喜八郎の見張り役

□変化していく
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お昼時。食堂は生徒で溢れていた。
食堂のランチセット、いつもはBランチなんだけど、今日はAランチにわたしの好物が入っていたので、Aランチにした。
今日はいいことありそうだなあ、なんて上機嫌に空席に着き、手を合わせた。

「いただきます」


おかずに箸を伸ばしたところで、食堂の入口あたりから紫色が目に入ったので思わず目を向ける。
…違った。火器オタクで有名な四年生がおばちゃんからランチを受け取っていた。わたしったら、無意識のうちに綾部くんを探している。きっと、わたし機嫌が良くて気分が上がってるんだ。
そしてまたすぐに紫色が見えて、思わず目を向ける。すると、今度は本物の綾部くんと滝夜叉丸くんがランチを受け取っていた。振り返った綾部くんとばっちり目が合って、不意な事に少しドキッとした。滝夜叉丸くんも空席をさがすように食堂を見渡している様で、目が合った。目が合ってしまったので、とりあえず二人に笑って手を振ってみる。


「ハナ、失礼するぞ」
「どうぞ」

席を詰めてわたしの隣に綾部くんが座り、綾部くんの正面に滝夜叉丸くんが座った。二席分空いててよかったー。
席に着き、さあ食べよう。となったところで早速滝夜叉丸くんが口を開いた。

「ハナ、私と会うのいつぶりだ?」
「そうだね、前食堂で会ったっきりだと思うけど」

やけにフレンドリーな滝夜叉丸くんだが、わたしたちは一度しか会っていない。長々と自慢話聞いちゃって授業に遅刻したあの日を思い出して、笑顔が引き攣る。

「そんな前になるのか!私はハナともっと頻繁に会ってる様な感じがするな」
「うん、結構前になるよ」

滝夜叉丸くんのペースにならないよう、わたしも箸の手は止めない。前みたいにはならないよう気をつけないと!

「前回の話の続き、ハナに聞かせてあげよう」
「え」

滝夜叉丸くん、やめて!?また自慢話でしょ?正直キツいよ!なんて会って二回目の滝夜叉丸くんに言えるはずもなく。今日いい日だと思ったのに…。聞くだけ聞いて、ランチはちゃんと食べよう、と心に決めた。



「喜八郎、付いてるぞ」

滝夜叉丸くんの話の真っ最中、滝夜叉丸くんは綾部くんに目を向けた。まさか綾部くんの助け舟…!?…まあ違うと思うけど…。
隣の綾部くんを見ると、確かに頬にご飯粒が付いていた。ふふ、綾部くんってば可愛いなあ。綾部くんは黙って顔をこちらに向け、見つめてきた。…ご飯粒取れってか。こちらも黙って頬のご飯粒を取った。

「ほお、あの喜八郎が」

あの喜八郎?滝夜叉丸くんの言っていることはよくわからなかったが、そう呟いた滝夜叉丸くんを綾部くんは嫌そうに見て、立ち上がった。綾部くんのお膳を見ると完食していた。
わたしもあと一口のご飯を食べ終え、綾部くんの後を追う。ごめんね、滝夜叉丸くん。君の話はお昼休みには聞けないよ。滝夜叉丸くんを一人放って行くのは心が痛かったが、被害に合うわけにはいかず仕方がなかったんだ。許して!

食堂を出たところで、前を歩いていた綾部くんが振り返った。

「あいつの話は全部聞き流していいよ」
「滝夜叉丸くんの?」
「聞く意味あまりないから」
「うん、聞き流せるよう努力するよ」

わたしが困っていたのがわかったのか、綾部くんはアドバイスをしてくれた。ありがとう、と礼を言うと綾部くんはうん、と一言言って教室の方へ歩いて行く。
前回、滝夜叉丸くんとランチ一緒にした時と比べると綾部くん、すごく優しくなったなあ。あの時は嫌いって言われて無視されてたんだっけ。まああれは自業自得なんだけど…。綾部くんと仲良くなれた、と改めて実感。やっぱり今日は良い日になるかも!




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