喜八郎の見張り役

□ぎこちない励まし
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わたしは一体なにをしてるのだろうか。

用具室の裏庭の物陰で気配を消して動けずにいた。わたし、ハナは人生初の告白現場を見てしまいました!

わたしの目線の先には、用具委員長の食満先輩とくのたまの後輩。お互い頬を赤らめ合い、とても初々しい空気が漂っていた。
「うそ」だとか、「なんで」だとか、本当は言いたい。だけど、頭はぼーっとしたままで、わたしは二人が手を繋いで歩いて行く光景を黙って見ていた。

結局最後まで見ちゃった…罪悪感しかないよ…。これ、くのたま教室で盛り上がるだろうなぁ…。そう意外にも冷静に考えていた。その場を離れる様に中庭に歩き出す。
物陰に隠れた時から感じていた違和感。これがなんなのかよくわからないまま、足は自然といつもの場所に向かっていた。


「ハナさん」

穴からひょこっと泥だらけの顔が出てきた。

「綾部くん」

やっぱり、今日も落とし穴掘ってたんだ。今日も。今日も…いつも通りに。そう思うとなんだかじわじわと自分でもよくわからない感情がこみ上げてきてその場から動けなくなった。いろんな感情がごちゃごちゃになってるような感じ。
しゃがみこんで綾部くんを見つめるわたしに、綾部くんは目を逸らさないまま首を傾げた。


「綾部くん、わたし、食満先輩が告白されてるとこ見ちゃった…!」
「おやまあ」
「しかも、食満先輩受け入れたっぽいんだ…」
「あぁ、さっき二人歩いていったの見た」
「え!?」
「うん…どんまい」

軽!!…いや、いいけど。慰めてもらうつもりじゃないし、いいんだけど。ていうか綾部くんにどんまいって言われた!喜んでいいのか悲しんでいいのか、これまた複雑。


「…………」
「お、急に元気なくなった」
「は〜…」

俯いてため息をつくと、「よっと」という掛け声と共に砂が擦れる音がして、次の瞬間には頭に軽い感触があった。顔を上げると、目の前には綾部くんがわたしの目線にあわせるようにしゃがみこんでいて、泥だらけの手でわたしの頭を撫でていた。

「綾部くん…!?」
「元気でた?」
「…う、うん……ふふ」

綾部くんが慰めてくれた…?それがとても嬉しくて、思わず笑がこぼれた。綾部くん、こういう一面もあるんだ、優しいなぁ。

「ありがとう、綾部くん」
「いいよ」

わたし、食満先輩の告白される場面を見ても、食満先輩がそれにいいように応えても、全然ショックじゃなかった。それよりも、告白シーンを見ちゃった!というワクワクの方が強かったし…。
今まで自分は食満先輩に恋してるんだと思ってたけど、そうじゃなかったみたいだ。そう改めて認識すると、少し寂しくなったんだ。


「わたし、食満先輩好きだったけど、愛とか恋とかじゃなくて、憧れの人として好きだったんだなぁって。自分でもやっと理解したところで、ちょっと戸惑ってたんだ。」
「そうなんだ」

独り言のようにまた自分語りをしてしまった。綾部くん、絶対迷惑してるよね…。
綾部くんの顔を見ると、目が合った。意外にも真剣に聞いてくれているみたい。前の綾部くんとわたしの関係の事を思うと、すごく進歩したなぁと思う。こんな風に近くで話なんてできなかった。

「食満先輩の為に、なんて言っていた今までの自分はなんだったんだろうって思うけど、綾部くんとこうして仲良くなれたからそれも無駄じゃないって思えたよ。」
「……ふーん」 
「なんてね、気持ち悪い?」
「うん、気持ち悪い」
「ス、ストレートだな…」

まあ、これがわたしに対する綾部くんって感じがする。わたし、いつものこのゆるい感じが結構好きだし、全然いいんだけどね。また綾部くんにキモがられるので、にやけるのは我慢。
綾部くんはなにか思い出したかのように立ち上がりわたしの腕を引っ張った。

「ハナさんに見せたいトシちゃんがあるんだ」
「ほんと?」
「こっち」

わたしに見せたいトシちゃん?余程お気に入りなトシちゃんなんだろうなぁ。なんだか綾部くんが可愛くて思わずニヤニヤしてしまい、また綾部くんに引かれたけど、もうそんなのお構い無しに思いっきり笑顔で綾部くんの後をついて行った。




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