創作夢ver.長編

□第九章
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side???

「どういうことだッ!」

戦により廃れた村外れにある、崩れた寺の中からそれは聞こえた。
辺りの暗闇を劈くほどのその声は降り続く雨音に溶けていった。

(まぁ〜怒鳴りたい気持ちもわからんではないが…)

俺は気配を殺し誰にもバレぬように木の上から聞き耳を立てていた。
…え?なんで中も覗かないのか?って?
そんなの…見る必要なんてないからだっつの。

「何故だ!何故、神子を殺し損ねたッ!!」

(そんなの決まってンだろ…)

「か、辛うじて、息をしていた者に聞けば、既に神子の周りには守護者がいたとッ」

(ほらやっぱりね〜)

「だから何だ…あの者たちは手練れの殺し屋ではなかったのかッ!それを…ただの小娘一人に手こずるなどッッ」

(はぁ〜…どいつもこいつも手際が悪いからだっての。……そんなに憎悪があるンなら…)

「…神子の暗殺…手伝いましょうか?」

「なッ!?何奴ッ」

「ヒィッ!!」

見なくてもわかる。
陰陽の神子を誰よりも何処よりも恨んでンのは、まぁ、あの國の__しかいないしね。

「まあまあ、落ち着けっての!俺はどちらかといえばアンタらの味方側だ」

木から寺の中へ飛び降りる。
飄々と近づく俺に警戒は解かないが、殺気を消し、疑いの眼差しでみてきた。
…もう一人はへたり込んでるけど。

「貴様は一体何者だ。正体をあかせ」

(このおっさん……ふーん、なかなか場数踏んでそうで)

「その物騒な銃をしまいなよ〜。俺は何処にでもいる至って普通の情報売りだぜ」

「…貴様のいう普通の情報売りが何故このような場所にいる」

(このおっさん…)

「ヒッ…軍奉行様ッ危険でっ」

「黙っていろッ!!」

(やっぱりかの有名な軍奉行か…さてさて、)

「まあまあまあまあ!お二人さん、喧嘩してないで…神子の次の情報…安くしとくぜ?嘘もハズレも無い情報を、な」

俺はこれからの嵐のように荒れ狂うであろう展開にほくそ笑みながら、一つの巻物を懐から出し、相手へと差し出す。

「…後はアンタら次第だ」

その言葉すらも雨音に溶けていった。







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sideヒメノ

「…ーぃて!……お、き…」

何か聞こえる。
聞き慣れはじめたマキの声じゃなくて、男の人の……?…マキ?、マキ…

『ーーッマキは?!!』

「うわッッ!!!!」

『え??』

離れ離れになってしまっているマキたち、そして今置かれている自分の立場を思い出し、私は飛び起きていた。
そして、私のすぐ隣で尻餅をつく相手に目をやる。

「お、おはようございます神子様」

『ご、ごめんなさい…おはようございます』

自分のせいで驚かせてしまったのだろう。

(もっとちゃんと起きられるようにしないと〜)

私が自分の寝起きの悪さに凹んでいると、自分の身体がガタガタと揺れていることに気づく。

『…たしか洞窟にいたはずじゃ…』

「ヒメノちゃんは朝から元気だね〜。まぁ、少しでも元気そうなら一応は安心かな」

「…ほんと神子に甘いですよ」

「ったく〜朝から元気なのはいいけど、ビックリしたよもう〜!尻痛い」

聞き慣れた声。
待ち望んでいたその声に私は飛びついていた。

『〜〜〜ッマキ!サイカくんも一緒でよかった!!二人ともケガ…は……あれ?』

(…マキってこんなに硬かったかな)

「心配かけたみたいで、ごめんね。僕たちは大丈夫なのだ!…あと、」

「あと、今は荷馬車で移動中だから無闇に飛びついちゃダメだよ〜。嬉しいのはわかるけどな。…あとさ、」

「「抱きついてんのサイカだよ〜」」

ニコリと微笑みを浮かべマキとサクラは私の頭を優しく撫で、これからのことを話し始めていた。
まだ寝ぼけていたであろう私が視線を上げると、

「………さっさと離れろ」

『ご、ごめんなさい…』

絶対零度で睨みつけているサイカくんだった。

(落ち着きも…ちゃんと身につけないと…)

そそくさとサイカくんから離れ荷台に座り込み見つめる先には…
ブツブツと文句を言いながらもマキにくっつこうとするサイカ。
呆れながらも楽しそうに笑い馬の手綱を引いているマキ。
そんな二人をみて笑っているサクラ。
会ったばかりなのに、温かな三人がいてくれることに私は幸せを感じている。

(何事も無く…みんなが無事で終わるといいのに…)

「ヒメノちゃん〜!もうすぐ一番大きな國につくよ〜!!」

「はぁ、さっさと目を覚ましたら?」

「ボーッとしてるけど、大丈夫?」

『え、うん!もちろん大丈夫!…一番大きな国って?』

「うーん…簡単に言えば、この世界の中心に位置するもっとも栄えていて名を宮ノ國っていうよ」

『宮ノ国…それじゃぁ、その国にもっ』

「神子様、好奇心旺盛なのはわかってるけど一旦落ち着きなよ〜。宮ノ國のことは宮ノ國についてから知っても遅くはないからさ」

後ろからした声の主は荷台の壁に背中を預け、楽しそうに絵を描いていた。

「また俺が教えてあげますよ〜」

上機嫌にいうサクラに私も笑みがこぼれていた。

「いつの間にやら仲良しさんになってるね〜!よかった、よかった〜」

「あいつはそういうの得意でしょ。俺には…」

「俺には?」

「……がんばってみます…マキさんが言うなら」

「僕が言わなくても勝手に仲良くなれるよ、サイカも」

サクラの描いている絵をみながら、マキとサイカくんの会話を聞き、嬉しくて嬉しくてサクラのほうをみるとサクラも嬉しそうに笑っていた。

(次は…宮ノ国。……またあの時みたいに襲われるかもしれないし離れ離れになるかもしれない…でも私はみんなを信じて…私も強くなりたい!)

ガタガタと揺れる荷馬車の中で私は自分にできることを考えながら瞳を閉じた。






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side???

ガサッ
「はぁ…なんとも呑気な……本当にあんなのが神子だなんて、あんな貧弱なのが…ねぇ、兄さん。…?兄さ………」

「ひっく…私だって、私だって!あの人と一緒にご飯を食べたり旅したりお泊まりしたいのにぃぃぃぃ!!!…うぅぅ〜」

「お泊まりじゃなくてあれは野宿ですよ、兄さん。あといい加減ウザいから泣き止め」

本当にうっとおしい。
さっさと泣き止め…みっともない!
俺だって嫌ですよ…嫌だけど我慢してんですよ!
あ…そうだ、いいこと考えた。

「兄さん、涙をふいてください。いいこと思いつきましたよ」

「ぐすっ、なんですか?」

「あいつらにバレないようにしながら行きますよ!ほら、早くこい愚兄っ」

「酷すぎますよ!!…ちょ!待って〜」

あいつさえ消せば、万事丸く収まる。
まぁ、ついでにいらない周りの奴らも、ね。
邪魔者には綺麗さっぱりと消えてもらいましょうか…いつものように。







第九章ー完ー

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