『たばーこー』
「おい、それ俺のだぞ」
『気にしないでー』
俺の胸ポケットから抜き取った煙草をくわえて火を着ける。
たったそれだけの動作に変わらず鼓動が早くなる。
いつまでたっても慣れない彼女の存在。
きっとこれが愛情なんだろうな。
なんて柄にもないことを考える俺はもう末期だ。
『しずおー』
彼女の甘ったるい声と一緒に背中と首に温もりがやってきた。
普段のスーツを着こなしてハイヒールを鳴らしながら街を歩く姿からは想像できないくらいで、甘えてくる猫みたいだ。
『静雄の髪の毛は猫さんみたいだねぇー』
「痛みまくってんだろぉよ」
『んー…あたしは好きだよー』
好きっていう言葉がこんなに特別だと思わなかった。
それだけで、全部受け入れられて、許された気持ちになる。
俺の頭を撫でる彼女が首筋に顔を埋めてるのが、たまらなく愛しい。
「煙草、気を付けろよ」
『うん。…静雄、大好きだよー』
「………おう」
彼女は少ししか吸ってない煙草を灰皿に押し付けて、両腕で俺を抱き締める。
『ねー静雄ー』
「なんだよ?」
『ちゅーしてよ』
こんな恥ずかしいことを平気で言いながら、瞳を閉じて顔を向ける彼女に俺は相変わらず慣れないキスをしてやる。
そんな些細で穏やかな日常に幸せを感じているんだから、もう彼女を手放せない。
非日常な幸せ
喧嘩しか出来ない俺の手が怯えながら彼女の頬を撫でた。