創作夢ver.長編

□第八章
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【闘いは始まりをつげ、皆が武器片手に掲げる。まだ本当の闘いを知らぬ神子。そんな神子への悲痛な叫びを胸に刻は進む。その路の先、いったい、何がまつかは自分次第。】







───あれから一体どれくらい飛んでいるんだろう


ヒメノはただただ震える手を強く握り、耐えるようにそんな言葉を何度も何度も頭で繰り返していた。

敵からも…味方であるマキたちからも遠く離れてしまい、自分の心に募るのは不安ばかり。


「サクラさん…まだ、離れるの?」

「んー、まだもう少し離れたいかな〜。いろいろと心配ですしね」

「でもッ!」


敵の行動や戦うことについてなんてわからない。

でも、どんなに強いから大丈夫だと言われてもマキたちが心配でならない。

その焦りや不安を見抜いているサクラは悩みに悩んだのち、ゆっくりと飛んでいる高度を下げ始める。


「……仕方ないね〜。山の中になるけど、天気も曇ってきたし一体降りてマキたちと合流できないか待ってみましょう!」

「あ、ありがとう!」


嬉しそうに笑いかけられ、サクラも表情を緩めていた。






ーーー
ーー






「よし、ここで野宿して二人を待ちましょう!」

「う、うん……でも大丈夫なの?ここで」


サクラは元気よく頷くと暗くジメジメとした洞窟へと何事もなく入っていった。

ヒメノも恐る恐るサクラの後に続くも顔色が少しばかり青く、不安が滲み出ていた。


「…う、やっぱり想像してた通りだ〜この薄気味悪さッ!」

「んー?ブツブツ言ってるけど、どうかしました〜?」

「い、いえいえ!何にもないよ!うん!!」

───ぶッ!!思ってること顔におもいっきりかいてあるよ!おもしろいな〜この神子は

「は〜い。わっかりましたから、俺特製の椅子に座って冷えを凌いでくださいよ」


挙動不審なヒメノを横目にまた筆と白紙の本を取り出すと、座りやすいようにした大きめの丸太の椅子と小枝の蒔き、毛布を書くとそれを実体化させ始める。


「んー?そんなじっと見つめられると流石に恥ずかしいかな」

「あ!?ごめんなさい!」

「ふぅ、疲れてるんだし、いい加減座りなよ。ほら、毛布にちゃんと包まって」


あまりの不思議な光景に見惚れているヒメノを呆れたように苦笑しながらも毛布を渡す。

洞窟の中は焚き火のおかげで明るいが、よくみると外はもうすでに日が落ち、辺りは暗闇に閉ざされていた。

言われるがまま毛布を羽織ると椅子に腰を下ろした。


「はい、よくできました!寒くなったり眠くなったりしたら遠慮無しに言ってくれよな」


そういうとサクラも毛布を足にかけ、椅子に腰を下ろす。

パチパチと小枝が燃えている音といつの間にか降り始めた雨音だけが辺りを包んでいた。


───…雨……マキもサイカくんも…大丈夫なのかな


ヒメノは燃える火を見つめながらただただ離れ離れになってしまったマキたちを思っていた。

考えたくもないのに頭に浮かぶのは悪い予想ばかり。

今だに震えている手を強く握り締める。


「………そんなに心配?」


いつの間にか椅子に寝転んでいたサクラのぽつりとこぼした一言が嫌に響いた。


「心配するのは当たり前です。……サクラさんは心配じゃ」

「あっ、さん付けに敬語無しでお願いしますね〜」

「…サクラは…心配じゃないの?」

「うーん、心配なんてしてないよ」


緊張感などもなくただ平然としているサクラに怒りを覚え鋭く睨みつける。


「そんなに怖い顔しないでくださいよ。…神子はどうして出会って間もないマキたちの心配なんてしてるの?」

「どうしてって…」


突然の質問に言葉がとまる。

サクラは冷めたような視線をヒメノに向け、


「あぁ…そうですね〜。俺たち守護者の中の誰か一人でも死んだなら、応龍を喚びだすことも…自分のいた世界にすら帰れませんもんね」


ケタケタと楽しそうに笑いはじめていた。

この異常だとも思えてしまう光景にヒメノは俯いたままただただ手を強く強く握り締める。


「…に、…い……の?」

「んん?どうかしましッッ!」


激しさを増していた雨音と焚き火の音の中に劈くようなもう一つの音が響いた。


