ブレイド(無修正版)

□stage-07:所有
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ブレイド
 Stage−Z 〜 所有

 南はずっと、ラボにあるソファに寝転んでいた。外に出ることもできず、退屈だ。
いつもなら、学校で授業を受けている時間帯だろうこの時間。南はヴァンパイアに出くわす恐れがあり、外出できない。
さっきまで室町に数学の話を聞いていたのだが、それもすぐに終ってしまった。
一日の授業の半分くらいのノートを取って、南はずっと寝転んでいた。

 『安心しろ』

あの言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。印象的過ぎた。
強い意志が、言葉としてそのまま南の耳から入り、脳に浸透していった…。
だが、それとこれとは話が別だといわんばかりに、南は肩を落とした。

「東方〜…、ヒマ…」
「仕方ないだろ。ヤツ等、昼間も行動できるってわかったんだ。ノコノコ出ていったら今度こそ助けてやれないかもしれない…」
「そうだけど……ってか東方、あの時、なんで助けにこれたんだ?」
「…カンだ…」
「カン?」
「ラボの奥でヘルメットを見つけて…その時にな、これで紫外線をしのげるんじゃないかと思ったんだ…そしたら、案の定お前が捕まってたってワケだ。その方法で光りをしのいだやつらにな…」
「そっか…」

東方がそのヘルメットを見つけていなかったらと思うと、南は背筋に冷たいものを感じた。
やはり、今の街は自分にとっては危険過ぎるのだと実感せざるをえなかった…。

「俺、普通の高校生だったんだけどなぁ……」
「…まだそうだ。今度ヤツらに出くわしたら、普通の高校生どころか、普通の人間じゃいられなくなる…干乾びるか、サーヴァントになるかだ…」
「わかってる…。」

南は、自分よりも10cmほど背の高い東方を、寝転んだ状態で見上げた。
下から見ても東方は東方だな…などとどうでもいいことを考えたが、さっき東方が言った事が少し気にかかった。
サーヴァント…ヴァンパイアの手下…。

「俺が誰かのサーヴァントになる前に、東方のサーヴァントになればいいんじゃねえの?」
「なっ…!何言い出すんだ!?突然!」

東方は、突拍子も無い南の言葉に、咽ていた。

「だってさ、そうだろ…?俺、あいつ等にはついて行く気にはならないけど、東方にだったら、ついてくよ…」
「…南……そこまで思いつめるな。」
「別に、本心だけど…」
「……本気なのか?」
「うん。」

東方の顔色が変わる。
南は、平然として東方を見上げていた。東方が、南の寝転んでいるソファの隣、ちょうど南の頭の辺りに膝を付く。

「なら、なってみるか?俺のサーヴァントに……」
「いいよ…」
「死ぬほど痛くて、苦しくても?」
「…いい……」

東方は、南の首もとに顔をうずめた。亜久津に噛まれた傷跡が、まだ生々しく残っており、あの出来事を思い出させる。
東方の吐息が首にかかり、亜久津にされたことを思い出してしまい、南は、固く目を閉じる。
南の首筋に東方の唇が触れ、南の体は更に強張った。
チクリと、針の先でさしたような痛みを感じる。その後、その個所を東方の舌が這った。

「んっ………!」

背筋に、痺れが走った。

「サーヴァントにはしない…」
「え…」

東方に耳元で囁かれ、南は閉じていた目を開いた。

「お前は、人間でいろ……」
「…それじゃ今のって……」
「サーヴァントにはしないけど、そばに置いておきたかったんだ……」
「…亜久津と同じこと言ってるし……」
「いっしょにするな…」

南は自分の首に触れた。あの時のように、指に血が絡み付くことは無い。
頬を紅潮させながら、隣にいる東方を見上げた。

「バカ…」
「お前が誘ったんだろ?」
「でもさ、これはないだろ…」
「いいんじゃないのか?お前は俺のものってことで…」
「あのなぁ……」
「「まぁいいや…」」

見事に、二人の声が重なった。

「なんで東方が言うんだよ…」
「お前が言うと思った。」
「…ムカツク。」
「どうぞ御勝手に…」

東方はからかうように笑った。南も、それに次いで笑った。

「もう誘わねえ…。」
「そうか。それは残念だな…」
「あんまりそんなこと思ってないだろ?」
「あぁ。よくわかったな…」
「…」
「俺から誘うまでだ。」
「お前エロすぎ…」
「お前もな…」

二人は、室町をまったく無視して世界を繰り広げていた。
しかし、室町はそんな二人を楽しそうに見守っていた。

「痕、見える?」
「まる見えだ…」
「くそっ、目立つとこにこんなもん付けんなよ…」
「誰かの噛痕よりはマシだとおもうけどな」
「…まぁな……」

南は困ったように笑い、東方は満足そうに南を見ていた。
 今日は一日中暑くるしくなりそうだと、室町はこっそりそう思った。

「東方さん、今日はここにいますよね?」

室町の問いに、東方は頷く。

「やっぱそうですか。ここのところ、休みらしい休みは取ってなかったですから…。この機会に、少しだけでも休んでおくといいですよ。
 それに、あなたがいなきゃ、俺じゃ南さんを守れませんからね。」
「あ…あぁ。」

東方は、少々照れくさそうに答えた。
それを、面白そうに室町と南が見ていた。

「笑うな。」
「悪ィ。」

謝った南だったが、やはり笑っていた。
東方は半ば諦めていた。こう言うことでなら、南に笑われても別に構わないし、それ以前に、南の笑顔は嫌いではなかった。
寧ろ、好きだった。
南の笑う顔を見ながら、あきらめたようにため息をつく東方。やはり室町は、微笑ましそうに見ていた。
東方の保護者を語る室町は東方よりも一つ下なのだが…東方を本当の兄弟のように思っていた。
もちろん、弟のようだと…。

 夜になる…。
街はネオンに照らされ、夜の住人達が活動をはじめる。
二人は、その街を歩いていた。
伊武の髪が、ウルサイくらいに輝くネオンを反射する。
伊武のものとは対照的に、神尾の髪は明るい茶髪。それも伊武には敵わなかったが、精一杯ネオンを反射していた。
 元々神尾は伊武の一族の者ではないのだが、伊武のために反逆し、自らの手で一族を滅ぼしたのだ。
 彼は伊武を愛していた。しかし、彼の一族と伊武の一族が敵対する関係にあった。神尾は迷いもせず、いとも簡単に見方を裏切り、皆殺しにしてしまったのである。
神尾は狂っていた。
自分の一族を滅ぼしたのをはじめに伊武の傍につき、伊武の望むままに破壊と殺戮を続けた。
伊武の全てを愛するが故の捻じ曲がった感情が、彼を新たな殺戮へと導いていく。
今回も同じ。彼の大切な白い肌に、病的で、死人のように白い伊武の肌に、惨たらしい傷を付けられてしまった。それは神尾自身のものでなくとも、いかにも自身のものであるかのように痛みとなって伝わった。

「深司…」
「アキラ…絶対、絶対…確実にしとめてよ…」
「わかってる。」

神尾は、無法地帯の騒がしいネオンの中で伊武を抱きしめ、どちらからともなく口付けをかわした。
まわりからは低俗な言葉が飛び交っていたが、神尾はそれらを無視した。
普段なら思うままに抱き合っているのだが、周りの者には、伊武の姿を見せることでさえ神尾は許せなかった。
こんな場所でキスをしたのも、周りにそのことを知らしめるためである。
伊武の全てを、自分だけのモノにしておきたかった。

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