創作夢ver.長編

□第八.五章
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俺にはとても悲しく辛そうに叫ぶ祈りに聞こえた。

《知ってほしくない》と。
《知らないままで終わらせたい》と。

その言葉を聞いたのは、俺が自分のもとにきた馬鹿な敵をいつものように一掃し、マキさんたちが居るであろう店へ急ぎ戻った時だった。
その店の周りには風の壁があり、誰一人として店でおこったことも店がこの場所にあるのかすらわかっていないだろう。
俺がゆっくり寄りかかっていた壁から離れ、店の中へ入るともう辺りには赤々とした血飛沫があちこちに飛び散り、マキさん以外は誰一人として息をしていない状態なのはすぐに理解できた。
そんな場所にマキさんはただポツンと立ち尽くし、自身の手に強く握られている赤々と染まった刀をみつめていた。


───俺にとって大切なのはマキさんだけ。この人が傷つく様はみたくない……でも神子は知るべきなんだ………この世がどういうものなのかを


そう頭に出て来るや否、すぐにマキさんを抱き寄せていた。


「…マキさん……マキさん…」

「………ぇ…」


優しく頭に触れながら名を呼べば、心ここに在らずだったマキさんも意識を取り戻し、目をパチパチとさせてから俺を見上げてきた。


「ぬ?サイカ……なんだこの状況は」


そして、この絶対零度の眼差しである。


「そんな目で見ないでください!…役得だけど辛いです」


俺がそんなこと言っている間にいつもの如く素早く離れていった。


───はぁ…言わなきゃよかった

「…サイカ」

「ん!は、はい!」

「いつもごめん。ありがとう」

───本当にズルい人ですよ、貴女は。…そんな悲しそうに笑うから、何にも言えないじゃないですか

「マキさんが謝ることなんて何もないですよ。むしろ…俺のほうこそ、すみません。イライラしてしまい、あの女…いえ、神子に八つ当たりを」

「…あれは私情をはさんできちんと説明せずにいた僕が悪いからね。ヒメノちゃんにももう一度謝っとかないと!」


なんとかいつものように笑おうとしながら生き耐えた者たちの始末に取り掛かるマキさん。


───空元気も元気だ〜!とかどっかの馬鹿猿さんは言ってましたが、やっぱり空元気の笑顔って…結構キツイよね


そうこうしているうちに店の中は最初よりも綺麗に片付いていた。


───いつも思うけど……どうやって後片付けしてんだろ。いつもいつも物思いに耽ったり、マキさんに見惚れてたり、うっとおしい自称兄たちに絡まれたり…で、片付いてるとこみえないからな〜

「…謎だらけだな〜。でもそんなマキさんも素敵」

「阿呆なこと言ってないで、早く神子様たちを追うよ〜」

───…また流された……


俺からの愛を素晴らしく軽く流し、風の結界を解きながら外へ出るマキさんの後を地味に凹みながら俺も追う。


「うわー…雨降るな〜雨嫌いなんだけどな〜」


風を守護に持つマキさんにとっては気象の変化など風でわかるそうだ。
なんとも便利な!
俺も真似しようかな〜、とかのんきに考えてみたり。


「大丈夫ですよ!マキさん!!俺に任せてください。今すぐ雨を俺が消し飛ばしてみせっ」

「サイカが消し飛ばそうとすると雪か最悪の場合は雹が降るから余計にダメなのだ。ほらほら、急いでいくよ〜」

「…まだ最後まで言えてないのにッ!正論で切られた……あぁ!待って!マキさんッ」





ーーー
ーー






それにしても…


「どこまで行ったんですかね〜」


辺りは木々ばかり。
いや、山の中なんだから当然か。
その木々の中を俺たちは結構な速さで走り抜けていた。


「もうそろそろだと思うのだけど…この雨のせいで風がうまく使えないからな〜」


雨の中はさすがに厳しい。
普通なら雨が少しでも収まるのを待つのが得策だが、───マキさんらしくない…とすぐに頭に浮かんだ。


「マキさん!何をそんなに急いでいるんですか!」

「………ッ」


俺の問いかけにやっと反応し、足を止めた。
木々にまじっているおかげで雨も凌ている。
長い沈黙の中、激しく降り始めた雨音と葉から零れ落ちる雫の音が俺たちを包んだ。


「…おかしいと思わないか」

「……神子の情報、のことですよね」

「僕たちなら神子様がきたことにすぐに気づくのはわかるが…情報がまわるのが早すぎるッ」


マキさんは苛立ちを抑えようとしているのが俺にもわかるくらいに感情を殺せていなかった。
───神子がきてからのマキさんは本当にらしくないことだらけ、だな〜と俺は気づかれないようにため息をはいた。


「たしかに。俺も神子がこの地にきて…いや、来る直前に暗殺命令を渡されましたからね」


思い出すのは三日前のおかしな伝令のことだった。
その伝令に書かれていたこと…陰陽の神子の暗殺命令。
それを読んだ時、───何故いるかもわからない神子などの暗殺を…などと鼻で笑ったが…やはり違和感は拭えなかった。


「考えられることは二つある」


俺が顔を上げると、辺りの音が消えた。


「一つは、敵側に星詠みができる者がいること。そして、考えたくはないけど…二つは、」


響くのは何も読み取ることのできぬほど無に近いマキさんの言葉と


「神子存在を流した裏切り者がいる…」


痛く苦しいマキさんの殺気に早まる自分の心音だけだった。







「僕ら守護者の中に」









第八.五章ー完ー

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