創作夢ver.長編
□第七章
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【旅の道中、新たなる場所にて、地を守護にもつ、朱雀の守護者、名をサクラという青年と出逢う。集い始める守護者たち、一体何をみる。】
サクラと名乗る青年は今や最初からいたかのようにマキやサイカと話をしていた。
───いろいろ…あっという間だな〜
ヒメノは目を閉じ、マキと旅を始めてからは、何の障害もなくここまで来れたことを思い返す。
「ん〜?…ヒメノ〜ちゃん〜?」
───うんうん!この調子なら何にも問題なく帰れそう!
「マキさんを無視するなんて、いい度胸だなこの…いって」
「サイカ〜神子様に向かって口が少し悪いよ」
「…マキさん、サクラに暴力をふるわれました痛いです頭撫でてください」
「いやいや、君が悪いのだ。…ヒメノちゃんはいいかげん戻っておいで〜現実に」
頭をさすりながら自分に擦り寄るサイカを軽くあしらい、うんうん唸りながら目をつむっているヒメノの背中を軽く三度叩く。
ヒメノはゆっくり目を開けると嬉しそうににこりと笑いかける。
『サイカくんにサクラさんにマキ…守護者って人たちがもう三人も集まったってことは私ももう帰れるってことだよね!』
「え?」
帰れるだろうという思いに顔をほころばせ言う。
そんな言葉に三人の表情は各々曇らせていた。
サクラは驚き目を丸くし、サイカは苦虫を噛んだように顔を顰め頬杖をつきそっぽ向き、マキは下を向いているため表情はわからない。
「え?ええ!?何にも知らない…んだね、この子」
『…ぇ?』
「…うん。神子様と太一君の話し中に僕が話の腰を折ったから…混乱もしてたし……ごめん」
驚くも少し納得したように言うサクラにマキは申し訳なさそうに表情を落とす。
そんなマキたちを横目で見ていたサイカだが、表情を歪め、強く握りしめた拳で机を叩くと、俯いたまま立ち上がり、
「何にも知らない。わからない。聞こうともしない。…なんてお気楽なんでしょうね…我らが神子様は。……救世主どころかただのお荷物だろ」
「サイカッ!」
「ッ……頭冷やしてきます」
マキの声にも耳を貸さずに外へ出て行ってしまった。
辺りはサイカの机を叩いた音でこちらに目を向けるも今は何事もなかったかのように談話をし食事をしと賑わっている。
だが、自分たちの場所はまるで切り取られたかのように静けさと重い空気が漂っていた。
そんな空気を吹き飛ばしたのは、
「うーん、こんな重い空気は嫌なんだよね〜全く」
やれやれと呆れながらボヤくサクラだった。
「さて!サイカは頭冷やしに行ったし…神子様!」
『は、はい!』
真剣な表情で驚くヒメノに詰め寄り、
「君は一体どこまでこの世のことや自分のことを理解しているのか、太一君に聞いているのかを教えてくれるかな?」
ヒメノをまっすぐ見つめ笑いかけた。
そんな二人を見つめマキはただぼーっと外へと消えたサイカのほうをみていた。
ーーー
ーー
「…それじゃあ、自分が陰陽の神子で妖魔をやっつけながら守護者集めて応龍を召還して…自分の世界へ帰る!ってことしか知らないんだね?」
『はい…。私が太一君と話している時に混乱したのと怖くなったのとで…助けてって思ったら…』
「マキが横やり入れて助けてくれたと?」
『はい!だからマキは私を助けてくれただけで、何にも悪くっ』
「わかってるよ。だから落ち着いて、いいね?」
なんとか頭に記憶した全てをサクラに話し、必死に弁解する彼女に少し驚くも優しく笑いかけなだめていた。
二人をじっと見ていたマキはまだ表情を強張らしたまま。
「ごめんよ。ヒメノちゃん」
『なんで謝るの!マキが謝ることなんて何もないよ!私はマキに庇ってもらったり助けてもらってばっかりで……。まだ怖いことだらけだけど自分のことだもん…私がしっかりしないと』
「…ヒメノちゃん」
ヒメノは震える手を強く握ると、
『私が何故この世界にきたのか…いろいろ教えてください!』
何かを自分の中で決意させ、マキとサクラを見つめた。
「流石は我らが神子様。そうでなくては!」
「ヒメノちゃんが…いえ、神子様が望むなら全てを話します」
二人も真剣な眼差しで見つめ返した。
ーーー
ーー
───やっぱり…あの女、消しておけばよかった
俺はあの店から出ると行き場のない怒りの感情を抱えたまま時間つぶしに町をぶらついていた。
───はぁ…俺は思ったことを言っただけで自分が悪いなんて思ってないけど……マキさんに…あんな顔させた…最悪だ
頭に浮かぶのは辛く苦しそうに…何かに耐えるように怯えた表情をみせるマキさんのことばかり。
───マキさんは…何か知っているのか…それでそのことでまたなんか抱え込んでる…とか
頭を抱えたとてなにも浮かばず、ため息を吐いた。
「はぁ〜…もうマキさんとこにもど…ッッ」
───殺気だ
俺は気づいてないフリをしてゆっくりとひと気のない裏道へと歩き出す。
───守護者ってことは知られている確率は低い…となくと俺への恨みか……
相手に気づかれないように顔をチラリとみる。
───あの男…たしかさっき店にいたよね〜…それなら守護者または神子狙いか。神子があの女ってことは知ってる奴は知ってるし……それに知ってるってことは…
