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□束の間の休息
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『戦争なんて早く負けて終わっちゃえば良いのにね』


使い慣れた刀の手入れをしながらぽつりと溢したその言葉に思わず杯を落としそうになった。


「はっ」


全く理解不能なその言葉に多少腹が立ったんだと思う。
思わず出た言葉は明らかに怒りを滲ませていたのに、そいつは笑っていた。


『だってこんな馬鹿げた戦争、勝てるわけないでしょ?』


けたけたと笑いながら視線は愛刀へと向ける女に腹が立った。
まるで、今まで落としていった仲間の命が無駄だったと言われてる様で悔しくて、悲しくなった。


「てめぇ…」


『そんな睨まないでよ。わたしは当たり前のことしか言ってないと思うけど?』


「んなこと」


『銀時、あんただって心のどっかでわかってるでしょ?』


反論しようとした言葉はその一言と射抜く様な視線で何の意味を持たなくなってしまった。
言葉に詰まって俯く俺の頭に暖かい手のひらがわしゃわしゃと髪をまさぐる。
泣き出したくなる感情を必死に押し込めて顔をあげれば、綺麗に笑う女の顔が眼に飛び込んできた。


『意地悪言っちゃったかな。…ごめんね』


苦笑するみたいに笑う女は強引に俺を抱き締めて、わしゃわしゃと頭を撫でる。
言いたかったことが雪解けする様に消えてなくなる不思議な掌。


『けどね、この戦争に意味はあるんだと思うし、死んでしまった仲間たちが居たから私たちは戦えるんだよ』


「……………」


『それだけはきっと誰にも侵せないものなんだから、今を受け入れなさい』


大人びた発言の裏側にはきっと数えきれないくらいの救えなかったモノがあったんだと思う。
子供の様に振る舞えなくなるくらいに何もかもを奪われたんだと思う。
けど、せめて今くらいは


『あんたの髪はいつでもわちゃわちゃしてるね』


「人の頭を祭りみたいに言うんじゃねぇよ」


『気にしなさんな。誉め言葉なんだから』


「どこがだよ」


暖かい腕の中と降ってくる小さな笑い声にむくむくと大きくなりそうな邪な気持ちは消えてしまった。


『たまにはお姉さんが甘えさせてあげるんだから、感謝しなさいよね』


「じゃあおっぱい揉ま」


『調子にのんなくそ餓鬼』


「…さーせん…」


とりあえず今はこの幸せに感謝。





束の間の休息





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