いちばん

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委員会活動であるマラソンから学園に戻ってきた私達体育委員。実技の成績も優秀な私だ、七松先輩コースのいけどんマラソンも難なくこなしてしまう。戻ってきて間もなく、井戸から水を汲み、下級生達の水筒に水を入れる余裕さえもあるのだ。よし、これも千鶴に話してやろう!

流石にへばっている下級生達に水筒を渡していたところ、七松先輩が私の顔を見て何かを思い出したかのように近づいてきた。

「おい、滝夜叉丸」
「はい?なんでしょうか、七松先輩」
「お前最近よくくのたまと居るだろう?」
「え?ま、まあそうですね。」

そのくのたまは千鶴の事だろう。だが、私のファンである千鶴がどうしたというのだ?

「滝夜叉丸の癖に生意気だな!」
「え?それだけですか?」
「それだけとはなんだ」
「い、いえ…。千鶴は私のファンであり、何をやらせても完璧なこの私に毎日憧れの眼差しを向けているのです。」

千鶴は言わば私の取り巻きのような存在と言っても過言ではないですね、などと千鶴の事を語ったのはつい先日。最近となれば千鶴はよく七松先輩に連れられ、体育委員に来ては強制参加させられていた。七松先輩が千鶴をお気に召した様で、体育委員ではないのに関わらずあちこち連れ回される千鶴。だが、千鶴は嫌と思いながらも弱音を吐かないで、一生懸命に七松先輩の後を追っている。そんな千鶴の頑張る姿を見て、私も何か惹きつけられるものを感じた。千鶴は優しい子だ。私の話を遮ることはしない。それに頼まれると断れない、そんな奴なのだ。
そして今現在も千鶴は七松先輩に捕まり、いけどんマラソンに連れて行かれようとしている。千鶴の七松先輩に逆らえない気持ちは痛いほどにわかる。やはり裏裏裏山までいけどんマラソンとなると千鶴が理不尽で仕方ない。
次の委員会まで体を休めとけ、と七松先輩は仰った。だが、何故か私は千鶴を放っておくことはできなかったのだ。


裏裏山くらいまで来たところ、私たち三人は点々と見事に離れて走っていた。前の七松先輩もとっくに見えなくなってしまい、後ろを振り返ると千鶴の姿も見えないくらいに離れている。

「………」

…千鶴は大丈夫なのだろうか。道を外れて迷子にはなっていないだろうか。そんな思いが過ぎった。一人目に涙を浮かべているんじゃないだろうか、私は少し千鶴が心配でその場で立ち止まり振り返る。

少し戻って様子を見てみようか、と一歩踏み出したとき丁度千鶴の姿が見えた。私の姿を見た千鶴は頭の頭巾がズレるのも気に止めず、私の元に必死に走ってくる。そんな愛らしい千鶴の姿に思わず見入ってしまった。


「待っててくれたんだよね、ありがとう …」
「まあ…千鶴が迷子になったら探すのが大変だからな、別に心配になって待っていたわけじゃ…」

何故か急に照れくさくなって咳払いで誤魔化す。…誤魔化せてない。

「さすがのわたしも、迷子にはならないよ」

そう力なく笑った千鶴。まだ息が荒く、しんどそうだ。千鶴なら大丈夫と言うに違いないとわかっているのに、思わず千鶴に声を掛ける。すると千鶴は笑顔になった。

「うん、大丈夫。滝夜叉丸くんを見たら 元気でたよ!ありがとう」

後半の予想していない言葉に固まる。当たり前な事で言われ慣れていてもおかしくない筈なのだが、私は人に初めてそう言われたのだ。千鶴にそう思われたんだ、そう思うと嬉しくなる。そうだろう、と肯定したくとも、滝夜叉丸くん?と私の顔を覗き込む千鶴の顔を見れば何故だか恥ずかしくなって顔を逸らしてしまった。
そのまま背を向け走り出すと後ろから千鶴が付いてくるのだ。なんだかそんな事でさえも、千鶴が愛らしくて仕方がなくなってしまった。




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