創作夢ver.長編

□第四章
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【刻、動き出す。一刻の猶予もないこの広き世から守護者を集わすべく、神子とマキ、旅立とうとしていた。】




「いや〜、晴れててよかったですね!ほんと最高の旅日和…だ…よね〜……み、神子様〜?」

『……ふんッ!』

「えぇ!?そ、そんなに怒らなくても………やばいです泣きそうですどうしましょう僕」


何故こんなふうになっているかというと、少しだけ遡って三時間前。

いつの間にか泣き疲れ眠ってしまっていたヒメノが目を覚ますとすぐに太一君からお呼びがかかり、マキと一緒に昨日訪れた広間へと足を運んでいた。


───『えぇ!?わ、わ、私も旅にですか!!?』

───《そうじゃ!昨日マキからも聞いたじゃろ。わしも説明したしな。元いた世界に帰りたいなら、神子としての使命を果たすことじゃ!じゃから、まずはマキと共に守護者を全員集めて来い!!!…マキ…頼んだぞ》

───「うわっ……丸投げしてきたよ〜このおばあちゃん」

───《な・に・か・言っ・た・か?》

───「……いえ何も」

───『私に旅なんて無っいゃぁぁぁ!?!??!』

───《文句は聞き飽きた!少しは行って見てから判断せい!!》

太一君の意地の悪い言葉と高笑いを聞きながら、ヒメノとマキは突然床にできた穴に落とされ、どんどん滑り降りていく。


───いやはや、僕は慣れてるし風の力もあるから大丈夫だけど…ヒメノちゃんにはやっぱり刺激が強すぎだったよね〜実際途中から気絶してるし


マキはいち早く気づき、気絶したヒメノを抱きとめ無事に地面へと降りる。

あとは適当なとこから馬を借り、気絶したままのヒメノを前に乗せ、一番近くの町へと馬を走らせていた。

そして…やっと目が覚めたヒメノは何故かご機嫌斜めで……一番最初へと戻る。


「神子様〜…えっと、そろそろ機嫌を〜」

『…それ』

「ん?」


そっぽを向いたまま前を見続けていたヒメノが今以上に不機嫌な表情をうかべ、後ろで手綱をひいているマキへと振り返り、


『その神子様っていうのやめてほしいんです!私にはちゃんと高坂 ヒメノって名前がありますから!あと変な敬語も使わないで!!』

「は、はぁ…わかった…じゃないですよ!そんなこと言われても困るのだ〜」


呆気にとられ、ついつい返事を返してしまうの慌てながら訂正をする。

そして、困り顔のマキをみてヒメノは不思議に思うも───私だって嫌なものは嫌!意見を曲げたりしないんだから!!と少しキツい目線を向ける。


『なんで困るんですか?あと敬語やめてください!たまに敬語なくなってますよ』

「うーん、神子様は守護者にとって主みたいなものだからね。それにこの世にとって厄災を祓う救世主みたいなお方だから…普通に接するのはダメなんじゃないかな〜と思いまして…あはは、は、は……あと気が抜けたりすると敬語なくなるのは癖です、はい…」

『ふーん』

「いやいや、ふーんって…そんな全く興味ありませんし関係ありません!みたいな顔されても…」


マキはもう何度目かもわからないため息を吐いた。


『わかっているなら、そういうことです!ここのことなんて全く知らない私には何にも関係ありません!!私は私です。神子様なんて名前じゃないんです…わかってください……』

