喜八郎の見張り役

□落ちていた
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穴掘り小僧の穴掘りは日に日に落ち着いてきて、落とし穴の被害もなくなってきていた。手伝ってくれてありがとうな、お疲れさま。と食満先輩に言われたけど、わたしは好きでいつもの様に綾部くんを見ていた。

穴を掘る綾部くんを見るのは楽しいし、飽きない。今日の綾部くんはいつになく上機嫌で穴掘りをしていた。
今日もくのいちの友を片手に、楽しそうな綾部くんを見ていたら、突然穴を掘る手をぴたりと止めた。
穴から出てきた綾部くんの手には、見たことのある袋があった。これは、町で綾部くんが持っていた…踏鋤の袋?

「これ、ハナさんにあげる」
「わたしに…?」

袋を開けると、やっぱり踏鋤だった。それにしても、なんであの綾部くんがわたしに踏鋤をくれるのだろう?

「ありがとう。でもどうして?」
「なんとなくあげたくなったから」

理由も綾部くんらしくて、思わず笑ってしまった。笑ったわたしを、ぽかんとした顔でみている綾部くん。
踏鋤を手に取ると、なんだかわたしも穴掘りしたくなってきたかも。ちょっとくらい穴掘りしても後で埋めれば…


「ねえ、わたしも穴掘りしていい?」
「うん」

綾部くんにもらった踏鋤を抱いて尋ねると、綾部くんも微笑んで了承してくれた。
綾部くんと一緒にひとつの穴を掘る。やっぱり、綾部くんと穴掘りは楽しい。

…そういえば、この鋤の名前なんだろう。綾部くんの鋤は、踏子ちゃんだったよね。"踏鋤"だから…


「すき……」

そう言葉にしてから、自分がとんでもない事を口走ってしまったことに気が付いた。綾部くんにも聞こえていたみたいで、二人とも穴を掘る手が止まった。

「あ、い、今のはこの踏鋤の名前を考えていて!それで…」
「すき」
「だからそれは名前を考えていて…」

恥ずかしくて、穴が合ったら入りたい…ってここ穴の中だった。なにかいい名前ないかな、と回らない頭で必死に考えてもやっぱり出てこなかった。


「僕は、ハナさんが好きだよ」
「うん……え?」

次は綾部くんの口からとんでもない言葉が聞こえた気がした。理解ができずに綾部くんに振り返ると、ふわっと土の香りがした。そして、唇には柔らかい感触が。

あ、綾部くんにちゅーされた…!?言葉の意味も、された事も理解した頃には綾部くんの顔は離れていた。
綾部くんのすきって…それは好きっていう意味の…。

綾部くんを盗み見ると、真っ赤な顔でうつむいていた。それを見てわたしの顔は一気に熱を帯びる。あああああ!?どうしよう!!綾部くん、わたしも…わたしも!

「好き…です」

お互い赤い顔で、視線を交わした。

「綾部くんの事が。」




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