ブレイド(無修正版)
□stage-15:傀儡
1ページ/1ページ
ブレイド
Stage−]X 〜 傀儡
無法地帯に集まるヴァンパイア。東方はその群の中にいた。
次から次へと容赦なく襲いかかってくるヴァンパイアを灰にしていく。しばらくそれを繰り返していたが、もう敵わないと察したのか、ヴァンパイア達は無法地帯の闇に消えていった。
東方は、退き返そうと思い踵を返したが、背後からの視線に一度足を止めて振り返り、自分の目を疑った。
振りかえった先にいたのは神尾。虚ろな紅い眼で、東方を睨んでいた。
「またお前か……」
「……」
神尾は、突然東方に襲いかかる。
その鋭利な爪が、東方の頬を掠めていった。それに気を取られている隙に、更に猛攻は続く。
よけきることができず、東方は吹き飛ばされた。
「くはぁっ……!」
以前より、数段強くなっているらしい。
今回はいたぶる気はないらしく、本気で東方を殺そうとしているようだ。
次の攻撃が襲い来る前にその身を翻し、東方はしまっていた剣を抜いた。
「キレてやがるのか……」
暗闇にいくつかの残像を残す神尾のスピードから逃れられず、東方は未だ防御体制のままだ。
これではこちらからの攻撃は無理に等しい。
容赦なく繰出される神尾の攻撃h,血のにおいをかぎつけて集まり始めたヴァンパイアや、サーヴァントの群もまき込んだ。
足場は悪くないが、その所為で神尾のスピードが増しているため、東方には相当不利な状況だと言える。
一瞬の隙を狙って突きを放ったが、剣を掴まれてしまった。
もちろん、刃を掴んでいる神尾の手が無事なわけもなく、血が滴り落ちているのだが、神尾は依然として無表情のままだ。
―どういうことだ……
さらに、神尾は、剣を掴んだまま東方に攻撃してきた。剣から手を離し、東方は後退してその攻撃をかわす。
神尾は、掴んでいる必要の無くなった剣を投げ捨て、東方への攻撃を続ける。
東方はそれをかわしながら剣を拾い上げる隙を狙っていた。
「攻撃をやめろ、神尾…」
神尾の攻撃が止まり、東方は闇の中で笑う男を見やる。声の主は、暗闇の中にぼんやりとその姿を見せた。
泣きボクロの銀髪の男だ。
「…何者だ…」
「俺は、跡部。お前もよく知ってるヤツのトモダチだ……」
「………」
東方の頭の中で、最悪の連想がよぎった。
「お前と戦ったあと、深司のあとを追って自害しちまったらしくてな…。深司のほうはどうでも良かったんだが、コイツは大事な戦力だったんで、傀儡として蘇らせたんだ。もっとも、無駄な感情はその後消去したがな…」
「利用するためだけに、呼び戻したのか……」
「当然だろ。」
東方の予想は的中していた。
生きている間、神尾の感情を利用して戦わせ、命無き今、心無き人形“傀儡”として復活させ、生きていたときと同じように彼を利用している。
そんなやり方に、東方は激しい憎悪と怒りを覚えた。
「……生きているうちに思う様利用してきたはずだ。なぜ…眠らせてやらない……?」
「利用できるモンは利用しとくに越したこたぁねぇんだよ…。これから殺される身なんだ、人形の心配ごとなんかしてんなよ。殺れ、神尾…」
神尾はまた、東方を攻撃し始めた。
東方はそれを防ぎながら逃げまわる。
「逃げてるだけじゃ面白くないぜ?」
跡部は、嘲るように笑いながら東方を見ていた。
東方は、なんとか攻撃をかわしながら、その際に生じる隙を探す。
やっとのことで剣を拾い上げたが、やはりまだ攻撃することはできなかった。隙が無さすぎる。
「ソイツには隙なんかないぜ?死ぬことへの恐怖とかいうモンが、ハナッからねぇんだからよ……」
余裕の表情を浮かべ、笑う跡部。
