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□セイレーンの涙
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懐かしい夢を見た。
アタシとよく似てとても弱い君と、身を寄せあって泣いてる。
とても大事な人だったのに顔も思い出せない。
あれは一体誰だったんだろう?
どうしてこんなにも大事な思い出なのに、思い出せないんだろう?
『記憶って、過去があるから成り立つモノだよねー』
「なに、突然?」
『いや、なんとなく』
「ふーん?」
『アルティミシアが望んだ時間圧縮って、未来はもちろん、過去も無くすってことなんだよね』
「んー……俺にはよくわかんないや」
アーヴァィンにとっては難解な質問に首を傾げて相棒の手入れをせっせっと始めてしまった。
それでもアタシは夢の続きを思い出したくて話を続けた。
『G.F.を使って記憶を無くすのと、アルティミシアの時間圧縮で全てを無くすならどっちが良いかな?』
「ねぇ、」
『なんてね』
なんとも言えない表現であたしを見るアーヴアィンに笑って見せる。
アーヴアィンの言葉いつだって飄々としているのに、その本質は悲しみと、ほんの少しの真実が混ざってる。
だからあたしはいつもアーヴアィンの話を聞かない。
……聞きたくない。
「忘れ去られるくらいなら、始めからなかったことにする」
『え?』
「人間ってきっと温もりをくれる何かに忘れ去られるのを怖がるものなんだと思う」
『アーヴアィン?』
「忘れられたら触れてくれなくなるから、覚えていたい温もりがどんどん消えてしまうから、それってすごく辛いことだよね?」
悲しそうに笑うアーヴァインがあまりにも痛々しくて、何て声をかけて良いのかわからなくなってしまった。
ただ、アーヴァインがあまりにも悲愴な顔をするから思わず伸ばした両腕は彼を抱き締めてしまったんだろう。
『そんな悲しそうに笑わないでよ』
「僕は、やっぱり壊れた歯車なのかましれないね」
『何を言って』
「僕は、君がくれる温もりが恋しくて仕方がないよ」
アタシの胸の中で小さな子供の様に震えながら静かに涙を流すアーヴァイン。
言ってることは何一つ理解が出来ないのに、自然と涙はこぼれ落ちて、息がしにくい。
なんで、こんな気持ちになるんだろう。
「ごめんね」
彼のそんな弱々しい言葉の意味は全くわからないくせに小さく頷いて、アタシもまた同じようにごめんね、と呟いた。
セイレーンの涙