ブレイド(無修正版)
□stage-13:悪魔の子
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ブレイド
Stage−]V 〜 悪魔の子
南は街に出てきていた。いつまでも外に出ないでいるわけにもいかず、流石に痺れを切らして出てきたのだ。
今回は、あの一件もあり、いつでも東方と連絡がとれるよう携帯を持って歩いている。
別に行く所はないが、その辺を歩いているだけでも少しは気が楽だった。
しばらく歩いて、南は公園に来た。よく友人と遊びに行く場所はこの近くのゲームセンターで、ここは公園だというのに子供たちの無邪気な声は無く、そこにあるのは静寂のみだった。
いつもそうだ。ここは子供こそなかなか来ないが、昼間は人々の憩いの場ともなる。
南は、その公園のベンチに腰をおろした。深呼吸をして、空を眺める。
「良い天気だな。」
「?」
声がした方を振り返ると、背の高い、黒い髪の男が立っていた。
「アンタは…?」
「俺は橘桔平だ。最近ここに越してきたばかりで、ちょうど今ここを見つけたんだ。」
「そうなのか…。」
南は、自分も適当に自己紹介をして、また、空を眺めた。空は、そろそろ夕焼け色に染まりつつあった。
いつのまにか、橘は南の隣に座っている。
「…引っ越して来たばっかなのか…この辺のこと教えてやりたいけど…今、俺も大変なんだよな…ゴメンな。」
「気にしないでくれ。その辺を歩きまわるのは好きだからな…」
「そうか、俺も歩くのは好きだ。でも、今はそんなに外歩ける時間とか無いんだけどな……」
南は、苦笑して視線をずらした。橘が、南の言葉にに共感する。
「俺も、しばらく外に出られない時があってな……最近、やっと外に出られるようになったところなんだ。」
「…どうして?」
橘の表情が曇った。
「ま、いろいろあってな…」
「そう、なのか…。」
それ以上は深く追求はしなかった。そして、南はベンチから立ちあがると、ゆっくり歩を進めた。
「俺、そろそろ帰るわ。」
「そうか。じゃぁな。」
「ああ。」
南は、もと来た道を歩いていった。夕日が、辺りを赤く染め上げていく。
彼は、やはり使えるようだ。亜久津が狙うのも無理は無い。
見つけた。やっと……
この時代にめぐり合えるとは、夢にも思っていなかったが…確かに、その存在を今この目で確かめた。
間違い無い。
正真正銘、“悪魔の子”だ。
こんな危険な生き物が、人間に混じって暮らしているなんて……
橘は、南のあとを見送りながら黙って手を上げる。その指先に、一羽のカラスがとまった。
「…行け。」
橘がそう命じると、カラスは、けたたましい鳴き声を残して、あたりに漆黒の羽を散らしながら飛んでいった。
肩に残った羽を摘み上げ、橘は含み笑いをした。
辺りに散った羽は突風に舞いあがり、彼の体を包み込む。
風が止むと同時に、黒い羽も、橘の姿も、もうそこには無かった。
辺りはそろそろ暗くなり始めている。
南は早足で地下に向かい、扉を開けた。
「ただいまー。」
「遅い。どれだけ心配したと思ってるんだ?」
「悪い。でも今の東方、親父みたい。」
「あのなぁ……」
「そう怒るなって。無事だったんだし、許してくれよ。」
「別に怒ってるわけじゃない。」
東方は溜息混じりに言った。
南はさっき買ってきた菓子をテーブルにばら撒く。
「太るぞ。」
「ウルサイなぁ…ιなんか、こういうのってないと落ちつかないんだよ。」
「そう言うもんなのか?」
「そう言うもんなの。」
南は、テーブルにばら撒かれた菓子を満足げに見やりながら、子供のように無邪気に笑っている。
東方はそれを眺め、小さく笑みをもらした。
南に、気づかれない程度に…。
早速菓子に手を伸ばした南だったが、東方に視線を向け、一旦口の動きを止めた。
「どうした?」
「…東方さ、なんか食ってる?」
「いや…」
「普段何食ってんの?」
南は興味津々らしい。
体を乗出し、東方を上目遣いで見上げている。
東方は視線をそむける。
「おーい。人間と同じもん食ってんの?それとも血?」
「どっちでも大丈夫なんだけどな…」
「だけど、なんだよ?」
「やはり血の方がいいらしい。」
「……へぇ。」
「退かないんだな。」
「だって、ヴァンパイアだろ?」
「そうだけどな……」
南は引っ掛かっていた疑問がまだ残っている。
「で、何も食わなくて大丈夫なのかよ?」
「生命力は人間より上なんでな。3週間くらいは余裕で大丈夫だ。」
「そうなんだ……」
「あぁ。」
そう言って笑っていた東方が、南には少し頼りなく思えた。
それが何故なのか、南にはまだわからない。
「東方、もしかして今その3週間目じゃねえよな?」
「ち、違うぞ…。」
「…アヤシイな…。」
「…………2週間…」
「2週間?」
「…と…………6日目…」
確かにまだ3週間ではない。が、南は東方にチョップを食らわせた。
「いてっ…何するんだ…」
「あのなぁっ!んなときに屁理屈言ってんじゃねぇよ!四捨五入したら3週間だろ!」
「切り捨てたら2週間だ。」
「だから屁理屈こねんな!」
また、南のチョップが東方の頭に落とされた。
今度は東方も負けずと南に言い返す。
「俺だって好きで絶食してるわけじゃないんだ。ただ……」
「ただ…なんだよ……」
「血を吸うのをやめてるんだ…今だけは…」
「……なんで…」
「今回の亜久津の計画を阻止したら、少しくらい食事しようと思ってるけどな…それでも、人間の血はやめておく。気が進まない……」
「……そうか。やっぱお前人間らしいとこあるよ…」
「……らしいな…。」
「でもさ、何も食わないってのはよくないだろ。」
「すまないな。」
「なんか食う?」
と、買ってきた菓子を進める。
「いや、どうせなら……」
「俺の血…?」
「…………」
「いいぜ?別に。」
「……痛いぞ。」
「知ってる。」
「苦しいし……」
「知ってるってば。一回噛まれてんだから。」
「……お前、それでも良いのか?」
「何が?」
「何がって……それに、貧血おこすぞ?」
「そこまで飢えてんの?」
「っ…………言い出したのはお前だからな。」
東方は南を押し倒し、その上に覆い被さると、南の首筋に顔をうずめた。
「てっ……!」
刺すような痛みはあったが、亜久津に噛まれた時のような息苦しさは無かった。
しばらくして、東方が顔を上げる。
「…大丈夫か?」
「うん。」
「悪いな……。」
「お前が餓死するよりはマシ。」
「縁起でもないこと言うんじゃない……ι」
東方は困ったような顔をしたが、すぐにまた笑って南を助け起こした。その笑顔が、無理やり作られているようで…南は不安だった。
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