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□鬼さんこちら
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『わたしはいつもお前を傷つけてばっかりだね』


悲しそうに伏せられた瞳は全く視線が合わなくて、僕まで泣きそうになった。
向ける刃は悲しみと怒りの間で揺らいで定まらない。


「そう思うんだったら戻ってきてよ」


『それは、出来ない』


なんて残酷な言葉なんだろうか。
出来ないくせに、僕を労る言葉なんて、慰めるみたいな言葉なんて、要らないよ。


『元親せっかくの機会だ。わたしを殺す気で来い』


「できないよ、できる訳ないよ…っ」


物心ついた時から一緒に居てくれた君を傷つけることなんて、ましてや殺すことなんて出来ない。
ゆらゆら揺れていたはずの刀身は、死を理解してしまいガタガタと震え始めた。


『情けない。お前がやらないとわたしはこの国を滅ぼすんだぞ?』


「なんで、なんで、」


『理由を話したところで理解は出来ぬだろう。わたしがこの国に害を与え、お前の父親の首を跳ねたのは紛れもない事実だ』


「―――っっ!!!」


どくんどくんと心の臓が五月蝿い。
然程好きでもないと思っていても、やはり両親だった父上の首を跳ねる瞬間が脳裏に焼き付いている。
怒り、憎しみ、哀しみ、色んな負の感情がチリチリと目玉の奥を焦がすような、血が沸騰してしまったよな不思議な感覚。
初めての感覚。


『いつまで呆けているつもりだ。お前が殺らねば、わたしが屠るぞ』


「う、うぁ…」


僕の視界が歪んでいく。
君の研ぎ澄まされた眼孔が僕を見ている。
なんで、なんで、…―っっ!!


『元親、…否、姫若子。貴様にはがっかりだ』


あいつの、鋭い刃が、俺に向かってくる。
殺らなきゃ殺られる。
一際大きく心の臓が跳び跳ねた。


『……見事』


「あ、あぁ、」


俺にもたれるあいつは耳元で短い呼吸を繰り返し、宙を切った刀が滑り落ちて地に落ちた。


『やれば、出来、る、じゃないか。…お前は、もう姫、じゃないよ』


「俺が、あ、あぁ、いや、だ…」


『お前は立派な、鬼若子、もう、誰も、お前を、笑わない』


「し、死なないでっっ…」


『全てを、守れる、力を、手に入れたんだ』


「そんなの、」


『元親、お前は、わたしの、誇りだよ』


最期に見えた横顔は俺が大好きな満面の笑みだった。







鬼さんこちら




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