創作夢ver.長編

□第五章
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【新たな道、其れには再会も別れすらも存在す。陰陽の神子、深い眠りに落つ中、近づく影。再会が意味する此れからとは。】




ヒメノは突然強烈な眠気に襲われ宿屋で借りた部屋の入り口に倒れてしまった。

そこへ近づく者が一人。

その者は片目を黒い布で隠し、口布をしている男だった。

男はゆっくりと物音一つ立てずに近づく。

そして、服の袖に隠していた仕込み苦無を手に取り、切っ先をヒメノに向け、振り下ろす。


「ッッ!?」


突然の突風に男は驚き、その苦無はヒメノに刺さることなく床へと落ちる。

男はゆっくりと自分の胸元をみると、薄く笑みを浮かべ、


「酷いよね〜なにも刺すことないじゃないですか……ね?マキさん」


ボンッした音と白い煙を放ち、男は人の形をした白い紙に変わっていた。

マキはそれをみて、また深くため息をつき、さっきからずっとついてくる少し離れた斜め後ろにいる人物を睨みつけ、


「…サイカ、きみが悪いよ。どうしてヒメノちゃん…いや、神子様を殺そうとした?」


刀の切っ先をサイカへと向ける。

サイカもサイカで平然と何もないかのように首を傾げ、


「だって、暗殺してこいって匿名から仕事が入ってたから。でもマキがそばにいるって知ってたらこんな仕事受けなかったよ……でも、」


にこりと笑い答えていた表情からは一変し、サイカはマキに抱き起こされ抱きかかえられているヒメノを冷たく見下ろすと、


「やっぱりマキにバレる前に殺さないにしても消しておけばよかった。なんでこんなちんちくりんのことは出会って間もないのにすぐ親しそうに名前やら敬語なしやらなんですか?」

───俺の時なんてすっごく時間かかったのに!


ヒメノを寝台に寝かすマキに問い詰めながら詰め寄った。

それを聞き、呆れた表情を滲ませ、自分もと借りた布団をいそいそと床に敷き始める。

そんなマキにムッとし敷いている布団の上に座り、マキを真っ直ぐ見つめ、


「なんでですか?」


これには流石のマキも諦め、一度手を止めた。


───全く…こういう変に頑固なとこは変わらないな〜

「呼び方や敬語は…えっと、神子様自身がやめてほしいと言ったからだよ」

「そんな理由でっ」

「そんな理由、じゃない。神子様の願いを叶えるのも守護者である僕たちの役目なのだ。ほら、いいかげん降りる!布団敷けないし寝れない!…あと、いつの間にかさん付けぬけてるよ!」


しっしっ!としながらブツブツ言っているマキに納得いかないと表情を滲ませるも布団からどき、布団を敷くのを手伝い始める。

そんなサイカにため息をつくも、頭を軽く撫でながら、


「その…いろいろとありがとう、サイカ」


さっきまでの少し冷めたような声ではなく、ほんわかとした優しさを含む声で微笑んでいた。

そんなマキにサイカは目を見開きながらだんだん顔を赤らめていき、目線をキョロキョロとさせた後、おずおずと目線をマキへ向け、


「い、いろいろって?…俺はお礼言われるようなことしてないですよ」


顔の火照りはとれないものの少し申し訳なさそうにしていた。

そんな姿に笑いをこぼす。


「うーん…町までの道中で僕たちに接触する前に追い剥ぎ連中を追っ払ってくれたこととかヒメノちゃんに殺意を向けなかったこととか…あとは…」

───くそッ!全部知ってたのか!

「もういいでっ」

「分身を使わずにサイカ自身で僕に会いに来てくれたとかかな…」

「ーーーッッ」


嬉しそうに優しく微笑むマキに今以上に顔を赤らめるもサイカはマキを真っ直ぐ見つめその手を強く握る。


「マキッ!俺は昔から言ってるけど、マキのことがっ」

『ぅっ…ぅーん……』

「ヒメノちゃん?…なんだ寝返りか……ん?サイカ?どうしたのだ??」

「…なんでもないです」


サイカ撃沈。

そんな姿に意味がわからず首を傾げるマキなのでした。







ーーー
ーー






『ん……、あれ…ここは…』


ヒメノは目を覚ますと寝てしまいそうな眼をこする。


───そうだ…マキと旅を始めることになって、宿屋さんにきてお風呂に入って…それから…マキがいなくて……マキが!マキは!?


昨夜の記憶を辿りマキがいなかったことに気づき、慌てて辺りを見渡した。

そして、自分の寝ていた寝台から少し離れたところに昨日借りたと言っていた布団の塊をみつけ、


───はぁ〜よかった〜。まだ寝てたんだね。たしか昨日馬に乗ってる時、寝起きが悪いとか睡眠大好きだとか言ってたもんね。…少し驚かしてみよっかな〜


安堵するもすぐにニヤリと笑い、ゆっくり物音をたてないようにマキへと近づく。

そろりとマキが寝ているであろう布団をのぞくと、なぜか布団が異様に膨らんでいることに気づき首を傾げる。


───うーん、抱き枕でもしてるのかな?ふふっなんだかマキかわいい!

