ブレイド(無修正版)

□stage-01:夜
1ページ/1ページ

ブレイド
Stage−T 〜 夜

 それは、騒がしい夜だった。
暗闇の中でも活気を失わない街は、様々な店たちが、けばけばしいネオンを自慢げに瞬かせている。
その裏側。普段は誰も寄りつかない街の隅に、それはあった。ガラの悪い連中がうろつく街。
娼婦なども平然と通りを歩いては露骨な勧誘をしていた。
警官が行き交ってはいるが、彼等はそんなふていの輩に注意すらしない。それどころか、娼婦の誘いにのっている者もいた。
彼等は皆『同種族』なのだ。
彼等の中では、外界のルールなど無い。本当の無秩序地帯である。
日の光の見えない夜中になれば、こうして街に出て活動し始める。日が昇ればまた眠りに付き、太陽が沈む時を待った。
夜の闇に同化する漆黒のコートを翻し、そんな夜の“秩序無き街”の中央にある広場に踏み入った。
黒い髪をオールバックに固めた、長身の男。彼の足音は、周りのにぎわいにかき消される。
広場で今、“ショー”が行われようとしていた。
 ボロボロで所々に赤黒い染みのあるステージに上がり、長い茶髪をドレッドにした男が叫ぶように言った。

「今日の豪華ゲストだ!!」

たちまち、周りからは雄叫びとも歓声ともつかない声が溢れた。
それが静まらないうちに、ステージにいる男が一言二言何か言ったのはわかるが、その言葉は巨大な声達にかき消されていった。
声がまばらになった頃、ステージに男が三人上ってきた。一人は、強制的に引っ張られているだけだが、あとの二人は下劣な笑いを浮かべ、引っ張っていた少年をステージの床に叩きつけるようにして手を離す。
少年の名は『南健太郎』。突然ここに連れてこられ、このショーに参加させられるはめになった、言うなれば生贄である。
南の喉からは小さく呻くような声がもれたが、再度沸き起こった歓声により、苦痛の声は消え去っていった。
ステージにいた、ドレッドの男が顔色を変えて目前を見据えた。
冷汗をかいてはいるが、顔は笑っている。

「見ろ!ヴァンパイアスレイヤーの登場だ!」

『観客』達は顔色を変えて後ろを振り返った。そこには、青白く輝く抜き身の刀を手にしたオールバックの男が立っている。
全員の標的が、その男に移された。瞬間、数十人もの観客が黒いコートの男に襲いかかる。
男は、その猛攻を難なくかわしながら、次々に相手を切り捨てていった。
広場はあっという間に血で染まっていく。
 南は、それを黙って見ているしかできなかった。
夜中、コンビニに行こうとした自分は、突然何者かに羽交い締めにされて、叫びも出ないよう口を押さえられた。
ずっと抵抗し続けたが、何もかも無駄で、ここに連れてこられてしまった。そして、何もわからないままに、目の前では殺し合いが繰り広げられている。
 フッと、小さく隣の空気が揺れた。
いつの間にそこにいたのか、南の隣には銀髪の男が立っていた。
赤茶系の目が大した光も無い暗闇で輝く。それは、確かに南を見据えていた。南は、逃げ出すことすらかなわず、その銀髪の男を見上げる。
男は笑っていた。
南から視線を離し、今だ血飛沫の舞う広場に目をやって更に満足げに口の端を吊り上げた。

「久々にいいショーが見れたぜ…」
「なっ………?」

不意に、南は腕を掴まれた。銀髪の男は、片手で軽々と南を引っ張り、自分の隣に立たせる。
南は、よろけながらも立ち上がり、今だに離されることの無い腕を見やり、銀髪の男に視線を戻した。男は見下すような笑いを浮かべ、まじまじと南を観察している。

「上等じゃねえの。」
「え…?」

銀髪の男の腕が、南の腰にまとわりつく。南は、今度は抵抗すらできなかった。
見えない何かで体を固定されているような奇妙な束縛感に、更に恐怖心をあおられる。
そうして、何も抵抗できないでいると、首筋辺りを舐められた。

