ブレイド(無修正版)

□stage-10:迷い
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ブレイド
 Stage−] 〜 迷い

 走り出した南を神尾が追う。東方はそれに気を取られていた。

「向こうが気になるんだね…でも、自分の心配し忘れてるよ……」

また、容赦無く攻撃を繰り返す。東方はそれを必死でかわしていた。
しかし、少しして東方はバランスを崩した。

「崩した……」
「…かかったな…」
「なに……!?」

東方は、そばにあった電気のコードを引き抜くと、放電するそれを伊武の腕に突き当てた。
それは、伊武の手の甲を焼いた。

「ギ・・ァアアアアッ!!」
 「深司ィィイッ!!」

神尾は、動きが止まったスキにとどめをさそうとした東方に飛びかかった。
東方はそれをかわし、後ろに退く。

「深司……!あぁっ…手が…………」
「熱い、イタイ……!アキラ…助けて………」

神尾は伊武の手の甲を見ながら、気が狂ったように呟いていた。

「手が……深司の…手が………、俺の……大事な…深司の手に……!!」

瞬間、鋭く光る紅い瞳が東方に向けられた。

「深司に傷つけやがって…!お前だけはミンチにしねえと気が済まねえっ!!!」

同時に、伊武とは比べ物にならない早さで、残像を残して東方に接近した神尾は、猛攻を繰り広げた。
さっきまで防ぐのが精一杯だった東方は、今度は何度かその攻撃を浴びるはめになる。

「ぐっ…!」
「くたばれェ!!」

神尾の突きが東方に向かって繰出されたが、東方はそれを寸でで避けた。
東方に当ることの無かった腕は、勢い余って壁を砕いた。それが、自分の身に当った時のことを考えると背筋に冷たいものが伝う。

「っ…」
「死に損ないがァッ!!」

東方は攻撃を避けながら二人の人間関係がふと脳裏をよぎった。
神尾の、異常なほどの愛情が、伊武にはあるのかどうか…ただ、利用されているだけではないのか…
自分でも何を考えているのかわからなくなり、今はこの勝負に集中することにした。
南はそれを見守っている。

「っ…!」

さんざん抵抗を示していた東方の剣戟が、神尾の頬を捕らえた。
そこからは、赤黒い血が流れ出す。

「っ…!」
「アキラ……」

さっきまで無表情だった伊武の表情が、少し変わった。
明らかに怒りの表情だ。無表情と言えば無表情だったが、その切れ長な目がすわっている。

「壊れちゃえ……」

伊武の眼力は東方に向けられていた。
東方はそれを難なくよけることができた。おそらく、重く圧し掛かる怒りでスピードがダウンしているのだろう。

「に、しても……」

東方は双方からの攻撃を避けながら呟く。

「タッグは卑怯だろ……」

一度、伊武に足払いをかけもしたが、そのたびに神尾が素早く助け起こす。
攻撃をしてもあのスピードで避けられるうえに、双方から何度も攻撃を繰出された。

「っ!!」

壁に追いやられそうになり、バランスを崩す。
それを狙って攻撃されたが、それは地面を転げてなんとかかわした。
が、神尾に足をかけられ、馬乗りになられた。神尾の手が東方の首を絞めつける。

「くっ……!」
「もっと苦しめよ……俺の深司に傷つけたこと、むちゃくちゃ後悔させてやるぜ……」
「そう・・かよ……・」

東方は剣を拾い上げ、素早く突きを放った。
それは、神尾に触れることはなく……

「ぐっ…あぁぁっ…………かはぁっ…!ゴポッ……」

「しん・・じ……?」

伊武はどす黒い血を吐き出した。
神尾は東方から手を離す。解放された東方は激しく咽かえった…。
神尾の目にはさっきまでの余裕は無かった。

「深司……?オイ、深司……!」
「ア・・キラ……・イヤ……だ……別れ・・た……くない……」
「深司、深司……!イヤだ…逝かないでくれ…!」
「アキ……ラ……」

伊武は、神尾の頬に手を伸ばす。
神尾はその手を掴み、自分の頬に当てた。伊武の手を、神尾の涙が伝う。

「深司……」
「…熱・・い…苦・・しい…アキ…ラ……た…す・けて…………」
「しん・・じィ……」

神尾は伊武の唇を自分のそれで塞ぎ、伊武の胸を自らの手で貫いた。
唇を塞がれていて悲鳴を上げることもなく、伊武は脱力した。
唇を離すと、双方の唇から血が流れた。

「あり…が…・・と………・・ア・・キ…・ラ……………愛……し…て・る……・・」
「愛してる……愛してる…深司…………」

神尾は伊武を抱き上げ、東方に視線を向けた。
憎悪なのか、悲しいのか、表情が複雑で読み取れない瞳は、涙にぬれていた。
東方から視線をそらし、神尾は闇の中に消えていった。

「東方!」
「……南」
「あれで…よかったんだよ……」
「…そう、なのか……」
「うん。でなきゃ、東方が殺されてた…。」
「……」

東方は、南の胸に抱きとめられていた。

「南?」
「仕方なかったんだ……お前は、悪くないよ……」
「……」
「東方……」
「終らせてやる…全部。争いが増える前に、俺の手で……」
「あぁ……」

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 神尾は、砂浜に座っていた。
動かない伊武の体を抱きしめながらその艶やかな髪を梳いて、愛しげに伊武を見つめていた。
体に残った血は洗い流され、元通りの白い肌が見えている。

「キレイだよ……、深司…スゲェキレイ……」

血は洗い流せたものの、焼かれた皮膚は戻らなかった。
神尾は、何度も顔の傷をなぞり、焼けた手の甲に口付けた。

「深司、一緒に眠ろう。もう、誰にも触れさせない……お前は、俺だけのものだ……深司…」

水平線が赤く染まり始める。
同時に、神尾の頬が、ジュゥッと音をたてて焼け始めた。
伊武の体も、神尾の腕の中でだんだんと崩れていく……

「深司、わかるか?今から、俺ら一緒になるんだ……境界線が無くなるんだ……これで、ずっと一緒にいられるな……。永久に、お前だけを愛していられる。もう誰にも邪魔はさせない……。」

朝日が昇る。

「愛してる。深司……」

二人の体は灰になり、風に吹かれて散っていった。

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