いちばん

□6
1ページ/1ページ


千鶴と一緒に町へ下りることになった。昨夜はなかなか寝付けなく、喜八郎に迷惑をかけた。何か土産でも買って帰ろう。

それにしても、千鶴から誘ってくれるとは。隣を歩く彼女を見れば、いつにも増して輝いて見えた。新鮮な私服姿にドキドキと心臓がうるさい。私とデートだから、と私に見せつける為におめかししてきたのだろう。これで言えるのは、千鶴はほぼ確実に私の事が好きだ、ということ。もうそうとしか考えられないからな!…と、心の中ではこうも言い切れるものの、やはり千鶴を前にすれば自信がなくなってしまう。私らしくない。
立ち止まっていた私を振り返り輝く笑顔で手招く千鶴。…別に想いを伝えなくとも、このままでも…いいや、今はまだこれでいい。そう自己解決させ今日を楽しむ事にした。




甘味処の長椅子に二人並んで座る。おいしい、と餡蜜を頬張る千鶴を見て、大人っぽい千鶴からいつもの可愛らしい千鶴に戻ったみたいで安心した。ああ、すごく穏やかな気分だ…。千鶴といるこの雰囲気が好き。ずっと見ていたい。この時がずっと続いてほしいと思う。
目の前の餡蜜を口にせず、思わず千鶴を見つめてしまっていた。千鶴と目が合い、恥ずかしくなって目を逸らし餡蜜を口に入れる。少し甘すぎる気がした。


「こうして千鶴と美味しいものを食べる事ができる私は幸せ者だ」

無意識のうちに出てしまった私の言葉に驚く千鶴。な、何故だ?そんなにおかしかったか?

「た、滝夜叉丸くん、今自分が幸せ者だって言ったの?」
「あ、ああそうだが」

恥ずかしいが、これは私の素直な気持ちだ。口を開けて驚いている千鶴は、私に見つめられて頬を紅潮させる。それを隠すよう千鶴は俯いた。
触りたい。
そんな千鶴の姿になんとも言えない感情が込み上げてきて、無意識のうちに千鶴に手が伸びていた。
ピンと強張る千鶴の手に触れて気付き、素早く自分の手を引っ込める。

「す、すまん…」
「ううん、いい…」

耳、首まで真っ赤にさせる千鶴を見て自分の顔も更に熱くなった。わ、私はなんて事をした…。恥ずかしいんだかなんだかよくわからなくなって、千鶴にもなんだか申し訳なくなった。そんな感情のまま、残りの餡蜜をかき込んだ。




甘味処を後に、雑貨屋の店に入る。ここに用がある、と言っていた千鶴の手には櫛と結い紐。千鶴の好みではなさそうなそれらは、やはり贈り物らしい。それは誰に?千鶴の友達のくのたまに?それとも私か?私だな?…いや、千鶴がわざわざ私に贈り物など…いやでも私っぽい…。もし友達のくのたまではなく他の忍たまだったら…。
聞くに聞けず、いつもの調子が出ない。結局もやもやしたまま帰路に着いてしまった。夕焼けで辺りは全て赤く染まっている。そんな事も今では気にとめるほど私に余裕はなかった。あの結い紐を選ぶ千鶴の真剣な表情を思い出す。そんな千鶴の頭の中にいた人物は一体誰だったんだろうか。それが私だったらどんなに幸せか。
そんな事ばかり考えてしまう。ああ、やめだ。もし千鶴が他の忍たまを想っていたとしても、千鶴は私のファンであり続けてくれるだろう。不純な考えはもうよそう。そう決意して一人心の中で頷く。すると、歩みを止め私の名を呼ぶ千鶴を振り返る。どうかしたか、と口を開こうとした時、千鶴が持っていた紙袋を私につきだしてきた。…ん?

「これ!滝夜叉丸くんに!」
「わ、私に…?」

うん、と頷く千鶴。やはり!私への贈り物だったか!千鶴が私の事を好きなのももう確定だな。飛び跳ねたい衝動を抑えながらそれを受け取る。私の美しさを案じて考えてくれたみたいだ。今でも美しいが、千鶴がいればもっと美しくなれる気がする。

「ありがとう、千鶴」

贈り物なんてスターである私は沢山貰うことができるのだが…。贈り物でこんなに嬉しく思ったのは初めてだ。

「夕日、綺麗だね」
「ああ」

そう私の隣で微笑む千鶴が私の目には素晴らしく美しく映った。夕日より全然比べものにならないくらい、君の方が…。千鶴がとても愛しくて、千鶴に触れたくて、今度は無意識ではなく私は千鶴の手を取っていた。
私は、肝心な事をまだ伝えていないのではないか?千鶴の手をぎゅ、と握り伝えるために勇気を振り絞る。

「だ、だが!夕日より千鶴の方が……綺麗だ」


----------
ベタぼれです
あぁ恥ずかしい

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