「気持ち良くさせてやるよ…」

 広場で敵をなぎ倒しながらそれを察知した男が、良く通る声で南に叫んだ。

「惑わされるな!!」
「もう遅ェよ…」

=ブツリ…

南の首に何かが突き刺さった。そこから、何かがドクドクと溢れ出しているのがわかる。

「…ぁあ……っ………」

何も、言葉にならなかった。痛みはある。しかし、どうしようもなかった。
体は、何かに束縛されていて動かない。そして、恐怖心に声も出なかった。

「ちっ!」

広場にいた男がハデに舌打ちをし、ステージにかけ上がった。そして、南にまとわりついている男に向け、放電する剣を振りかざす。
男は、いとも簡単にその剣をかわし、数m先に着地した。
南は、首を押さえてその場に崩れ落ち、また呆然とその様子を見ていた。
銀髪の男は、顔色一つ変えずにオールバックの男を見据えた。

「邪魔すんじゃねえよ、小僧。」
「こっちはこれが仕事なんでな。」
「ハハハッ…言うじゃネエか。俺を殺すのか?ヴァンパイヤスレイヤーさんよぉ…」

銀髪の隣で控えていたドレッドの男が、再び、南を拘束した。

「…」
「テメェよぉ、人間なんてもんのタメに俺らと対立してんだろ?それじゃぁ、この小僧も守るのか?ん?」
「あぁ。」

平然として、男は答えた。そして再び剣を構える。ドレッドの男はまた、あの下劣な笑いを浮かべる。
南の首筋に目をやり、生唾を飲み込んだ。

「オイ、ゲス野郎…テメェは、鼠の血でも飲んでやがれ。」

銀髪の男は、そう言うと同時にドレッドの男を蹴り倒した。
ステージから転げ落ちた男は、首が捻じれて全身が痙攣し、間もなくピクリとも動かなくなった。

「ウソだろ……」

南は、そこから目をそらす。
 銀髪の男と、オールバックの男が攻撃態勢に入り、同時に攻撃をしかけた。
素早すぎて、肉眼で追うのが精一杯だ。
時折、鈍い音と共にどちらかの体が壁にぶつかった。幾度と無く、オールバックの男が使用している剣の電撃が見えた。
今のうちに逃げようと思ったが、やはり体は動かなかった。どうしようもない状態だ。
 ただ、二人の激闘を眺めるしかなかった。

=ザッ…

足音がした。

「くっそ……。亜久津のヤツ…本気で蹴りやがったかァ……?」

南から見える位置に、さっきステージから落ちた男が現れた。
捻じれた首を元に戻し、コキッと音をたてながら何度もだるそうに首を回している。
信じられなかった。
首を捻じ曲げられ、ステージの下で痙攣していた男が、今そこに立ってグチをこぼしているのだ。
南は、気を失いそうだった。
 そんなとき、あの二人が動きを止める。
鈍い音をたて、オールバックの男が地面に突っ伏した。

「ハンッ…ザマねえな、東方。」
「…」

東方と呼ばれたオールバックの男は、銀髪の男を睨み据えた。

「面白ェ…まだ元気そうじゃネエか。」
「…」
「また遊んでやるよ。そろそろ良い子は寝る時間なんでな…。
 ハーハッハッハァ…!」

銀髪の男は、見下したように笑い、東方に背を向けた。その行動が、彼の余裕を表している。
たしかに、あれだけの数を蹴散らした東方が敵わなかったのだ。実力があるのは確かだろう。
銀髪の男は、南に近づく。

「近づくな。」

東方が睨みを聞かせていった言葉も、あっけなく無視されてしまった。
銀髪の男が、座り込む南の前に膝をつく。

「またな。」

と、南の唇に口付け、立ち上がり、踵を返して去って行った。銀髪の男の後を追い、ドレッドの男も姿を消した。
東方は上体を起こし、辛そうに息をしながら口もとの血を拭う。
南の体も、いつのまにか自由になっていた。

 =next

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