ブレイド(無修正版)

□stage-04:太陽
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ブレイド
 Stage−W 〜 太陽

 朝、南は室町に起こされた。
ここは日の光りのとどかない地下だ。朝、窓から差し込む日差しで目が覚めるなどということはまず無い。
室町はほとんどラボにいるし、東方は夜中でなくとも地下通路の明りなら平気で、ほとんどずっと起きているようだ。
眠っていたのは、つかれきった南だけのようだ。
 南は、昨夜のうちに携帯で親に連絡をいれた。『友達の家に泊まる』と言って。さすがに、それなら早く連絡しろと叱られたが、それだけですんだのは少々助かったと言えよう。
普段から良く友人の家に寝泊まりしていた南のことだ、親もそれくらいの覚悟はできているのだろう。

「おはようございます。南さん。」
「おはよう…」
「どうします?今日はずっとここにいるんですか?」
「ん〜…それはさすがに辛いな。」
「そうですよね…なら、出かけるんですか?」
「あぁ…昼間はアイツらも行動できないんだろ?」
「はい。」
「でも、学校連休中でよかったよ…」
「そうですね、でも、出席日数は足りなくなるかも知れませんが、俺、教えられますよ。」
「そうなのか?それじゃ、ピンチになったら頼むな…」
「まかせてください」

南は、外に出かけることにした。
 軽い朝食を済ませ、地下通路を歩いていく。もしもこの暗闇で亜久津なんかに会ったら…と、少し不安もあったのだが、ここに来るには明るい外の道を通ってこなくてはならない。
ここで亜久津に出くわす心配は、まずなかった。
 外に出た南は、昨夜通った道を歩いていた。
昨夜コンビニに向かう途中だった南は、そのままあの広場に連れていかれた…
そして、亜久津と逢い、東方に助けられ…室町とも会った。
一晩でいろいろありすぎた。まぁ、言ってしまえば今日は気晴らしだ。
それに、ずっとあそこに閉じこもっているのも窮屈過ぎる。どうせ昼間は、ヴァンパイアは行動しないのだ、日の光に当れば焼け爛れて崩れてしまうのだから。

 ちょうど、古本屋の前を通りかかった時だった。背後に視線を感じる。
降り返ると、そこにはいつもと何ら変わらない街の人間達の風景…。

「…気のせい…か?」

古本屋のショーウインドウに目を移す。しかし、何か違う…。
また、後ろを振り返った。
やはり違和感があった…。

「……」

背後にある風景に比べ、このショーウインドウに映し出された風景には、何かが足りなかった。
目を凝らしてよく確認する…。

「…」

一人、ショーウインドウに映らない者がいた…。

「……」

今度は、あまり目立たないよう、少しだけ後ろに視線を向ける…。
黒いライダースーツの男…。バイクは隣に止められているようだが、ヘルメットは外されていない…。
もう一度ショーウインドウに目を移すが、男の姿はそこには無かった。

「…」
「やっと気づいたのか?鈍感だな、お前。」
「……亜久津……!?」

判断が遅かった。
しかし、まだ遅くないと思い、南は走り出した。いつも通っていた細い裏道を通り、追いつけないようにジグザグに曲がって…

 ツメがあまかった。

背後から響く轟音。
さっき亜久津の隣に止められていたバイクの音だ。

「くっそぉ〜〜っ!!反則だろそれ!!」

南は障害物を器用に避け、目前にあった低めのフェンスを飛び越えた。
ここまでならバイクでは追いつけない。それに、南は走りには自信があった。

 擦れるホイールの音…
衝撃音とともに、目の前に着地したバイク…

南は言葉を失った…。
狭く、薄暗い路地で、背後にフェンスがあり、目の前には亜久津がいる…。

「もう逃げらんねぇぜ…」

亜久津は、バイクを止め、南との間合いを狭めていく。
南はあとずさったが、カシャンと言う音がして、背中が、後ろのフェンスにあたる。

「わざわざ迎えにきてやったんだぜ?この俺が」
「そっちに行く気はない…」
「…」
「俺は、人間でいたい」
「なら、そのままでいろよ…」
「?」

南は、何を言われているのかわからなかった。
それに、ヘルメットに隠れた顔は、表情がうかがえない。

「サーヴァントにはしねえ…血はいただくけどな…」
「…それ、どういう意味だ……?」
「俺はお前が気に入ってんだよ…別に俺のサーヴァントじゃなかろうが、手に入ればそれで良い…他のヤツのモノにならなきゃな…」
「……」

