じゅりれな小説短編・長編

□旅立ちのとき(じゅりれな)
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〜珠理奈side〜





あたし、松井珠理奈は栄高校3年。





今日は栄高校の卒業式があって、半年くらい前から生きた心地がしなかったけど、何とか高校を卒業することができた。




卒業式が終わり、最後のHRも終わった後、誰もいなくなった自分のクラスの教室にいた。



教室のいつもの席に座り、携帯を片手に待ち受け画像を見ながらある人のことを思い出していた。





珠「茉夏…」





ある人というのは向田茉夏のこと。



幼なじみだった子であり、同時に彼女だった。



だった…?





と、思った人いるだろうね…





それは今から半年くらい前のこと…





あたしは自身の周りがこれっぽっちも見えないくらい急いである場所へと向かっていた。





珠「茉夏っ!!!!!」





そこは病室だった。





茉夏は事故に遭ったらしく、急いで病院に運ばれたとのことだった。





絶体絶命大ピンチというやつで、茉夏が助かるかどうか分からない状態だった。





玲「あっ!珠理奈!茉夏が…!茉夏が…!」





病室には茉夏の他に、茉夏と同じく幼なじみである玲奈ちゃんがいた。





あたしはすぐに茉夏の手を両手で力強く握りしめた。





珠「おい茉夏っ!しっかりしろっ!!!茉夏っ!!!!!」





あたしは必死に茉夏に呼びかけた。



その時…





茉「…じゅっ、ちゃ、ん…?」

玲「えっ…!?嘘…!?さっきまで何の反応もしなかったのに…!?」





あたしの呼びかけに反応し、茉夏は弱々しくだけど返事をした。





珠「茉夏っ、あたしのこと、分かる!?」

茉「…よかっ、た…じゅっちゃん、に、会えて…」

珠「あたしもだよ…!だから今は、もう喋らなくて大丈夫だから…!」





あたしはこれ以上、茉夏に余計な体力を使わせないようにしようとしたんだけど…





茉「じゅっちゃん…最後に、言わ…せ、て…」





茉夏は力を振り絞ってまだ何か伝えようとする。





珠「最後って…何言ってんだよっ!そんなこと言うなっ!」

茉「す、好き…だよ…じゅっ、ちゃん…」

珠「あたしもだよ…!だからまだ生きててよ…!」

茉「だけ、ど…私はもう、だめ…みたい…でも、あなたには…ちゃんと、いる、はず…だから…じゅっちゃんのこと、ちゃんと…見て、くれ、る…人、が…近く、に…」





茉夏は今にも死にそうな状態だった…





珠「まだだっ!まだ死んじゃだめだっ!!!」

茉「お願い…!必ず、私の分まで、生きて…!幸せに、なって…!」





これが…





茉夏の最後の言葉だった…





珠「茉夏…!」





あたしは目尻から滝のように涙を何粒も流し…





珠「うぁぁぁぁぁっーーーーー!!!!!」





茉夏に抱き付きながら悲しみの叫びを発した。



その場にいた玲奈ちゃんは悲しみのあまり、何も言えずただただ泣いていた…





それからあたしはあまり生きた心地はしなかったけど、茉夏との約束通りまずは卒業式を迎えるまで生きてきた。





珠「あたし…卒業したよ…」





あたしは高校を卒業したことを天国から見守っているであろう茉夏に呟きながら報告した。



その時…





玲「珠理奈、ここにいたんだね…」





玲奈ちゃんが教室に入ってきた。





珠「うん…まぁ…」

玲「…茉夏も、喜んでると思うよ。珠理奈が卒業したこと。」

珠「だといいね…」

玲「…珠理奈にとっての1番は茉夏だってことはよく分かるよ。」

珠「え…?」





玲奈ちゃんは急に妙なことを話し始めた。



同時にあたしに背を向けた。





玲「昔からずっと一緒にいて、2人とも相思相愛で…」

珠「うん…」

玲「だけどね…私、どうしても珠理奈に伝えたい言葉があるの。例え、ズルい女だって思われることになっても…」





玲奈ちゃんはくるりとあたしに顔を向け、笑顔を見せながら話を続けた。





玲「…私ね、珠理奈のこと、好きだよ♪今も、これからも♪」

珠「え…?」

玲「うん…それだけ♪じゃあね…」





