Original

□独占欲
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「僕のものにならないって言うのッ……!?」
彼は声を噛み殺すようにそう言った。
私が彼の思い通りにならないのが気にくわないようだ。
どうして…どうして… と彼は繰り返す。
そしていきなり何かが切れたかのように暴れだした。
そして狂った様に大声で叫んだ。
「僕の思い通りにならない君に…!なんの価値があるんだっ!!!」
彼はテーブルの上に置いてあった皿やコップを、力任せに私に叩きつけた。
私にあたった食器はゴトンと音をたてて床に落ち、あたらなかった食器は床にぶつかって割れた。
その破片は私の脚や腕にチクチクとあたる。
「痛っ…!」
「綺麗じゃないっ…今の君は綺麗じゃないよッ!!!」
テーブルの上にあった食器を投げ終えると彼は私に背を向け静かに息切れていた。
「ハァ……ッ…ハァ…。」
そして壁に寄りかかったまま彼は言った。
「…ねぇ?今の君に生きてる意味ってあるの?」
「え……?」
そして少し間をおいて、こちらに振り向き、
「僕に必要とされない人生に価値ってある?ないよねぇ?」
もう、その言葉は私に話しかけてはいなかった。
その顔は不気味な笑みをうかべている。
彼は一歩一歩、私に向かって歩きだした。
静まり返った部屋に床の軋む音が響く。
その音一つひとつが私の耳に届くたびに、彼が近づいてくることが恐怖となって私を襲った。
恐いっ…!
そう思っても震えて声が出てこない。
逃げたい、でも足が動かない。
その感覚がよりいっそう、私の恐怖を大きくした。
「フフッ…捕まえた。」
背筋が凍った。
彼の冷たい手が私の頬に触れる。
「っ…!」
「僕ね…気づいたんだ。僕のものにならない君は生かさなきゃいいんだって…。」
「なっ……!」
そして彼は私の頬から手を離し、床に落ちていたガラスの破片を一つ拾い上げ、私の頬にあてた。
「…何するの…?」
分かっているのに、その答えを認めたくなくて、そんなことをきいてしまう。
「分からない?」
彼はとても優しく微笑んで言う。
声も今までのことが嘘だったんじゃないかと思うくらいに優しい。
彼の瞳は私に溺れる様に…私に酔うように私を見つめている。
「君は今から一生僕のものになるんだ…。」
そしてガラスの破片を持った腕を思いっきり引いた。
「ッ…!」
私の頬を赤い滴が伝った。
「僕は…僕の思い通りになる君が好きだよ…。」
そう言って、彼は頬を伝う赤い滴を舐めとった。
その舌はどんどん私の口元に近づいて来た。
そして…。

「っ……んっ…!」
優しい口づけ。
驚いて離れようとしたが彼はそれを許してくれない。
分かっている。
このキスに意味がないことくらい。
そんなキスは望んでいないはずなのに…。

私はいつの間にか彼を受け入れていた。
そして求めていた。
自分から彼に舌を絡めた。
収まりきらない、どちらのものか分からない唾液が口角から顎を伝う。
「…ハッ……ッ…ぁッ…!」
恐怖という感情はどこかえ消え失せ、今は彼の支えになりたいという感情が芽生え始めていた。
彼の唇が離れたとき、離れたくないと思ってしまった。
間違っていると、この感情はイケないと分かっているのに自分を止めることが出来ない。


――――彼が好きなのだ


認めたくない。
またいつ痛い目に遭うかわからない。
分かっているのに彼に騙される。

「好きだよ…。」

そう言って、彼は私を優しく抱きしめる。
「ねぇ…僕のお人形になってくれる…?」
彼の白い手が私の頭をやさしく撫でる。


――――それが彼の為になるのなら…。

私は、コクンと小さく頷いた。
「フフッ…手に入れた。」


――――あぁ…もう戻れない…。


「よろしくね。僕の可愛いお人形さん?」




――さぁ…僕のお人形になって…。――



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