「……はぁ…わかったのだ。神子様じゃなくてヒメノちゃんって僕は呼ぶね」


その一言にヒメノは嬉しそうにみるみると表情をほころばす。

そんなヒメノをみて、───あんな泣きそうな顔で言われると…仕方ないよな〜、とはしゃぐ相手の頭に軽く手を乗せ苦笑いを浮かべた。


「た・だ・し!臨機応変に呼び方や敬語を使い分けるからね!あと僕以外にはなるべく呼び方やら敬語やらの文句は言わないように!」

『はーい!』

「あらら〜良いお返事だね〜…まぁ、少しは元気になってくれたなからよかった………あぁ〜、ヒメノちゃん」

『どうしたの?』

「ヒメノちゃんのほうこそ敬語とさん付けやめてほしいのだ!」


ヒメノはまたも顔をほころばし、


『うん!ありがとう…マキ!』


頬を赤くし笑いかける。

そんな表情に少し驚くも、自分も微笑み返し、


「こちらこそなのだ!それじゃ、楽しいお話しは一旦終了にして、日が暮れる前に町に着きたいから…うーん…少し飛ばすけど大丈夫かな?」

『た、たぶん!』

「あはは!返事になってないよ〜。なら、辛くなる前にすぐ言ってね。速度落とすなりなんなりするから」

『う、うん!よろしくお願いします!!』

「はーい。それじゃ…行くよッ」


マキは馬をなるべく揺らさぬように風の力を使いながら走らせた。








あれから数刻が過ぎ、日がくれ始めているころ、ヒメノたちは目的地である町にきていた。


「ふわぁぁ、つっかれた〜……ヒメノちゃんは元気だね〜なんででしょうか〜ね〜?」


大きな欠伸をこぼし、結構な距離を気遣いしながら馬を走らせたため疲れ切った身体を引きずるマキに対し、目をキラキラさせ町を見渡すヒメノに不思議そうに呟く。


『だってこんな景色はじめてだから!すごいよね!なんだか中華っぽい建物ばっかり!』

「うーん…そんなに珍しいんだね〜。ヒメノちゃんがいたとことは違うんだ」


マキが聞き返すと、町を見渡したまま、うんうんと何度も首を縦にふった。


「ほらほら、もう宿屋に行くよ〜!…あんまりキョロキョロしてると確実に変な余所者って思われるから」

『違う場所からきたって思われるのダメなの?』

「まぁね…戦ばっかりだからこんなふうに小さい町とかは余所者をあんまり受け入れてくれない場合があるんだよ。だから、さっさと宿屋行くよ〜」

『わ、わかった!』


変わったものをみるようにチラチラとみてくる町人たちに少しビクつきながらヒメノは足を早めながらマキについていく。

どれくらいか歩き突然マキが立ち止まり唸り始める。


「うーん…たしかこの辺りに宿があるはずなんだけどな〜」

『…マキってもしかして方向音痴とか?』

「し、失敬な!方向音痴じゃないよ!…たしかさっきのとこを左でそれからすぐの突き当たりだったはず」

『ねぇ、マキ』


宿屋までの道順を思い出すようにブツブツ思い返していると、ヒメノがおもむろに肩を軽く叩く。

それに気づき、顔をそちらへ向けるとヒメノは少し後ろを指差していた。


『さっきのとこ…たしか私たち右に曲がってたよ』

「…え?」


ヒメノの一言に少しの沈黙が流れた後、マキはヒメノの手を引いて来た道を少し戻り、角を左に曲がると、


「おや?いらっしゃい。宿泊かい?ほら、中に入んなさいな」

『…どう見ても宿屋だね。実際、綺麗なお姉さんが入り口掃除してて優しく声かけてくれたし…ね?』

「あは、は、は……ずびまぜん」


古びてはいるが少し大きな宿屋があった。








部屋へと入るや否やヒメノはまた瞳を輝かせて部屋を見渡した。

そんな姿をみて、───はしゃぎまくりだね、と苦笑いを浮かべ荷物の整理などをし始める。


『うわ〜、お布団がある!あれ?でもベットもある?なんで??』

───ベっと?あぁ、寝台かな。

「さっきの綺麗なお姉さんに頼んだんだよ。ここ一人部屋だしね〜もう一つお布団貸してほしいって。だから、ヒメノちゃんは寝台で僕は布団ね〜」

『えっ!?でもマキのほうが疲れてっ』

「それはないよ、大丈夫。それにヒメノ今はそんなにはしゃげてるけどすぐに疲れがでて辛くなるから、早くお風呂入ってもう寝ること!ほら、早く早く!!」


マキは早口で言いながら、持ってきた夜着を渡し、ヒメノの背中を押す。

そんなマキの行動に慌てるも、渋々頷きお風呂場へと向かい歩き出す。


「あっ!ヒメノちゃん!疲れとかとるようにゆっくり浸かるんだよ〜!あと服は手洗いだからね〜!詳しくはさっきの綺麗なお姉さんが全部教えてくれるからね〜!」


やや大きめな声で言うマキにヒメノは少し顔を赤らめ、


『もう!わかったから!そんな大声でいわないで!!恥ずかしい!…いってきます!』

「はいはーい」


後ろを振り返り負けずと声をあげ走り出す。

そんなヒメノをマキは軽く手をふり見送ると部屋へは戻らずに何処かへと足を運び始める。


「全くもう……なんでこんなに早いかな〜」


ポツリと呟き、少し足を早める。






マキは一人宿屋の裏にある山の中へときていた。

少し目を閉じ、辺りの気配を探る。

何かを感じとり、ムッとした表情を浮かべ目を開けると風がざわめき始めていた。


「…こら〜!いつまでもかくれんぼしてないで出てくるのだー!!」


呆れたような怒ったような声を真っ暗闇の中に放つと、突然強い冷気を含んだ風が吹く。

寒さと美しく舞う木々の葉の中に一人。

狐の面を被る者が立っていた。


「もう!なんでこんなところにいるの!?」


狐の面の者は黙ったまま。


「……一々名前呼ばないと返事も返してくれないのかな〜」


怒り気味に目元をひくつかせ、こめかみを抑えるマキ。

しかし、相手は黙ったまま。

それに耐えきれなくなったマキは少し足早に歩き出し、


「いいかげんにするのだ!いつまで拗ねてるつもりかな〜!」


ただただ立っているだけの其の物の目の前に立ち、大きなため息を一つ零す。


「どれだけ一緒にいたと思ってんですかね〜気配なくてもなんとなくわかるよ。元気そうでよかった……なんか喋ってほしいな〜寂しいから…ね、」


その言葉をききながら、其の物は面の紐をとき、そのまま地面に落としていた。


「サイカ」


マキがその名前を口にした瞬間、その狐の面をしていた者【サイカ】はマキに縋り付くように抱きしめていた。


「…逢いたかった…やっと見つけた……見つけられた」







『あれ?マキいない…』

───何処行ったのかな?…まだまだ話聞きたいのに……いっぱいお礼も言いたい…のに…眠気が………あ、れ?


バタリと部屋の入り口に倒れるヒメノ。

その近くにふらりと現れた影はヒメノに少しずつ近づき出す。





【小さな町、新しいこと、知ること、再会、深く深く眠りに落とされた神子、その近くに不吉な予感、旅はまだ始まったばかり、しかし影は待ってくれず、夜はまだまだ続く。】




第四章ー完ー

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