ブレイド(無修正版)
□stage-16:過去
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ブレイド
Stage−]Y 〜 過去
跡部は、東方の剣を軽くかわし、同時に攻撃してくる。
東方はその攻撃をかわしながらも攻撃を続けた。よけきることができなかった攻撃がかすめていったが、今の東方にはかすめるほどの痛みは感じなかった。
「来い、樺地…」
跡部は、余裕の表情で指を鳴らす。その音に導かれるようにして、2m近い大男が現れた。
すると今度は、二人で同時に攻撃を繰出してくる。
東方はそれをかわしながら、跡部に攻撃をしかけていった。
しかし、跡部にばかり気を取られている所為で、樺地の攻撃を避けきれていない。
そのうえ、他とは比べ物にならない樺地の怪力に押されている。
「チッ……!」
今の東方の頭は、跡部への復讐心でいっぱいだった。そのため、他のものへの注意が欠けているようだ。
「どうした?」
東方を見下すように笑いながら、跡部は攻撃を繰り出す。
「ヒュームの実力など、所詮この程度か…。」
「黙れ!」
東方の剣が、青い光を帯びた。
「なにっ……」
東方は攻撃を続ける。
怒りからなのか、先ほどよりもスピードが上がっている。
嫌な予感が頭を過ぎり、跡部は眉間に皺を寄せた。
「まさか、な……」
その予感を振りきるようにして、跡部はつぶやいた。
二人の攻撃の合間を縫って、東方が剣を振り下ろす。
その圧力に押され、周囲の物が容赦無く吹き飛ばされていった。
跡部は、さっきの嫌な予感をまた思いだし、吹き飛ばされて粉々になっているコンクリートやらに目をやりながら、その“予感”に、ほぼ確信に近い考えをいだいていった。
「何から何までアイツと同じか……ムシズが走る。」
そう言い、またも樺地に攻撃命令をくだした。
樺地は命じられたとおり、東方への攻撃を再開する。
何度目かの攻撃のとき、東方の剣は放電をはじめた。
「退け、樺地!」
「もう遅い……」
東方の剣は、樺地の胸部を深深と貫いていた。
その個所からは鮮血が噴き出し、東方の顔を紅く汚していく。
「…」
東方は、樺地から剣を引き抜き、その鋭い眼光が跡部を捕らえた。
剣の切っ先が跡部に向けられる。
「……その目と言い、剣術と言い、何もかも柳と同じか」
東方は何も答えず、突きを放った。
跡部はそれをかわし、動揺を押さえつつ攻撃できる余裕を取り戻そうとしていた。
しかし、東方はそれを許さなかった。
「お前の力が俺の父に勝っていたのなら、殺さなくてもよかったはずだ…なのに……どうして殺す必要があった!?」
東方の剣が跡部の腹部を掠めていった。
跡部は、鋭い痛みに眉を寄せる。
「言っただろ、お前の父とは元々気が合わなかったと…。俺を見下したようなアイツの言動や視線が、いちいち気に食わなかったんだ。」
絶えず攻撃を繰り返しながら、東方は怒りをあらわにして言った。
「お前をさげすむ視線は、お前がそれなりの悪事を犯してきたヤツだから……お前を見下した言動は、お前が、救いようも無いクズだからだ…!!」
ついに、東方の剣が跡部をとらえ、その腹部に突き刺さった。
跡部は鮮血を飛び散らせながら、崩れ落ちる。
「キサマ……」
「親父は、他人を見下したりするような男じゃなかった。」
「フンッ…それは単なるお前の思い込みだな。」
「違う。」
跡部は、東方がほんの一瞬だけ見せた隙を見逃さなかった。
どこからか剣を取りだし、東方に斬りかかるが、東方はそれを済んでのところで防いだ。
双方の剣は、火花を散らしてそのまま留まっている。
「くっ……!」
「抵抗すればするほど、楽には死ねないぜ?」
ほんの一瞬剣が離れ、またぶつかり合って火花を散らす。
本当なら切れ味も相当落ちるのだが、どちらの剣も、人間が作り出すそれとは違うもの。そう簡単に威力は落ちない。
「すぐに親父のもとに送ってやるよ…」
「まだ行けない!」
また剣が離れ、今度は東方の剣が大きく空を切る。
跡部はその隙を狙って攻撃をしかけたが、東方は、先程の攻撃の反動を利用してそれを回避した。
何度も同じようなことが繰り返されるが、そのうちに跡部の動きが鈍くなってきた。
傷が痛むのだろう。
「っ……!」
跡部はとうとう体制を崩した。
地面に倒れ込んだ所に、東方が剣を突きつける。
「チッ……」
「ヴァンパイアだけの社会なら、人間のいない未開の地に築けばいい。なのになぜ、人間のいる“ここ”を選んだ…?」
「俺達が食っていくためさ…。」
跡部は、卑劣な笑いを浮かべて言った。
「人間なんて、存在の価値も無い下等な生き物だ。だが、ヴァンパイアにとっては貴重な食糧だ、それはお前にもわかるだろ?
つまり、家畜として生かしておくだけにすぎねぇんだよ。」
「外道が…」
「ハンッ。お前もその外道の仲間だぜ?」
「……俺はお前達の仲間なんかじゃない。」
「よく言うぜ、正義の味方気取るのもいい加減にしろよ。」
「正義ってわけじゃない…。ただ…俺は、お前ほど腐っちゃいないだけだ。」
そう言い、東方は跡部の胸に剣を突刺した。
父の敵との因縁の対決は、敵の血で幕を下ろした。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
南は、帰ってきた東方を見るなり驚いた。
血だらけで、今にも倒れそうなほど足元がおぼつかない東方。
「お、オイ、東方…大丈夫か?」
「あぁ、問題無い…。」
南を少しでも安心させようと、無理に笑顔を作って答えた。
南は眉を寄せる。
「無理すんなよ、すげぇ心配したんだぞ?」
「悪いな。少しドジッた。」
言ったと同時に、南に小突かれた。
「てっ……」
「『ドジッた。』じゃねぇよ、ちょっとドジってボロボロになるか、フツー…」
半泣きになりながら文句を言う南。
東方は、零れかけた涙を拭ってやりながら、南を抱きしめた。
「もう心配ない。」
「おどかしやがって……バカ。」
過去に拘束されつづけていた自分。今、その過去のどす黒い部分に別れを告げてきた。
もう過去に拘束されずに、前を見ていればいい。
=next