は、大衆に混じってその光景を見ていた。
「父さん!母さん!…ヤメロ、殺すな……!お願いだ…助けて…………」
小さな少年の叫びの声は、大衆のざわめきの中に消えた。
苦しみに声を上げる父の姿は、焼け崩れてボロボロになり…母は、灰となって風に吹かれていった。
少年はただ、その光景を見ていた。
神に仕えた父と、その父を愛したがために神への反逆をやめた母…。
消えていった……。
もう、どこにもいない…。
少年は泣いた。誰もいない、静かな森の奥で…深い霧に囲まれ、泣いた。
涙が枯れるかもしれない…
復讐してやりたい。父と母を殺した連中に…人間と言う生き物に……。
「そこで何してんだ。小僧…」
「っ……」
少年は、嫌悪感をあらわにして顔を上げた。そこにいた銀髪の男は、平然として少年を見下ろしている。
「…俺に勝てると思ってんのか、小僧…」
「ウルセェよ……」
初めて、魔力を使った…。
使い方もわからなかった力が、暴走することなく自分にしたがっている。森の木々は、少年の思いのままに行動し、目の前にいる男に攻撃をはじめた。
男はそれを難なくかわしながら、少年のすぐ目の前までやってくる。
木々が攻撃を止めた…。
「殺してみろよ…小僧…」
「……怖く、無いのか……」
「ぁあ?何が怖ェんだよ。」
「…お前は、何かを失うことが……怖くないのか……」
「確かに怖ェな…。でもよ、それは俺からそれを奪えるやつがいたらの話だ…。それまでは別に怖くもなんともねえな…」
少年は思った。これが、強さなのかと……
同時に、強くなりたいと…
「……来いよ、同胞…」
「…え………」
「強くなりてぇんだろ?」
「……わかる…のか……?」
「ハンッ、ガキの考えることなんざ同じだ…それに、俺にはわかる……」
「……」
「お前、親を殺されたな…」
少年は、なにかが突き刺さるような感覚を覚えた。
眉を寄せ、銀髪の男を見上げている。
「復讐してやれよ?殺してやりたいんだろ?お前の家族を奪っていった連中によぉ……」
「……できる…のか……」
「できねえことはねえよ……。さぁ……」
そう言って差し出された手に、自分の小さな手を重ねた。その時から、少年は復讐のために生きた。しかし、そのあとで知った。
自分が、禁忌の子であったことを…。人間と、ヴァンパイアの間に、子を作ることは禁忌とされていたのである。
その掟を破った者は、両者とも一族を抹消される。その間にできた子も…。
父は孤児だったため、教会で育てられ、聖職者として神に仕えた。そのため、父のいた教会は取り壊され、そこにいた数多くの聖職者達も殺されていた。
母は、ある没落貴族の娘だったため、その一族も抹消された…。
自分だけが…孤独のまま生きていた。
しかし…、あとになって少年は悩んでいた。
自分は正しいのか……間違っているのか……
自分は、父と母を殺した人間を恨み続けていた。しかし、それが間違いのようにも思える…。
両親が悪いのか、両親を殺した連中が悪いのか……
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「……俺は、間違っているのか……」
その問い掛けに、カラスはただ首を傾げた。
そのカラスを闇に放し、男は、過去の出来事を思い出していた。
「……。俺は……間違っている……。」
恨んでも、殺せば新たな恨みや憎しみ、悲しみを生むだけだ。
それでは、俺が恨んだ連中となんら変わらない…。俺は、もう…間違えない。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
禁忌の子…。
その言葉は、東方に重く圧し掛かる。ヴァンパイアと人間との間にできた子への、言わば、差別用語のようなものだ…。
自分さえいなければ、父も母も殺されることは無かったのに……
そんな、自分を責め立てるような考えしか浮かんでこなかった。南には言えない。
こんな弱い部分をさらけ出している自分を、南にだけは見せたくなかった…。
「大丈夫。」
「え…?」
突然言われたことに反応できず、つい間抜けな声が出てしまう。
南は、そんな東方を見て笑った。
「み…南…?」
「ん?あぁ…なんかさ、淋しそうな顔してたからさ?言ってみただけだ…」
この少年には何を隠しても無駄のようだ…。
東方は、両手を上げて見せた。
「降参だ…お前には何も隠せないらしいな…」
「…別にいいけどさ、一人で悩むなよ。」
「すまない。」
よかった…。
安らげる場所はここにある。
弱気になれば、励まされればいい。
楽しければ、一緒に笑えばいい。
わかってくれる者が、一人はいればいいんだ。
「…東方」
「ん?」
「ヴァンパイアってさ、十字架が苦手とか、ニンニクがだめ…とか、よく言われるけどさ、あれって別にカンケーないんだろ?」
「あぁ。全く関係ない。」
「じゃぁさ、ヴァンパイアもさ…人間に対してなんか勘違いしてるわけ?」
「……一部の者は、しているかもしれないな。だから、人間との関係を禁止したんだ。」
東方の表情が淋しげに影を帯びた。
「俺が言うようなことじゃないと思うんだけどさ…、東方、メチャ苦労してるだろ。」
「……」
「無理、すんなよ……」
「無理はしない。」
「でも……」
言い終らないうちに、東方は、南の唇を自らのそれで塞いだ。
突然のことで混乱して抵抗できずにいる南。
唇を離すと、東方は、南の今にも泣きそうな視線とぶつかっていた。
「あ…、悪い……」
「謝るなら最初からすんなよ…」
「え、あ…その……でも…」
うろたえる東方に、南が涙を拭いながら独り言のように言った。
「…ファーストキス…」
「…すまん…。」
「しかも、イキナリ?」
「…あ……」
「そのうえ、相手…男?」
「……」
どんどん落ち込んでいく東方。
南は、そんな東方に抱きついた。
「み、南……?」
「自分からっての、なんか勇気いるからさ……イヤじゃなかった。ってか正直、嬉しかった…」
「……」
「驚いたんだよ。マジ。」
「すまないな。」
明日にでも片付けたい…。
早く片付けて、南を自由にしてやりたい……。
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