表情こそわからないが、言葉から察するに亜久津は笑っていた。
南は背後のフェンスを握っている手に力をこめる。

「行かない……」
「もう遅ェんだよ…」
「イヤだ……」

亜久津が、更に南に近づく。
 その時、また、背後で違う気配がした。亜久津の動きが止まる。

「…おいしそうだね、ケッコーキレイみたいだし……」

南が背後に目をやると、そこには、亜久津と同じくライダースーツの男が立っていた。
男は、いたって冷静な口調で、亜久津が威嚇するように睨みつけているというのに動じないところから、実力は亜久津と互角かそれ以上なのだろう…。

「…これは俺の獲物だ…」
「でも、サーヴァントにはしないんでしょ?」
「ウルセェ…」

ただならぬ状況に、南は一刻も早くここから逃げ出したかったが、逃げ道は残されていない。
亜久津が南の首に手を伸ばした。あくまで手を添える程度だが、南は抵抗できない。

「…勿体無いなァ…でも、味見くらいはしてるみたいだね…」
「…うせろ、ハイエナが……」
「人聞きの悪い……ま、いいけど。」

ヘルメットの下で、男の目が紅く光った。その光は鋭い閃光に変わり、亜久津の腕を貫く。裂けたスーツから、真っ赤に染まりつつある予想以上に白い腕が見えた。その個所はすぐに火傷のように爛れ、流れ出た血が地面にしみを作った。
亜久津は、平然としてそこに立っている。

「これで許してあげる。どうせすぐ治るでしょ…。」
「ちっ…ナメた真似しやがって…」
「別にどうでもいいけど…早く帰って来てくれない?喧嘩ばっかりされるとさ、マジウザイんだけど?そのうち、キミのサーヴァント殺しちゃうよ?」
「…勝手にしろ。どうせ捨て駒だ…」

南は、二人の間に挟まれて、身動きが取れないまま時間が流れていく。二人は、南のことなどお構いなしに話を進めていた。
その間にも、亜久津の腕の傷は酷くなっている…

「ちっ…そろそろヤベェな…俺は一旦退くぜ。またな」

亜久津はまたバイクに乗ると、南を置いて走り出した。南は唖然としてその先を眺めている。後ろには今だにあの男が立っていた。

「…置いてっちゃった…」

要らないモノを捨てるように出された言葉だったが、その声には、明かに怒りを感じた。

「余裕ってこと…?ヤになるよな…見下してくれちゃってさ。同盟ったって、所詮俺を利用するためでしょ、ホント気に食わないよ、あの男だけは…。そのうち俺が利用してやるんだから、覚えておいてよ…それと、そこのお前。」
「っ…!?お、俺…?」
「そうお前。」

突然自分を指差され、南は更に凍りつく。さっきから自分のことを“物”のように扱っていた亜久津と、この男。自分は到底敵わないのだと、南は理解していた。

「今の話聞いてたでしょ。」
「え…ぅん…」
「アイツを殺したら、まずはお前を食いに来るから…。」
「ちょっ…勝手に決めんな!食われてやる筋合いなんかねえよ!!」
「ウルサイな…下等な生き物が盾付いてんなよ…」

瞬間、南は何かに突き飛ばされて壁にぶつかった。
いつのまにか、目の前にあの男が立っていて、南の首を掴んでいる。

「く……っ…ぅあ…ぁぁっ………っ…!」
「お前なんか簡単に殺せるんだ。甘く見てんなよ…。」

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