冷たい風がこれでもかと突き刺さる季節がやってきた。
防寒具でも防ぎきれないソレは、無防備にさらけ出されている頬に刃となって突き刺さる様に感じる。
「寒いってか、いてーよ」
独り言の様に呟かれた言葉を、隣を歩く彼女はクスクス笑いながら乾燥して切れてしまいそうな頬に手を伸ばした。
『カサカサしてるね。お家帰ったらお風呂で暖まろうね』
「おっ、珍しいー‼俺様と一緒に入ってくれるのー?」
茶化す様に言えば、彼女は優しく笑いながら、少し恥ずかしそうに頷いた。
『佐助のホッペが可哀想だからね』
寒さで赤みががった鼻先とは別に、頬から耳まで真っ赤になりながら笑う彼女。
差し出した手を握り合いながら仲良く帰路に着く。
…これが現実ならば、なんて幸せなんだろうか。
『よそ見してる暇、ある?』
ニコリとも動かない表情のない顔で覗き込まれた。
2人の間にあるのは、火花を散らす本物の刃。
動き回っている為か、寒さなんて微塵も感じない。
頬にピリピリとした痛みが走るのは乾燥のせいではなく、彼女に付けられた刀傷のせいだ。
此処は生死を分かつ場所。戦場だ。
「君の瞳に俺様だけが映り込むのが夢みたいで、本当に夢見ちゃったよ‼」
『成る程ね。…貴方の瞳にもあたしだけが映り込んでるわ。政宗様風に言うなら、ろまんてぃっく、ね』
相変わらず死んだ表情で淡々と話す彼女に押されそうになるのを、何とか踏ん張って返す。
「ねぇ、今生は無理だろうからさ」
『?』
「次の輪廻で会えたら俺様と恋に落ちてくんない?」
今の俺様が出来る最大級の愛の告白。
彼女はきょとんとした後に、やっと笑った。
ダメ
『あたしより強くない人は好きにならないよ』
綺麗な笑顔で笑う彼女に、ほんの少し見惚れた。
「それじゃあ、俺様頑張っちゃうね‼」
君に似合いの紅を贈れる様に、ね。