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□約束しましょう
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「あんたはまた俺様の前から居なくなるんだね?」


『そうみたいだね。今日が約束の日だから』


二人でよく一緒に星を眺めたベランダで、彼女は半透明の腕を月明かりにかざしていた。
三年前に死んでしまった彼女が、俗に言う幽霊となって俺の前にあらわれたのは一週間前。
廃人みたいな生活をしていた俺様は、その一週間でみるみるうちに元気になった。
我ながら単純だと思う。
けど彼女はまた消えようとしている。


「また寂しく、なるね…」


『…わたしが何でここに来たのか知りたい?』


月明かりで少し透けて見える彼女はあの頃となんら変わりない笑顔を見せている。
俺様は煙草の煙を吐き出しながら首を傾げると、彼女は触れられないその手で俺様の頭を撫でる仕草をしてみせた。


『さよならとありがとうを言いにきたの』


「な、んで…」


あまりにも綺麗に笑う彼女に思わず涙が溢れていく。
頭では理解してるのに、心がごねて苦しい。
視線を足元に向けると透けているけど彼女の小さな裸足の足が視界に入った。


『急すぎたから、ちゃんと挨拶しておきたかったの』


「あんた、残酷だよ…」


『そうだね。わたし、また佐助を傷付けてるね』


「そうだよ。あんたのせいで俺様はまた傷付くんだよ」


『うん。ごめんね…』


「さよならと一緒に他の誰かの愛し方を教えてよ…」


自分でも腹が立つくらいに弱々しくて、情けない声。
隣で息を飲み声が聞こえた。
ほんとはあんたの方が傷付いてる。
俺様なんかよりよっぽど傷付いてるんだ。
そう思っていても俺様は自己中心的にしか考えられない。
あんたが居なくなったら俺様はまた色のない世界で暮らさなきゃならなくなる。
ぐるぐると頭の中を駆け巡るそれにストップをかけたのは彼女の涙声だった。


『ごめんね、一緒に生きてあげられなくて、…先に死んじゃって、ごめ…』


視線を上げると俺様が大嫌いだった泣き顔で謝り続ける彼女が居た。
すっと引いていく嫌な思考と、罪悪感。
触れられない彼女の頬へと手を伸ばす。


「俺様こそ、ごめんね…」


『他の人の愛し方なんて、わかんないよ、… 佐助に知ってほしくなんかないよ…けど、佐助は、今を生きてるから、』


彼女の等身大の葛藤。
死んでまで心配させて苦しめたのは他でもない俺様なんだ。
だったらせめて最期くらいは笑顔で送ってあげよう。


「ねぇ、今度は俺様から言わせてよ。さよならとありがとうを」


大きな瞳からぽろぽろと溢れる光の粒が触れる前に消えていく。
月明かりに照らされて透けていく彼女は、更に泣きそうになった表情を無理矢理笑顔にかえた。
ひどい顔だと思う。
それなのに、それが愛しくて仕方ない。


『さ、すけ…』


「あと、約束させてよ」


『やくそ、く…?』


「俺様、待ってるから。あんたが生きてなくても、ずっと待ってる」





約束しましょう


彼女は俺様の約束を聞いて、返事を聞く前に消えた。


「やっぱり、あんたが居ないとつまんないよ…」


俺様の声に返事する様に木々がざわめいた気がした。




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