『狡噛は狡噛が目指した道を進めばいい』
「お前…」
槙島との最終決着をつける為に北上している途中に放った言葉は、笑えるくらいに震えていた。
言葉では表せない不安と、確信に近い予感に、それを言わずには居られなかった。
狡噛は驚いた様に目を見開いたけど、直ぐにいつものポーカーフェイスに戻って窓の外へと視線を向けた。
『驚いたか?』
「ああ。お前は感情を出せないやつだとおもっていたからな」
『私は機械じゃない。感情なんていつでも出るさ』
「それもそうだな。すまなかった」
狡噛の謝罪がやけに胸に重くのし掛かる。
あー…嫌だな。
泣きそうだ。
そんなことを考えてたら不意に目の前が真っ暗になった。
僅かに差し込む光りのお陰で、それが狡噛の手だとわかった。
指先から微かに香る煙草の香りが余計に感情を波立てる。
「俺は今、ここに居ない」
『は?遂に頭がイカレたか?』
「どう解釈しても構わない。お前は今、一人だ」
『あ…』
そういうことか。
優しい狡噛は不器用なやり方でわたしを慰めようとしてくれているんだ。
遠回しの泣いてもいいよ、の言葉にホントに泣きそうになる。
『……どんな結果になろうとも』
「………………」
『絶対にかえってこいよ』
泣きそうに、挫けそうになる気持ちをなんとか繋ぎ止めて絞り出した言葉は狡噛に届いたのかな。
「………………」
静かに引かれる体温も、香りも、全て引き留めることが出来たなら。
『さぁ、狐借を始めようか』
「ああ」
上司Aの秘密
狡噛、わたしはお前がしんだら悲しいよ。