学校の怪談に
□8話
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古より黒きは鬼か
真に白きは人か
それは理解しようとて無駄なこと
学校の怪談2 第2章 結成!徐霊部 05
今まですっかり忘れ去られていた亜久津が、不機嫌そうに岩の隙間から現れて橘達の前に降り立った。そして柳と真田の間くらいまできたとき、真田が一つくしゃみをして亜久津から離れていく。不思議に思った柳は真田に問い掛ける。亜久津はさらに真田に近づくが、真田はまた亜久津から遠ざけた。
「なんだよ。」
「すまん…。猫アレルギーなんだ…」
「…」
亜久津はショックを受けたが、沈黙するしかなかった。自分だってこのまちがった封印さえ解ければ元の姿に戻れるのだ。それなのに今の姿ときたら、なんとも情けない猫の姿…。その上猫アレルギーだといって近づけない人物が一名。アレルギーだとはわかっていても、あからさまに避けられるのは少しさびしかった。
さすがに堪えたようでしょんぼりしてしまった亜久津を抱き上げ、千石が、子供にするように“たかいたかい”をした。
「ほーら、泣かないでねー?あっくん。」
「泣くかよ!おろせオレンジ頭!」
小さい猫の姿を馬鹿にされているようで、怒った亜久津は千石の顔を後ろ足で強かに蹴りつけていた。見事鼻先にクリーンヒットしたため、情けない表情で鼻を押さえている千石が、飛び降りてすまし顔で座っている亜久津を見下ろす。
「見下ろすんじゃねーよ。」
「不可抗力だよ…」
千石はやるせない気持ちでいっぱいになりながら、蹴られた際に爪があたっていたためヒリヒリする鼻をさすりながら答えた。
橘達は一旦立ち止まっていたが、また歩き出す。敵が追ってこない安心感もあり、彼らの足取りは次第にゆっくりになっていった。ふと何かに気づいた柳が足を止め、破魔刀を取り出す。
「弦一郎、俺の扇はお前が持っているだろう?」
「ああ。それで、大丈夫だったか?」
「なんとかな。お前こそ。」
「なんとかなった、と言うより、俺はほとんど何もしなかったからな。」
真田は東方を指して『あいつのおかげだ』と言い、破魔刀を仕舞った。柳も自分の扇をしまうと、橘達の後ろについてまた歩き始めた。
暫く行ったところで突如暗闇が覆っている。今まできたところならライトなしでも何とかなったが、ここから先はライトがあってもその範囲しか見えないほどの濃い闇が広がっていた。耳鳴りがするほどの妖気を感じながら、慎重に歩を進めていく。暗闇の中で何かが這うような音がして、それに伴って声が聞こえた。
「憎らしや…憎らしや……!」
「ヤバイ…伏せろ!!」
東方が叫んだちょうどそのとき、壁を破壊して何者かが通路に飛び出してきた。巨大な蛇の尾が目の前を移動していくと、やがてその本体が現れる。一見人間の女性の姿に見えたが、彼女の下半身は巨大な蛇になっている。数十、否、数百年にわたって蓄えられたであろう妖気が放出され、むせ返るほど居心地の悪い空気を生み出していた。
「凄い力だ…!」
橘は、息苦しさに眉を寄せながらもなんとか呼吸を繰り返すが、その度に吸い込まれる魔界特有の空気が、彼らの気分を害していく。どうやら彼女はこの森を狂わせた張本人らしいが、両手に大切そうに蛇の死骸を持っていた。
「何処の誰じゃ…!妾の隷(しもべ)達をこんな惨たらしい目に合わせたのは…!」
自分達だなどと答えられるわけがなかったが、蛇女の目はすでに見通しているようで、怒りの灯った鋭い眼光で射抜くように睨んでいた。
「おのれ…、人間如きが!」
「待て!お前達だって罪もない人間を殺したはずだ!」
「妾は吾が命のため、吾が友“魍魎”のためにやったこと…!やらなければ命は尽きる…。突如現れ、秩序を乱す人間風情に何が理解できようか!?」
巨大な尾が振り下ろされ、周囲の壁や天井をも見境なく破壊しながら橘達に攻撃してくる。巨大な体全体を使っての攻撃に逃げ惑うことしかできず、武器は構えたものの、敵の動きを封じるための東方の札ですら、下手に投げれば弾き返されてしまった。
「くそっ、なんっつー破壊力だよ…」
赤澤がとっさに抱き上げた亜久津を抱いたまま、攻撃から逃げながらつぶやいた。猛烈な速さで破壊活動が繰り広げられているが、自分は手も足も出せない。今は戦闘に出ることのできるメンバーに任せておくとしても、今の状況では心配だった。
「みんな、がんばってくれ…」
何もできないのは、悔しすぎた。
byのんの
蛇女の周りにさまざまな蛇が集まってくる。
「やべぇな・・・」
