ブレイド(無修正版)

□stage-08:憎悪
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ブレイド
 Stage−[ 〜 憎悪

 夜中の街を、ヴァンパイアスレイヤーを探して歩くヴァンパイアがいた。
神尾アキラ…
彼は、伊武と寄り添うにして歩き、東方に激しい憎悪を抱く。

「…近い…近くにいる……」
「…」

伊武の目が復讐心に燃える…。
神尾は、唯一彼等の臭いを覚えている伊武に頼るしかなく、仕方なく、伊武を連れて歩いている。
本当は連れて来たくなかった。他人の目にふれるのが嫌だと言う理由で…

「血が欲しい……」
「深司…」
「アキラ、血が欲しい…血を頂戴…」
「あぁ。」

伊武は、神尾の首筋に牙を突き立てた。細く儚げな喉に、その血を流し込む。
神尾は、華奢な伊武の肩を抱きながら、伊武が“食事”を終えるのを待った。
痛みはある。血が足りないと脱力感もあったが、それ以上に、自分の血が、伊武に取り込まれていることが満足だった。
しばらくして、伊武は神尾の首から唇を離し、周りに残った血液を丁寧に舐め取った。

「大丈夫…?少し吸いすぎたかも…」
「いい…。餌なら、はいて捨てるほどいる……」

神尾は、周りを見まわす。
ちょうど、そんな二人のやりとりを見ていた人間が、腰を抜かしていた。
 逃げ出そうとする男を押さえつけ、神尾はその喉に噛みついた。
悲鳴が上がる。
突き立てた牙を抜き、そこから溢れ出す血液を容赦無く飲み干す。
やがて抵抗の声は無くなり、すっかり水気を失った人間が、地面に崩れ落ちた。

「ちっ…激マズ…」
「…あとでまた食事しなおしだね…」
「かもな…」

再び、二人は歩き出した。
真夜中の街に、二つの足音が混じったが、それは騒音の中に消えていく。

「感じる…傷が疼く……」
「深司…」

伊武は眉間に皺を寄せ、顔に手を宛がった。
その手をやんわりと外し、神尾は、伊武の頬を両手で包み込む。
伊武の、形の整った白い顔の真中には、惨たらしい罅が走っている…。
神尾はそれを見て、眉をよせた。

「…ぶっ殺してやる……」
「アキラ…」
「…深司の顔に……俺の、宝物に……っ!」
「イタイ、アキラ……」
「もう、誰もお前には触れさせない……」

絞めつけるようにして伊武の体を抱きしめ、神尾は、東方への憎悪を増していった。
伊武は、神尾から感じる憎悪の感情に、心地良さを感じていた。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 東方は、眠っている南の隣であの武器をいじっていた。室町はずっとパソコンの画面に釘付けだ。
かれこれずっとこのまま時間が流れている。
 東方は、ソファで眠っている南の首に目をやる。亜久津に噛み付かれたときの痕はもう消えかけていた。
その代わりに、東方の所有の証が刻まれている。
フッと、小さく笑い、南の髪を撫でた。
 その時だった。
突然、室町のパソコンから音声が漏れた。
元から“夜の住民”の映像を送り込んでいたのだが、今は確かに悲鳴が聞こえた気がした。
東方は室町の方を振り返る。
南も、その画面からもれる悲鳴で目が覚めたようだ。

「……やられました。また、被害者が出たようです…」
「またか…今度はどんなだ?」

東方は、武器を取りながら聞き返す。
室町は、がくがくと震えながら、ハッキリしない声で答えた。

「もう、死んでます…」
「なに……?」

東方の動きが止まった。室町は画面から視線をそらしている。
南と東方は、そのパソコンの画面を覗き込んだ。

「うっ…!」

南は目を伏せ、東方はそのまま無言で立ち尽くした。
薄暗い路地に、男が倒れている。
しかし、それはもう生きた人間ではなく、水分を吸い尽くされ、干乾びたミイラだった…。

「…なんだよ…これ……」
「血を吸い取られたらしいな…それも、半端な量じゃない…」
「……」
「室町、どんなヤツだった?」
「それが、明りの無い通路ですから、はっきり見えなくて…でも、二人くらいいたと思います…」
「襲われてどれくらい経ってからこうなったんだ?」
「…6.5秒です……」
「ちっ……クセの悪いヴァンピールだな…」

東方は、あの青い剣を背中にかけながら言った。
事の凄惨さに、南は震えている。
東方は、扉に近づきながら南に言う。

「南、お前はここに残れ。」
「え……」
「室町、街に出るぞ。」
「オイ、ちょっと待てよ!俺だけおいてくのか?」
「外は危険だ…」

南は引かなかった。

「一人で残るなんてイヤだ!」

暗い通路で、南は東方の腕をつかんで言った。
室町が、心配そうに南と東方の方に振り返る。東方は一旦振り返ったが、きつい口調で南に言った。

「…無茶言うな…お前、狙われてるんだぞ!?」
「でもまた、東方がケガするかも…」
「けがくらい、この仕事にはつきものだ。今更気にすることじゃない…」
「でも、前のヤツだったら…スピードじゃ敵わない。余計に危険じゃないか…」
「なら、亜久津だったらどうするんだ?」
「ぁ……」

南は、それ以上言葉が出てこなかった。
一度亜久津に襲われている南は、亜久津に気に入られている。無闇に外に出れば、今は夜中だとあって簡単に捕まってしまうだろう。
それは南自身もわかっていた。

「お前を亜久津のところに連れていくわけにはいかない…。」

暗い通路に、また沈黙が戻った。しかし、南がその沈黙を破った。

「わかった…ゴメンな。」
「あぁ…」

東方は南に背を向ける。
その背中に、南の言葉がかかる。

「……気をつけろよ…」
「わかった。」

東方は街に出て行った。
薄暗い通路の真中で、南は一人立ち止まっていたが、踵を返して歩き出した。
その直後だった…。

「置いてけぼりか?かわいそうになァ…」
「!?」
「大事なもんなら守って見せろよ……」

衣服の翻る音がして、南の意識はそこで途切れた。

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