好きとだけ言った後、玲奈ちゃんはとっとと教室を出てしまった。





あたしは何も言えなかった…





目に涙を溜めていた玲奈ちゃんの瞳を見ても…





ごめん、玲奈ちゃん…





今のあたしには、どうしてもその想いを受け止めることができないんだよ…





茉夏のことを忘れられない限り…





茉夏への想いを変えられない限り…








〜玲奈side〜





高校を卒業してから2年が経ち、私は今、成人式に参加していた。



でも友達も特にいないので私は1人、成人式に参加していたのである。



まるで空気のような存在ってのは今の私のことなのだろう…





成人式が終わった後、クラスで二次会なんてのをやるみたいだけど、話す人がこれといって特に誰もいない私はさっさと帰ることにした。



会場を出て、もう一度振り返り、帰ろうとしたその時…





玲「…!?」





目の前に珠理奈がいた。



私は珠理奈が成人式に参加してたことに気がつかなかった。





珠「玲奈ちゃん…久しぶりだね…」





珠理奈に会った途端、私は珠理奈と過ごした日々を思い出した。



何より、高校の卒業式の後に告白したあの日のことを。





…叶わない恋だってことは痛いほど分かっていた。



小さい時から珠理奈と茉夏は相思相愛だった。



私は最後まで片思いだった…



珠理奈がどれだけ茉夏のこと大好きだったか…



茉夏が天国へと旅立ってしまった後もどれだけ茉夏のことを想っていたか…



私は分かっていたつもりだった。





だけど、それでも最後まで何も伝えず卒業するのは嫌だった。



だから私は珠理奈に想いを伝えた。



結果はやっぱりだめだった…



その後、私は涙を流しながら帰宅した…





それ以来、私は珠理奈への想いを心の奥底にしまい、鍵をかけたつもりでいた。





でもその鍵はたった今、珠理奈と再会したことで簡単に外れてしまった…





珠理奈、どうしてわざわざ私に会いに来たの…?





玲「そう、だね…」

珠「てか来てたんだね、成人式。あたし、危うく玲奈ちゃんに会うの諦めて帰るところだったよ。」

玲「そう…」





予想だにしなかった珠理奈との再会に私は思うように言葉が出ず、沈黙の時が訪れてしまった。



やがて、珠理奈がその沈黙を破った。





珠「…あたしさ、最近、夢の中で茉夏に会ったんだ。」

玲「それが…どうしたの…?」





やっぱり、今でも茉夏が好きなのね…





珠理奈…





珠「だけど…あたし、茉夏に怒られちゃったんだ。」

玲「え…?どうして…?」

珠「『いつまでも前に進もうとしないじゅっちゃんなんて嫌い!私の知ってるじゅっちゃんは、いつも明るくて、いつも前向きだった!』って言われたんだ。未だに茉夏のこと引きずってるせいで…」

玲「そう…」

珠「本当にその通りだ…あたしは、いつまでも茉夏との思い出に縛られていた。せっかく玲奈ちゃんがあたしに前に進むきっかけをくれたってのに、あたしはそのチャンスを掴もうとしなかった…」

玲「え…?」





珠理奈、あなた何言ってるの…?





珠「玲奈ちゃんに会いに来たのは、そのチャンスを掴むため…2年前の返事を聞かせるためなんだ。」

玲「2年前…?…まさか!?」

珠「…昨日、茉夏のお墓参りに行って茉夏と話し合ってきた。…茉夏の分まで幸せになろう。」

玲「それって…!?」

珠「…あたしと、付き合ってください。」

玲「…!?」





ずっと叶わないと思っていた恋。





それが意外な形で叶った。





嬉しさのあまり、私は涙を流しながら珠理奈に抱きついた。





珠「茉夏、分かってたんだな、あたしには玲奈ちゃんがいるってこと。」

玲「うん…!私、これからあなたのこと支えていく。茉夏の分まで幸せになろうね…!」

珠(…見ていてくれ、茉夏。これからは、玲奈ちゃんと一緒に前に進んでいくあたしたちのことを。)





大分遅くなったけど、これからは私が珠理奈のことを支えていくからいつまでも見守っててね。



茉夏。





あなたの大好きな珠理奈のことを。





〜fin〜

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