いちばん

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「誰かが私の噂をしているのだろう」

む、と顔を歪める喜八郎に、謝りながら手ぬぐいを当てる。喜八郎の顔向けてくしゃみをぶっ放してしてしまったのだ。どこかの誰かが私のかっこよさについて話しているところなのだろう。ああ…、人気者も辛いものだな。

喜八郎と別れ、練習場でいつもの戦輪の練習。的の中央にはいくつもの戦輪が綺麗に並んで刺さっている。…やはり!すばらしい!私のこの戦輪の腕前を誰かに見せてやりたい!私の素晴らしさを語ってやりたい!あとであの一年生にでも話してやろう。そう思うと自然と顔が綻ぶ。
だが、再度私が戦輪を構えたとき、確かに背後に気配を感じたのだ。そこに戦輪を投げつける。

「誰だ!」

そう言い放ち、相手が出てくるのを構える。この美しい私に嫉妬する忍たまか?まあこの美しさに嫉妬するのも仕方あるまい。成績も優秀なのだからなあ!この滝夜叉丸が相手をしてやろう。
だが、なんと木の陰から出てきたのは桃色の装束だった。…くのいち教室の女の子が私に嫉妬?…それも有り得る。

「…え、っと………あのですね…」

彼女はもじもじと少し頬を赤く染め俯く。あら?この反応は…もしや…?

「お前、私のファンだな?」

なんでわかったの!?という様に驚く彼女。私の練習している姿を覗いて、その反応となるとそうでしか考えられないからな。
しかし、私のファンだと名乗り出てくれるくのたまがいたとは!くノ一教室の女の子達皆照れ屋さんだから仲良くしたくてもなかなか近寄れないのだ。そうだ、このくのたまに私の素晴らしさを語ってあげよう!



───しかし、私のファンというくのたまにはそれっきり会わなくなってしまった。…何故だ?何故私に会いに来ない?ファンなら私に会いにくるのではないのか?会いたくならないのか?
少々気になった私はあのくのたまを探す事にした。庭に出ると偶然か、そのくのたまは私の存在にも気づかず、呑気に歩いているではないか。
少し呆けた様な顔をしているそのくのたまの名は結城千鶴と言う。他のくのたまと違いおっとりしていて、とてもじゃないがくのたまっぽくないのが印象的だった。



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くしゃみをするなら手をして欲しいものです。喜八郎かわいそう

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