喜八郎の見張り役

□落ちないで
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いつもの忍術学園を時々綾部くんと和やかに過ごしていた時だった。母さんが倒れた、と父から文が届いた。父も相当急いでいたみたいでそう一言だけ書かれており、学園長先生もシナ先生もわたしの帰省を簡単に許してくれた。わたしも手紙を片手に、その日のうちに忍術学園を飛び出る。病気することなく、いつも元気に農作業をしている母が倒れたとなるとこれは大問題だ。急がなきゃ。
忍術学園と実家は本来一日かかる距離なのだが、半日で着くことができた。


「お母さん!お父さん!」

力の加減なく自宅の戸を開ける。布団に座る母が驚いた顔をしてこちらを見ていた。多少窶れてはいるが、割と元気そうな母の顔が見れてわたしは涙しながら母に近づいた。

「お母さん〜!生きててよかった〜!」
「ハナ、どうして…!?」
「お父さんからお母さんが倒れたって文がきて、それで…!」
「もうお父さんったら…」

大事じゃないようでよかった…本当に。母に抱きつく。子供じゃないんだから、と母の声が聞こえたけど、今日くらいは許して。母に構わず抱きついていると、背後の戸が開いた。

「ハナ!帰ってきたのか!」

土だらけの父が入ってきた。土少しは払ってよ。なんて思いながらも父も元気そうでやっぱり嬉しかった。

「お父さ…」
「あなた!」

母から手を放して父を振り返ったところで、母の声が被された。声を上げた母に目線を戻す。どうしたの?

「ハナに余計な心配かけさせるんじゃありません」
「すまん、あの時は焦ってついハナに文を…」
「え?え?どういうこと?」

わたしに文を送った父は何故か注意されていて、わたしは上手く状況を理解できないでいた。
実は母は寝不足で倒れたらしく、父はなにかの病気と勘違いして大慌てでわたしに文を送ったらしい。母は、寝不足でわたしに学校を休んでまで帰ってきてもらって迷惑をかけたと少し落ちこんでる。大事をとって予め三日くらい休みをもらっているからわたしは問題ない。母や父に何かあったときの方が問題だから、わたしは父が報せてくれてとてもありがたかった。


「お母さん、頑張りすぎ」
「ハナも学校頑張ってるからね、それを見たらちょっと頑張っちゃった」

今は逆に寝すぎて、夜眠れないかも。なんて笑って言ってる母。こんなお茶目言えるんだから、もう安心だね。そんな母の様子を見て父も少し笑っていた。

「ハナ、学校は楽しい?」
「うん、楽しいよ」

母にそう聞かれ、ふと綾部くんの顔が思い浮かんだ。綾部くん、今何やってるのかな?やっぱり穴掘りしてるのかな。いつもの穴を掘って土塗れになっている綾部くんを思い出して少し笑ってしまった。




「ハナ、気をつけてな」
「お父さんもお母さんも、元気でね」

次の日、わたしは家を出て忍術学園に帰った。三日休みもらってるから仕事を手伝うと言ったけど、二人に学園に戻れと説得され翌日の早朝に出ることになったのだ。
空が赤く染まる頃、忍術学園が見えてきた。両親が心配だったが、学園が近づくにつれ自然と足が速まる。
早く忍術学園について、穴を埋めないと!

「えっ」

夢中で歩いていた為、気づくのが遅れた。足元の地面がふわっと消える感覚がした。えっ!なんでこんなところに落とし穴!?
落ちることに身構えようとした時、誰かに腕を掴まれ支えられた。誰だ、と顔を確認する前に視界に紫色が入る。わたしは当たり前のように、綾部くんが助けてくれたんだと思った。顔を上げるとやっぱり綾部くんで、少し眉を寄せた彼と目が合った。綾部くんと会うのは一日ぶりだけど、なんだかとても久しぶりな気がした。その綾部くんが助けてくれた事に、嬉しくなって自分でも顔が緩んでいるのがわかる。

「僕以外が堀った落とし穴なんかに落ちないでよ」
「ありがとう」

でも、なんであの綾部くんがここにいるの?てっきり今でも穴を掘ってるのかと思ってた。

「綾部くん、どうしてここに?」
「遅かったから」

そう言ってから、わたしに背を向けて歩き出す綾部くん。
あ、えっと、わたし、自惚れてもいいのかな。もしかして、綾部くんわたしを迎えに来てくれたのかな、なんて。
先を歩いていた綾部くんが、未だに立ち止まっているわたしを振り返る。
わたしの自惚れで勘違いだったとしても、一度そう良いように考えてしまうともう思考はリセットできない。わたしは嬉しくて小走りで綾部くんの隣に並んだ。そんなわたしを見た綾部くんも少し笑顔になっていたのは見逃さなかった。




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