東方は、神尾の攻撃をかわしながら、一か八かの賭けに出た。
剣を大きく振り上げ、神尾が東方から離れた瞬間を狙って、力の限り振り下ろす。
それは轟音を伴ない、閃光となって神尾の体を貫いた。
「…っ…ゴポッ………」
胸部からは鮮血が噴き出し、口からも血を流しながら、神尾は倒れた。
東方はそれを無感情に近い目で見下ろしている。
神尾は、虚ろな視線を空に向けてぐったりしていた。虚ろではあるが、その目には、傀儡としての無感情さは無かった。
「ど…して………まちがっ………だろ……な……………」
神尾は、虚ろな視線を東方に向けた。
「…ただ………アイツ………守りたかっ………だけ…なん…だ………」
途切れた言葉の合間にも、神尾は何度か吐血した。血の混ざった涙が、神尾の頬を伝っていく。
やがて、神尾は動かなくなった。
跡部は神尾を見下ろし、呆れたような表情を浮かべていた。
「役に立たねぇな……」
「……」
東方は、跡部に剣の切っ先を向ける。
跡部は、表情一つ変えずに東方を睨んでいた。
「どうした?斬らねえのかよ?」
「…」
「迷わず殺すくらいの覚悟がなきゃな…脅しだけじゃ、なんにもならねえんだよ。」
言うが早いか、跡部の放った一撃により、東方は吹き飛ばされていた。
なんとか急所ははずしたものの、東方はまだ立てずにいる。
「お前も哀れなヤツだよなぁ。人間の血が混じってるだけあって、何やっても半端じゃねえか。それでも俺らに楯つこうってんだから、イカレてるぜ…。」
東方は何も言わず、ただ跡部を睨み上げていた。
跡部は冷酷な笑みを浮かべ、東方を見下ろして言った。
「似てるぜ、お前の親父に…」
一瞬、東方は睨むのをやめた。
「お前の親父もそうだった…。死ぬ間際まで俺を睨んでたな…」
「お前が……」
「そうだ、俺が殺した。お前の一族を滅ぼしたのは、この俺だ。」
東方はまた跡部を睨んだ。
まだ痛みの残る腹部を押さえながら立ち上がり、剣を握る。
「なぜ、殺した……」
「邪魔だったからだ。」
跡部は、はき捨てるように言い放った。
東方は眉を寄せる。
「元々、亜久津や俺の計画に反対してたヤツのことだ、あの男が生きていれば、俺達の計画になんらかの支障をきたす。だから殺した。
だが、アイツは、いつか自分が殺されるってことに気づいてやがったのさ…。他にも“罪”があったんだからな。それでも、俺や亜久津に敵うわけがないのは理解していたらしいな。あの日、使い魔を送ってそれをはっきりさせたお前の親父は、何かしら理由をつけてお前を屋敷から出したんだ。俺はその時お前の存在には気づいてはいなかったから、そこにいたやつらを皆殺しにして、ヤツの一族を抹消したと思ってたがな…後々、あいつに息子がいたことがわかったんだ。それがお前さ、ヤツの一族とは別の名前だったから気付かなかったが…それが、お前の父・柳蓮二の狙いだったのさ。お前に一族とは違う名を与えたのは、お前だけでも生かすためだ…そうだろう、禁忌の子が。」
東方の、剣を握る手に力がこもる。
跡部を睨んでいた目に、一層鋭さが宿った。
「俺は元々、アイツとは全く気が合わなくてな、お前が生まれる前にも何度か争ったことがある。その時からずっと俺が嫌っていたのはアイツの目だ…。俺を、下等な生き物を見るような目で見ていた目が…俺は大嫌いだったんだ。だから、殺す前に抉り取ってやった……。この手でな…」
跡部は自分の右手をかざして見せた。
東方は、何かに弾かれたように跡部に斬りかかる。
「フンッ…。ヴァンパイアの血が混ざっていようが、所詮お前はヒュームにすぎない。父と同じ末路を辿るがいい。」
=next