「ぃたた……まさかぶたれるとは」


打たれた頬を人差し指で軽く掻きながら苦笑いを浮かべた。

可哀想になるくらいに震え、瞳の中には涙までため睨みつけるヒメノにサクラもまっすぐ見つめ返す。


「何が可笑しいの?…なんにも可笑しいことなんてない!」


それはヒメノの本心であり心の叫びなのだろう。


「マキが残ったのもサイカくんが出て行ったのも元は全部私のせい!!なのに…なのに私はなんにも出来ずにいて……」


サクラは懸命に言葉を紡ぐヒメノを真剣な面持ちで見つめる。


「守護者だから、とか、関係ない!…ヒック…マキやサイカくんに…なにか、あったらって…っ…心配でっ、辛くて…怖い……」


強く閉じられた瞳からはぽろぽろと涙が零れ始める。

そんなヒメノの姿と言葉に少し驚くも嬉しそうに表情を緩め、


「うん…ありがとう、神子様」

「ぇ…」


優しく涙を拭いだす。

さっきまでとは全く違うサクラの雰囲気に首を傾げるヒメノ。


「ごめんなさい!…さっき意地悪をしました……本心が聞きたくて神子を試しました!!」

「ためした??」


目を真っ赤にさせ鼻声なヒメノに申し訳なさそうに頭を掻く。


「神子がどんな性格で〜とか守護者やマキたちのことどんな風に思ってるのか〜とか」

「……芝居?」

「うん、そんなかんじ!…でもよかったよ。俺たちの神子様が君みたいな優しい人で…なんだか安心した!」


サクラは嬉しそうに笑いヒメノの頭をぽんぽんて軽く撫で、悪戯した子供みたいにニヤリと笑う。


「でも心配してないっていうのは本当だよ!」

「…ん?……ええぇ!!?」

「あははははっ!!驚きすぎて涙も止まったかな?うーん、驚きすぎだよな〜本当」


驚くヒメノをよそにゆっくりともといた位置に戻ると毛布に包まり椅子に寝転び、寝る準備を始める。


「な、なんでっ」

「信頼。……信頼してるからだよ、マキたちのこと。マキもサイカも一筋縄じゃいかない強者だからさ」


サクラのその言葉は力強くヒメノの心にも響いていた。


───マキもサイカくんも…サクラも…信頼しあってるからあんな風に行動できるんだ……

「…ほら、さっさと寝る!もう結構遅い時間だから」

「…うん」


サクラの一言に少し安堵するもやはりまだ心配そうにするヒメノにサクラはまた筆などを取り出し、小さなフクロウを描きあげる。


「鳥獣戯画ぁぁ〜」

───ものすごく眠そう…

「か、可愛いフクロウ!!」


眠そうなサクラとは違って、パタパタとでてきたフクロウに目をキラキラさせるヒメノ。


「こら〜!さっさと寝てください。マキたちが近くにきたりなんかあったりしたらすぐにこのフクロウちゃんが起こしてくれるから!!俺も眠いし…早く寝る!!」

「…わ、わかった」


サクラの怒鳴り声は洞窟中に響く。

すぐさま毛布に包まると、いろいろあった疲れや泣いた疲れですぐに瞼は重くなり、


「サクラ…」

「…はい?」

「…ありがとう……おやす、み…な、さい」


完全に夢へと落ちていった。







ーーー
ーー






「ありがとうにおやすみなさい…ね」


俺はおやすみ三秒で寝息をたてる神子に深いため息をはいていた。


───いろいろと無防備すぎじゃないかな…やっぱり平和な世界からきてるから仕方ない…のか?それにしても…


俺が思い浮かべたのは神子の言葉だった。


───守護者だからとか関係ない…か…。しかも自分のせいだと自分を責めてた……


緩やかになっている雨音と小さな焚き火の音、あと神子の寝息。


───…優しくて真もしっかりしている神子様か……うん、護る価値ありかな。


ゆっくり穏やかにすぎていく今だけの時間。


───どうかこの狂った戦乱の姿をみてもなお貴女のそのまっすぐな眼差しが壊れないこと……あと、


それらを子守唄に


───雨にうたれながらも来ているであろうマキとサイカが風邪をひかないことを心から祈る…


俺はゆっくり夢へと意識を落とした。





【守護者サクラ、神子の心を知り、陰陽の神子であることを認め、前に進むと決意し、今は穏やかに寝息をたてるのであった。】






第八章ー完ー

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