「同業者ってことだね〜」
俺は裏道に着くと、袖に隠していた苦無を取り出し、
「…邪魔な塵の片付けしないと」
相手にニタリと笑いかけた。
ーーー
ーー
『話をまとめると、私は陰陽の神子で応龍を召還して争いと妖魔を鎮めるためにこの世界によばれた…ってことだよね?』
「そうだよ。そして、神子が無事に応龍召還を成し遂げられるように護り仕え…」
「尚且つ、召還に絶対必要な存在なのが僕たち守護者なのだ。召還のとき神子様はもちろんだけど、守護者も必ず八人揃っていないと駄目ってことになる」
陰陽の神子のことを大まかに話し終えたときにはすでに日が傾き始めていた。
店には客がすでに自分たち以外誰もいない状態。
ヒメノはなんとか頭の中をグルグル回る言葉たちを整理し、机に突っ伏した。
表情からは疲れと混乱がみてとれた。
「まだまだ知ってほしいこと山済みだけど、この様子だともう駄目そうだし…今日のところはここまで!」
『お…お世話になりました!』
「お疲れ様〜ヒメノちゃん!はい、これでも食べて」
『ふわ〜!ありがとう、マキ』
「どういましましてなのだ!疲れた時には甘い物!だよ」
いつの間にか用意してくれていた饅頭を嬉しそうに頬張る。
その表情の裏にはやはりまだ疲れの色がよくみえていた。
サクラたちも一服しようとお茶をのんびり飲む。
「うーん…一気に話しすぎたかな?でもこれから先まだまだッッ」
「………五人」
『な…なに……』
さっきまでとは違う…突き刺さるような空気が漂う。
空気の変化に気づき、ヒメノは声を震わせながらあたりを見渡す。
二人はお互い目線で合図を送り合い、マキは一早く店の者に外へ出るように話をつけると辺りに気をやり、サクラはヒメノの腕を掴み物陰へと隠す。
『ぇ?サクラさん、待ってマキがっ』
「大丈夫ですよ。今は自分の身の安全を考えて。…敵に気づかれる前にここから離れるよ」
急かすように早口になりながら、サクラは腰につけている小さな鞄から筆と本を取り出した。
───本?…えっ、中身何にもかいてない…
不思議に思っている間に筆でその白紙に大きな翼の鳥を描き、それを破りとる。
「第三術式ー鳥獣戯画ー」
破りとられた紙からその絵が浮き上がり、まるで生きているかのように動き、翼をばたつかせていた。
その見たこともない光景に目を奪われているヒメノの腕を強くひき、サクラが作り出した鳥に乗せる。
『待って!マキは?マキはどうするの!サイカくんだってもどってないのに!』
心配と不安で涙を浮かべながらマキに語りかけながら身を乗り出していた。
ヒメノが落ちないようにサクラも後ろへ乗る。
「落ちますからッ暴れないでくださいよ!大丈夫だって、二人とも馬鹿に強いんだから…な!マキ」
だんだんと近づいてくる禍々しい気に表情を歪めていたマキだが、それを隠しにこりと笑いながらヒメノへと振り返る。
「…もちろん、大丈夫なのだ!僕もサイカも馬鹿に強いからね〜。だからヒメノちゃん…僕たちを信じてサクラと先に行ってて…すぐに行くから」
大丈夫大丈夫〜と手を振るマキにまだ不安を拭えないでいる。
だが、敵は待ってくれずどんどん近づいてくる。
「もう時間がありません。神子、マキの言葉を信じて……いきますよ」
ヒメノを後ろから強く抱きしめると焦りながら耳元でぽつりとつぶやき、裏手の戸をぶち破り、空へと飛び立つ。
どんどん店からも町からも遠ざかる。
───マキ…サイカくん…どうか怪我なく帰ってきて
自分の無力さと恐怖に震える身体を隠すすべはなく、ただただ手を強く握りしめ祈るのだった。
ーーー
ーー
───もう大丈夫かな?
ヒメノちゃんたちが結構離れたのを風を使って確認すると表情を険しくしていた。
───…守護者ならまだわかるが…どうしてこんなに早く神子の存在が知れ渡っている?…まさか……
サイカとの再会の時から思っていた疑問はどんどん加速し頭を駆け巡る。
殺気を含む気配が全て店の中へ入ったのを感じとると、深くため息を一つ。
───考えるのはいつだって出来る。今は目先のことに…だよね〜。
「はぁ…ほんと……嫌になるよ」
いつもとは違う。
マキは殺意すらも含む瞳で愛刀を構えると、
「早くでておいで…時間が勿体無いからね」
ニタリと笑みを浮かべると背後で刀を振り上げている敵の腹を一閃していた。
声を上げる暇もなく、赤き血を飛ばし倒れる敵になど見向きもせず、
「まずは…一人」
冷たく突き刺すようにぽつりとこぼしていた。
ーーー
ーー
さっきまでの店内とは思えないほど不気味な静けさと鉄の匂いだけがまっている。
店内にあるのはただの死体たちと刀を握りしめ俯くマキだけだ。
マキは俯いたまま…
「僕はあの娘に知ってほしくなかった…知ってしまったら…絶対にこんなふうな醜い争いに辿り着いてしまうから……ヒメノちゃんには…知らないままで自分の世界へもどってほしかった!」
ただただ悲痛に声を震わせていた。
そんなマキを知るのは店内に入らず、入り口に背を預けていたサイカだけだった。
【思い、想い、オモイ。それは個々が宿すもの。神子への悲痛な叫びをたつように動きだし、崩れていく何か。マキの叫びは届かず、神子、小さくとも一歩踏み出す。】
第七章ー完ー