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□早く帰ってきて
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「別れよう」


いつだったか話した特別な日に少し高いおしゃれなホテルに泊まりたいね。
そう言っていたわたしに笑って頷いてくれた彼は、予想よりも遥かに上のホテルの一室に呼び出してきた。
なんとなく、なんとなくだけど予想はしていたんだけど、これは…


「たくさん考えたんだ。これ以上はお前を傷付けるだけだから」


『弖虎…』


「俺はもう二度とお前に会うことはない。今までありがとう。元気で」


そう言って部屋から去ろうとする弖虎に思わず抱きついてしまった。
こんな未練がましい行動は鬱陶しがられるだけだとわかっていても、行動せずには居られなかった。


「今日この部屋は好きに使って」


『うぉらっ!!』


「…っ!!?」


ふかふかのベッドに自分至上最高のバックドロップをかましたわたしに弖虎は驚いた様にこっちを見ている。


『別れないから!!弖虎がなんと言おうが別れてやんないから!!』


「これしか方法がないんだよ」


『いつもいつも自分が正しいって、顔して何なのよ!?』


『わたしは弖虎が好きなの!!』


「……………」


目を真ん丸くしていた弖虎が少しだけ視線を下げてしまった。
わたしは胸がぎゅうぎゅうと締め付けられて痛い。
痛くて痛くて涙がぼろぼろと溢れてきた。


『何でわたしには何も出来ることないの!?悔しくてゲロ吐きそう!!』


一息に叫んだら足から力が抜けて崩れ落ちてしまった。
弖虎は一つ息を吐いてあたしに歩みよってきて、あたしの大好きな腕で抱き締めてくれた。


「これから俺が言うこと誰にも言わないでくれるか?」


弖虎の小さな声が耳元で聞こえてわたしは頷く。
それと同時に首筋に何かが伝った。


「おれ、ほんとは怖い。…死ぬかもしれないのも、お前に会えなくなるのも怖い」


『弖虎…』


「ほんとは自信なんてない。間違ってるかもしれない。お前にこんな姿見せてるのが、情けなくて、かっこ悪ぃ…」


いつも自分勝手で、やりたいようにやってきた弖虎が初めて吐き出した弱々しい言葉は、わたしの胸の柔らかい場所にぐさぐさ突き刺さった。
わたしは今から一人でガクソという巨大な組織に喧嘩を売りに行く弖虎を強く抱き締めて、頭を撫でる。
なんで、なんで、いつも弖虎が傷付くの?
辛い思いをしなきゃいけないの?
そう思うとわたしの涙腺は壊れた様に涙がぼろぼろと溢れ落ちる。


『かっこ悪くなんてないよ。弖虎は、すてきな人だよ…』


「ごめん、ごめんな」


『わたし、待ってるから。いつまででも待ってる。だから』





早く帰ってきて



ほんの少しの悪意と、強大な好奇心でめちゃくちゃになりそうなこの国を救ってあげて。




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