ブレイド(無修正版)

□stage-03:絆
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ブレイド
 Stage−V 〜 絆

 しばらく歩いた所で、東方が隠し扉を空けた。
まともな明りも無く、更に暗い通路を二人は歩いていく。

「で、どこ行くんだ?」
「この先に、俺の仲間のラボがある。」
「なんだ、仲間いるんじゃないか。」
「いないとは言ってないけどな。」

少し意地悪く、東方は笑った。

 扉を開けると、突然目の前を照らす光に、南は目を細めた。
歩く隙間がかろうじて残されている空間に、その少年はいた。

「東方さん。おかえりなさい。」
「あぁ。」
「その人は?」
「さっき拾った。」
 「拾ったとか言うなよ…」

ぎっしりと並ぶ機械達の間から覗く少年は、色黒で、その目はサングラスで隠されていた。
パソコンの前に座ったその少年は、南に軽く頭を下げて自己紹介をする。

「室町です。ここで東方さんの手伝いとかしてるんですよ。」
「俺は南だ。」
「そうですか。ここに来たってことは、それなりに理由があるんでしょう?」
「あ、あぁ…なんっつーか…」
 「亜久津にやられた。」
「亜久津さん…ですか…」
「ああ…。まだ助かりそうなんだ、見てやってくれ。」
「はい。」

室町は、南の首の傷を診ている。

「あの…大丈夫、かな?」
「……はい。」

室町は、白衣から注射器を取りだし、南の肩にそれを打った。

「いてっ……突然かよ…」
「突然ですね。でも、これでもう大丈夫だと思いますから。」
「そっか…悪ィな。」
 「だが、しばらくここにいてもらう。」
「え…?」

突然の東方の言葉に、南は間の抜けた声を出した。
東方は、武器を下ろしながら続けた。

「外に出ればまたアイツの餌食だ。」
「亜久津…の?」
「そうだ。気に入られてる。」
「マジ……で…?ちょっと待てよ、俺だって家に帰らないと、さすがに親だって心配する…」
「仕方ないだろう。だが、強制はしない…死にたいなら出ていけ…」
「…わかったよ……」
 「南さん…」
「大丈夫、今日はここにいるよ。明日になったら親になんとか言ってくる。どうせあいつ等、昼間は行動できないんだろ?」
「わかりました。」

南は、ほこりの積もったソファにそのまま腰掛けた。
東方が、意外そうな顔で南を見ている。

「俺だって死にたくはないさ。だからここにいるよ。それに、お前と一緒にいたいしな。」
「どう言う意味だ?」
「ん〜……ま、友達ってとこかな。ってか…命の恩人か…。」

また、意外そうな顔をして、今度は口の端を少しだけ上げて笑った。

「な、なんだよ?今笑っただろ??」
「いや…」
「ウソだ、絶対笑ったぞ東方!」
「良い子は寝る時間だな。」
「俺はガキじゃないっ…!」

そんな二人のやりとりを、室町は微笑ましそうに見守っていた。
長い間東方と共に行動していた彼でも、ここまで楽しそうな東方を見るのは初めてなのだろう。
昔は笑ったのだろうが、いろいろなものを失ってしまった東方は、誰にも心を開かず、笑うことが無くなってしまった。
それが、今は歳相応の笑顔を見せている…。
室町は満足げに笑った。

「ここまで育てたかいがありましたよ。」
「俺はお前に育ててもらった覚えは無い。」
「いや、育てましたとも。手のかかる子供でしたよ。」
「オイ…」
「フフッ、楽しそう…ですね。」
「…ああ。」
「そうですか。それはよかった。」

 月は隠れ、街を照らす光はうざったいネオンしかなくなった。
ただ、血を求める者たちが街をさ迷い歩き、いきのいい晩餐にありついていた…。
南達は知らないが……

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 真っ暗な屋敷の庭、広いプールのまわりに、ヴァンパイア達が集まっていた。
今日しとめた獲物の話、しとめ損ねた獲物の話……聞き取れないほどの数の声が行き交っていた。

「ちっ…さっき逃した獲物はおっきかったなぁ……」

堂本は、今日逃してしまった南のことを言っている。あれからずっとこの調子で、堂本はほざき続けているのだ。
流石にそれをずっと隣で聞かされては、周りの者も限界に近かった。
そこで、その隣にいた少年が堂本を睨んで言った。

「黙ってろ。お前は少々うるさすぎる…」
「なんだと…!?」

堂本は、少年の口の聞き方と、その無いように腹を立て、喧嘩腰になっている。
少年も、少々乗り気のようだ。
喧嘩が始まるのもべつに日常茶飯事だ。とめるものなどいない…。
寧ろ、周りからは歓声が巻き起こった。どちらが死ぬか、賭けをしている者もいる。

「日吉…テメェ一遍痛い目見といたほうがいいみてぇだな…」
「痛め付けられるのはどっちかな……」
「口の減らないガキだぜ。」
「ほざいてろ…」

次々と絶え間無く続く堂本の攻撃を、日吉は難なくかわして行く。
適当なところで、手刀を打ち込み、態勢を崩した堂本を、華奢な足からは想像もつかない力で高々と蹴り上げた。

「ガフッ……!!」

ドサリと、堂本の体が落下する。
日吉はそれを見下ろし、見下したように蹴り飛ばした。

「もうお終いか…?つまらないヤツだな、もう少し遊べると思ったのに…」
「調子付きやがって……」
「……」

日吉は、眉間に皺を寄せた。
そして視線を上げ、このヴァンパイア達をまとめている者を見上げて言った。

「…殺していいですか…」
「まだとっておいてよ…使い道が無くなったら好きにしていいけど……」

闇に同化してしまいそうなほど黒く長い髪の男は、無表情のまま答えた。堂本は、この状態でも安心したように溜息をもらす。
日吉は、気に食わないという表情をあらわにしている。

「…チッ…。命拾いしたな、ゲス野郎…」

そう吐き捨てると、堂本をプールに蹴り落とした。

「聞こえなかったの…?」
「殺しては無いでしょう。どうせ殺しても死なないようなゴキブリなんですから…」
「…あっそ。」

やはり無表情で、男は日吉が去っていくのを眺めていた。そのあとしばらくして、プールに落とされた堂本が上がってくる。

「…ホントだ、生きてた…。」
「あんの野郎っ……」
「へぇー…元気そうだね。流石だよ…キミってば体力意外とりえなんてないんだから。」

堂本はその言葉が気に入らなかったが、上の者に逆らうわけにもいかず、そのまま背を向けて去って行った。

「日吉ならもっと上手く捕まえてくれるかな…次は日吉に言ってみよう……」


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