橘は最初の方で力を使い、かなり消耗していた。
「おい、橘。」
「なんだよ」
「周りにいる蛇を俺が倒すから、その間に奴を倒せ。」
「わかった。」
東方は札を構える、それが合図であるかのように橘も篭手に気を溜め始める。
「初めて使う術だから上手くいくかわかんねぇけど・・・いくぞ」
札を数十枚天井の方へと投げると、それらは蛇の頭上に広がるった。
「いくぞ、すべてのものを焼き尽くす」
東方が印を結ぶと札が淡い光を放つ。すると、札から光線のようなものが出て周りにいた蛇の焦げた臭いが立ちこめる。一瞬うまくいったかのように思われたが、この衝撃で壁の一部が崩れ、東方はその下敷きになってしまった。
「っ、やっぱまだ・・制御できねぇな・・・」
光が消えると、蛇女1人だけが立ちつくしている。橘はそこに向かって走り、拳を振り上げた。
「愚かな・・・」
「ぐぁ!!」
「東方、橘!!」
蛇女は橘の攻撃を跳ね返した。それをまともにくらい、後ろの壁まで飛ばされる。柳も扇で風を起こし蛇女を攻撃したが、それも返されてしまい、負傷してしまう。
「連二!」
「おのれ・・・あの忌まわしき仙人の末裔か!?」
「?」
蛇女の懇親の怒りの籠もったような声に、東方が反応する。
「許せぬ・・・まずはお前から血祭りに・・・」
「させない!」
千石は東方の前に出て呪文を唱える
その後ろで破魔刀を構える
「愚かな・・・人間ごときに妾は倒せん!」
「やってみなきゃわかんないでしょ!!」
千石は自分の唯一使える技を使った。何が出るか分からないという不安を持ち合わせた技だったが、こういう時は神に祈るしかない。なんとか出てくれた草系の技で蛇女の動きを止め、その後ろから真田が斬りかかる。その瞬間蛇女の体から電撃が流れ、千石と真田がまともに電撃を受けてその場に倒れた。
「千石、真田!!」
「まだ一人居ったか・・・」
「赤澤逃げろ!!」(橘)
蛇女は赤澤の方へと視線を向け、電撃をためていく。赤澤は亜久津を抱いたまま目を瞑った。
力を・・・
「え?」
何か赤澤の耳に、彼の鼓膜にだけ直接響くように言葉が聞こえる。その瞬間赤澤の体から白い光が現れた。
「おのれ鍵風情が、また妾の邪魔をするかぁ!!」
蛇女は溜めていた電撃を赤澤に向けて投げつける。すると赤澤の近くにいた真田の体から赤い光が現れ、その電撃をかき消した。白と赤の光が蛇女に向かって放たれる。
蛇女の叫び声が響いた。
光が消えた場所に蛇女の姿はなく、変わりに白い小さな玉が落ちていた。そして、赤澤と真田はその場に倒れる。
「赤澤・・・」
橘は傷の痛みを堪えて何とか立ち上がり、赤澤を抱き起こす。柳も同じようにして真田を背中におぶった。千石は瓦礫に埋まっていた東方を助け出して肩を貸し、亜久津は白い玉を口にくわえた
「とりあえず学校に行くか」
「あぁ」
橘達は建物の裏口から出て学校へと向かう。正門を通ると、平日だったため、体育の授業をしていた生徒達(それも橘達のクラス)の視線を浴びるはめになった。
「どうしたんだよ、その怪我」
心配そうに近寄ってきた南に説明すると、南は自分もついて行くと言う。そして部室までたどり着くと椅子には華村が座っていた。
「・・・たいへんな戦いだったようね」
「えぇちょっと・・・ですが封印する事はできました」
「お疲れさま」
話が一段落付くと、南が全員の治療を始めようとした。その時にちょうど赤澤と真田が目を覚ます。
「ここは・・・」
「やっと目が覚めたか。」
「橘?あれ・・・ここ学校・・・」
きょろきょろと周りを見ている赤澤の隣で、真田が柳に向かって言った。
「蛇女は・・・?」
「赤澤とお前が倒した」
「俺?」
「あぁ」
赤澤は少し嬉しそうな顔をした。いつも助けられてばかりなのに今回は自分も役に立てたのだ。赤澤は、その時の記憶こそ曖昧だった物の、あの時聞こえてきた声について橘達に言う。真田も聞こえたらしいが、それがなんなのかはまだわからない。
「もしかしたらこれが関係あるかもな」
亜久津がくわえていた玉を床に置く。
「これは・・・?」
「前に話した俺のパーツの1つだ。」
東方の質問に亜久津が答える。
「今回もなんかありそうだな・・・赤澤の能力も気になるし」
東方の言葉に、橘も頷いた。
「とにかく亜久津のパーツを探そう、もしかしたらそこに何か隠されてるかもしれねぇな。」
「それじゃあ今日はもう家に帰ってゆっくり休みなさい、学校の方は公欠になってるから安心して。」
橘達は華村の言葉に甘えることにし、治癒してくれた南に礼を言ってからそれぞれ家に帰った。
byネコアメーバー