『マキ〜!朝だよ〜起き…て……え?』


布団をばさりと捲るとそこにはマキとマキの背中に抱きついて眠る男の姿があった。


───え、え、え……

『えェェェェエ!!!!?』

「うッ!!?なに何!?敵?!敵襲来とかなのか!!??」

「女、煩いよ。大丈夫だから、マキさんは落ち着いて」


あまりの衝撃にプルプルと震えながら男を指差すヒメノにマキは驚き寝ぼけながらも飛び起きる。

もう一人のサイカは平然とした顔でマキの頭を撫でていた。


『もう……朝からわけわかんないよーーー!!!!』






ーーー
ーー





「昨日は寝ずの番してくれるってたしか言ってたよね…なのに…なんで君まで寝てるのかな〜?しかも僕の布団で!ねぇ〜サイカ君」

「寝てません。寝ずの番はちゃんとしましたよ。くっついていたのは…もう離れたくなかったからです。元はと言えば、マキさんが勝手にいなくなったのが悪いんです!」


なんとか時間をかけ誤解やらなんやらを解き、今は三人で朝食…いや、昼食を食べていた。

痴話喧嘩みたいな会話を続けるマキたちをじーっと見つめるヒメノにマキが気づき、朝から疲れたように苦笑いをし、


「朝からごめんよ、ヒメノちゃん。ほんとごめっ」

「マキさんは何も悪くないでしょ。悪いのは勝手に騒ぎまくってたこの女っ」

「サイカ、君はもう黙ってなさい」

「………」

『ぷっ』


マキに叱られて素直に黙るも捨てられた子犬みたいになっているサイカをみてついつい笑いをこぼしてしまう。

そんなヒメノにマキは機嫌がなおったと一安心したように安堵し、表情を緩ませる。

だが、一方では自分をみて笑われたことに不機嫌オーラと敵対オーラをだしながら睨みつけているサイカ。


「なに笑ってっ」

「この子はサイカっていうのだ。まぁ、人見知りしたりするけど基本いい子だから大丈夫なのだ!…ん、ごちそうさまでしたっと」

「…マキさん、会話被るのやめて……ごちそうさま」

『今朝からのマキとの話聞いてたらなんとなくわかるよ!あっ、ごめん!早く食べるね!』

「ありがとう〜ヒメノちゃん。あとゆっくりでいいからちゃんとお食べ〜」


追いつこうと慌てるヒメノの頭を軽く撫で、各々食べ終わった食器などを片付け、宿屋の女将から茶を貰い、また席に座り直す。


『ん、わかった!ありがと、マキ。…でもほんとに仲良いね』

「…当たり前なこと言うな」

───あっ、サイカ君が復活した。

「うーん、そうだね〜」


マキは少し考えながら茶に口づけ


「サイカとは古女房だからね〜」

「ぶッッ!!!!」


ぽつりと呟くと、横に座っていたサイカは茶を吹き出しむせ始め、ヒメノもヒメノで顔を赤らめ持っていた箸を落とし、


ガタッ
『マ、マキとサイカ君って…け、け、結婚して、る、の??!』

「マキさん!やっと俺のことッ」


机に手をつきマキのほうへ詰め寄る。

サイカはサイカで耳まで赤らめマキに抱きついていた。


「いや、暑いから離れるのだ。あとヒメノちゃん、けっこんっていうのは婚姻のことかな?」

『え!?…う、うん。伴侶とかの意味だから』

「なら、違うよ〜」

「え!?」
『え!?』


驚き動きを止める二人をおかしそうに笑いながら、


「あはははは!古女房を文字通りにとっちゃダメなのだ!僕とサイカのは昔から苦楽を共に過ごしてきた相方同士って意味だよ!…ん?どしたの、二人とも」


のんびりまた茶をすすりながら目をパチパチとさせ、二人をみる。


『…なんでもない!ごちそうさまでした!!』

───ふぅ、よかった!…え?なんで安心してるんだろ…私…。

「…なんでもないです」

───あからさまにホッとしちゃって…あの女……まさかマキのこと…


悩みだす二人を優しく見守りながら、マキは突然の再会とこれからおこっていくであろう未来のことを考え始めた。


───こんなふうに旅もすんなり終わればいいのに…。ヒメノちゃんが、神子様が傷つかずに…何も知らぬまま…終わればいいのに…。








【旅、始まったばかり、なれど守護者、神子のもとへと集い始める。神子、今はまだ、虚ろで優しい夢をみる。そんな神子をマキは優しく見守るも、心に浮かぶは未来のことばかり。未来で傷ついていく神子の姿ばかりであった。】







第五章ー完ー

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