ブレイド(無修正版)

□stage-06:演舞
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ブレイド
 Stage−Y 〜 演舞

 真夜中、東方はあの無法地帯にいた。何度倒しても次々に湧いて出るヴァンパイア…。
東方は何度もそれを倒していく。

「きりがないな……」
「下がっていろ……」

ささやくような男の声がして、ヴァンパイア達は退いて行く。
東方は、声のしたほうを睨んだ。
そこには、東方よりは小柄な少年が護衛のヴァンパイアを連れて立っている。

「…お前が東方だな。」
「……」
「邪魔なんでね…消えてもらう。」
「お約束なセリフだな…」
「ほざいてろ…」

少年は、武術の構えを取る。
東方は警戒するように剣を構えなおした。

「そんなもの。無意味だ…」
「なに……?」
「俺の前に、剣など意味を成さない……」

そう言い、少年は東方に歩み寄る。

「俺は日吉…アンタが俺っとこのリーダーにケガさせてくれたみたいだな…」
「…アイツの……」
「あの人は、自分の肌に傷をつけられるのを激しく嫌うんでね…それに、相棒の方も黙ってはいないと思うぜ?」
「……」

日吉は、素早くステップを変えて東方との間合いを詰めた。東方はそれをかわし、剣を振り下ろす。
日吉はそれをしなやかな動きで流した。

「…言ったはずだ。俺の前に剣は無意味だと……」
「ちっ…」
「俺の能力だ…動きのハデなお前の剣など、俺の前ではおもちゃに過ぎない。」

動きから見て、日吉のスピードは東方と互角。攻撃力にも大差はないようだが、素手と剣で攻撃力が互角。剣を弾かれたらそれこそ東方の勝率は少なくなる。

「っ…」

東方は、足場の悪い広場を移動しながら、日吉がスキを見せる方法を考えていた。
と、日吉は悪い足場に突っ掛かった。東方は、そのタイミングを見逃さなかった。
しかし…

「何を期待している?俺は、どんな体制からでも攻撃できるんだよ。」
「っ……!?」

日吉は、地面の罅割れにはさまれた足をそのままに、反対側の足で東方に足払いをかけた。
東方はジャンプしてそれをかわすが、そのスキに日吉は体制を立て直していた。

「くそっ!」
「姑息なこと考えてないで、まともにかかってこいよ……クククッ…」
「余裕だな…」

東方は、背負っていた剣を下ろす。そして、両手に剣を構えた。

「学習能力のない生き物だな、人間というのも……」
「あまいな…俺は、こっちの方が動きやすいんでね」

東方は二刀流で攻撃をはじめた。
日吉はそれをかわすが、さっきよりも東方のスピードが上がっている。
剣戟は、日吉の右頬を掠めた。

「なにっ……!?」
「言っただろう、こっちの方が動きやすい…」
「バカなっ!高が剣の一本で何が違う!?」
「空気さ…」
「なんだと…?」

東方は日吉に斬りかかる。
そのスピードは明らかに日吉の最高速度を上回っていた。
少しの油断からそのスピードの攻撃を避けきれず、日吉は腹部を貫かれて崩れ落ちた。

「ぅぐぁあぁっ………!」
「油断しすぎたな。」
「クソ…人間ごときがァッ……!」

日吉は腹部の傷を押さえて、まだ立ち上がれないでいる。
東方はそれを見下ろして言った。

「俺は、空気を切断することができるんでね…」
「空気を………!?っ…だが……、それだけで……」
「空気の隙間を縫って移動してるだけさ…これが、俺の唯一の能力……」
「な・・ぜ……最初から、つかわない…………」
「…これをつかうと、動きこそ素早くなるが、攻撃をした後の隙が大きいんでね…それが命取りになりかねない。だが、お前くらいの早さならひるんだスキに体制を直すくらい、造作も無いことだ…」
「くっ・・そォっ………!」

自分を睨み上げている日吉の首に剣を向けた。
日吉は、睨み続けたまま言う。

「俺は死ねない……俺が頂点に立ってやる……下克上だ……………」
「…じゃあな……」

そのまま、東方は剣を振り下ろした。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 昼間だというのに真っ暗な屋敷の中。伊武は、怒りに任せて暴れていた。
彼の発した力により、彼の周りにあったものは所構わず吹き飛ばされ、粉々に砕け散る。
荒れ放題の部屋の中まで生い茂ったどす黒い薔薇が、ガラスの破片で血を流している。それでもなお伊武は暴れていた。
病的なほど白い肌に走るヒビ状の傷に触れ、更に怒りを覚えた伊武は、黒く長い艶やかな髪を振り乱して暴走を続けた。
何度か止めに来た彼のサーヴァントも、その八つ当りの犠牲と化していた。
 騒音の響く部屋に、また新しく足音が響く。

「誰だよ!?」
「…荒れてんな…深司……」

部屋に入って来たのは、ショートヘアーの少年だった。
しかし、長い前髪が左目を覆っている。
伊武は、視線で射殺すように少年を睨みつけた。

「アキラ…。邪魔しないでよ、でないと潰すよ?」
「モノに当ったってつまんねえよ…殺るなら本人だろ?」
「……役立たずだよ…みんな!日吉も殺されたよ!不様すぎて目も当てられないさ…!」

アキラこと、神尾アキラは、伊武の病的に白い頬に手を添え、そこに走る傷に触れた。
そっと、親指で撫で上げていく。

「キレーなのに…傷なんかつけやがって…」
「アキラ…」

伊武の怒りは、もうその表情から影を潜めてしまっていた。神尾が、伊武の耳元で囁く。

「俺が潰してやるよ…、お前の顔に……俺の大事なお前の顔に傷なんかつけたヤツ。ぶっ殺してきてやるよ…」

神尾は、愛しげに伊武の頬を撫でながら、怒りをあらわにして言った。
その神尾の手を、伊武の手が掴んだ。視線が絡む。

「アキラ…お願い。殺して…」
「あぁ。」
「俺の目の前で殺して…、想像もつかないくらい酷いやり方で…。奴等の苦しみもがく顔が見たい。アキラの手で血肉を引き裂かれていく様が見たい…。命が消える瞬間の、断末魔の叫びが聞きたい…」
「あぁ。お前が望むまでやってやるよ…」
「お願い…」
「あぁ。」

血だらけの真っ赤な部屋の真中で、血を流す薔薇に囲まれながら、神尾は、儚げな伊武の体を抱きしめた。伊武の纏った返り血で、神尾の手も汚れていく。
伊武は、満足そうに笑っていた…。

「アキラは、俺を裏切らないよね…?ぜったい、アイツを潰してくれるよね……」
「裏切ったりしない。絶対に……。」
「嬉しい…愛してる。アキラ…」
「あぁ、俺も…。愛してる…お前のためなら、なんだってするよ……」

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