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□追い抜けない
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戦場から去っていく君の背中はいつもあんまりにも痛々しくて、俺様は手を伸ばせなかった。
戦忍のくせに痛がりの君はいつも傷付いてばっかりだ。


『……………』


戦が終わったばっかなのに眠ることもしないで束の間の平和を酒につぎ込むこの人は馬鹿なんじゃないかと思う。
上田城の天守閣より上の屋根。
真ん丸のお月さまに飲み込まれてしまいそうなそこで独り酒を煽る馬鹿を見つけた。
どんなに気配を消した俺様に気づいているはずなのに、知らん顔で酒を飲み干す。
それがいつも悔しくて、寂しい。
お前はまだまだなんだよ。って言われてるみたい。


「今日は月見酒?」


仕方なくいつもの様に隣に座りながら声をかけると、持っていた杯に酒を注ぐ。
ただ無言で小さく頷いて杯に口付けた。


「今日もお手柄だったね」


『お前も手柄が欲しかったのか?』


「そりゃもちろん!!…なんて言うと思った?」


『思わない』


微笑をこぼしながら杯を煽る君はどことなく幻想的で、俺様は無駄にどきどきする。
君の一挙一動にどきどきしている俺様なんて何処吹く風。
いつまでたっても敵わない。


『佐助、お前は何の為に戦忍として命を賭す?』


「えっ」


珍しい君からの質問に目が真ん丸になる。
いつもは合わない視線だって、今は真っ直ぐに俺様を見つめている。
息が出来なくなるくらいに苦しくてくらくらしてる俺様に、優しく君の掌が頭を撫でた。


『お前にはまだ早かったな』


喉を鳴らして笑う君は悔しいくらいに大人で、悲しいくらいに先輩だった。
俺様には絶対に真似できない大人の見ないふり。


『弁丸様が真田を名乗る時までに見つかると良いな』


わしゃわしゃと頭を撫でる掌がすっと遠退く。
その掌を掴みたいのに子供な俺様はそれが出来ない。
背中も見せずに去ってしまう君に追い付ける日はくるのかな?


『お前も早く休めよ。おやす』


「ねぇ!!」


「?」


咄嗟に出た言葉に続く言葉が纏まらなくて静かな時間が過ぎていく。
時間にしたら一瞬のはずなのに、永遠にも続くような時間。


『用がないなら、わたしは行くぞ』


「俺様が大人になったら、一緒に月見酒してよっっ」


こんなことしか言えない俺様の心を見透かす様に君は軽く笑って、背中も見せずに消えてしまった。





追い抜けない





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